プロローグ
空を見上げるとそこには満天の星空。
万人が美しいと言うだろうその景色を綺麗だと思わず、星空だな……とすぐに地面に視線を落とす。
緑川 緋乃23歳
家で当たり前のようにやってくる明日を疑う事なく携帯弄ってたはずの私は自分の瞳に映る輝く星空に絶望した。
「どこだよ此処」
見渡す限りの木々は此処が森もしくは山の中であると判断する材料にはなるが、私はそこに希望のかけらも導き出せない。
人の気配もなく、月明かりだけが頼りの暗闇にはただ虫の声のみが響く。此処が日本であるならば、危険な野生生物は熊や猪、猿等、限られてくるが……とてもじゃなく私には此処が日本の山中だとは思えなかった。
何故なら、自らの意思でこの場に来たわけではないからだ。私の今の装備はショートパンツにカップ付きのキャミソールのみの超スーパー軽装備。山に入る装備ではもちろんないが、外に出る格好でもないし人前に出る格好でもない。誰が好き好んで虫やら爬虫類やら獣やらがいそうな場所にこんな軽装備で乗り込むものか。
足を動かせばジャリ……と素足に石や落ち葉の感触がリアルに感じられて不快感でいっぱいだ。足の上を蟻が歩いたきがしてゾワリと足元から全身に鳥肌が立った。
「っ」
声を出さずに眉間にしわを寄せる。
もう、ヤダ
暗闇の大自然に恐怖心を抱かないわけはない。キュゥと心臓のあたりが縮むような不安に苛まれながら生きている事、息をしている事が嫌になってくる。
いったい私が何をしたっていうんだ。
さっきまで家に居たのに、気付けば野外に着の身着のまま放り出されている。前世で何をしたらこんなクレイジーな状況に陥るのさ。
まさかだが、自分で今の状況を作ったんだとしたのなら、不審者ヨロシクな格好で自らの意思で家をでて? 車でも近くの山まで一時間はかかる距離をどうにかして移動して? 山中に裸足で分け入ったが、その一部始終を忘れてしまっている……ということになる。
夢遊病? 精神疾患?
なんて、考えるのも現実逃避だとわかっている。
深い息を吐いて頭を抱えるが思い当たる節は一つしかない。
ほんの数分前の出来事
休みの日に家で携帯を弄りながら、明日仕事行きたくねぇ……とか、日が暮れて明日が近くなるのを憂鬱に感じながらソファーに転がってたんだ。
一人暮らし、彼氏無し、来客予定無し。よって、どんな格好をしていても誰も咎めない!! 自由!! そしてハッピー!! とか、考えもしないが……いつもの如く自堕落決め込んでた私の視界に突然うごめく白くて長くて鱗を持った様なモノが入った。
「ッ」
声を上げずに飛び上がった私はその白い物体が何かを認識。
すると、瞬きした次の瞬間には満天の星空だ。
瞬間移動?? ワォ! すごいね。
超能力だね。超常現象だね。
………………
意味わかんねぇよ。
感性が人と違うのか、昔から青い海を見ても「海だな」としか思わないし、イルミネーションを見ても「スゲー電飾」としか思わなかった。
綺麗か汚いかは判断できるけど、綺麗なモノを見たからといって感動できるわけではない無感動な性格だと自分でも思う。
そんな私だけど現状に動揺しない訳はないからな?
動揺しまくって、変な汗ダラダラだからな?
「………………」
アレは確かに蛇だった。
しかも、白い蛇だった。
だからってそれがなんだよ。
どうしていいか分からず頭を抱えて座り込んだ。