第八話 海
今日も朝が始まった。
「フルダイブ、と」
ギアを頭に装着し速攻フルダイブする。
フレンドリストからツルギを確認すると同じくログインしていることを知る。
ツルギに耳打ちして居場所を聞き出そうとしている最中の出来事だった。
後ろから足音がゆっくりと近づき、ボクは何者かに両手で目隠しされた。
「誰だと思う? 当ててみて」
「ツルギでしょ?」
「正解!」
ツルギの目隠しから解かれた。
「海、行くんでしょ」
「行こう!」
山から下りて平地を歩き川沿いにある農村を通り過ぎ、ひたすら歩き続けた。
歩く事リアルタイムで1時間。
そして目的地の海へと到着したのだった。
普通は馬とかペットに乗って移動するとすぐに移動ができるらしいけど現在は移動手段を徒歩だけに縛っている。
正直言ってゲーム内の移動にリアルタイムで1時間とかバカらしいよ……。
「ミツルくん。夜になるまでその辺で釣りでもしようよ」
「いいよ」
適当な場所に立ち釣りを始める。
優しい風と波の音に心が癒される。
夜になったら二人だけで花火、か。
やがて夕日になり地平線がゆっくりと夕焼け色に変わっていく。
そんな静かな一日の終わりをツルギと眺めながらぽつりぽつりと話を始めた。
「モンスターも釣れるらしいから、ミツルくん気を付けてね」
「強いモンスターが釣れるの?」
「うん。でも大丈夫、私こう見えても、結構レベル高いから」
「ツルギはレムオンで旅人をしているだけで戦闘なんて興味ないんだと思ってたけど」
「最初は普通にフルダイブ型vrmmoをしてたんだけどね……ある日レベル上げがつまらなくなったの」
「普通のゲームプレイに飽きていたところに『黒猫』と出会い旅人ロールプレイに目覚めた、と?」
「そういうこと」
しかし本当になにも釣れない。
ツルギは爆釣なのに……。
「ボク、釣りのセンス無いのかな」
「たぶん釣りスキルが適正じゃないからかなぁ……」
「まぁ釣れなくても楽しいからいいよ」
「私、ご飯休憩してくるね。1時間くらい離席~」
「じゃあボクも」
レムオンは現実を忘れさせるとともに再確認させる不思議なゲームだった。
ボクはレムオンの世界を楽しむごとに、現実を再認識し始めていた。
『変わらなきゃ』
心に芽生えた確かな気持ちに嘘をつきたくない。
その後、海辺でツルギと二人だけの最後の花火が始まった。
楽しい時間は一瞬ですぎていった。
線香花火を最後に二人で始めた。
長く線香花火を灯した方の勝、というありがちな勝負を始めた。
「あ」
結果はボクの負けだった。
ツルギの線香花火はボクの線香花火の倍以上は長く灯ったのだった。
ボクはツルギと視線を合わせて決めたことを言った。
「ツルギに言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「え、なになに?」
ボクは心に決めたことを言った。
「ボクは変わりたい。一緒にレムオンを止めない?」
「……」
ツルギは表情を変えずにその場でフリーズした。
それでもボクは話を続ける。
「今度のスクーリング日に、現実で二人、話し合おう」
突然の言動に戸惑っていたが、ツルギはハッキリと頷いて見せた。