第七話 夏
ボクとツルギは街の外れにある山を歩いていた。
沢を見つけるとツルギは一人で進んでゆき川遊びを始めた。
ただその光景をボクは見つめていた。
「あははっ」
子供みたいに無邪気なツルギを見てなんだか照れくさい。
一緒になって遊びたい気持ちを抑えつつ考え事を始めていた。
今思うとこうやって人と遊んでいる時間って今までの人生でほとんど無かった気がする。
フルダイブ型vrmmoではツルギが間違いなく初めての人だし。
まるで夢でも見ているような気分だった。
ボクはゆっくりと沢へ入っていった。
足が僅かに冷たくなった気がする。
ふとなぜフルダイブ型vrmmoの世界で現実でもできる遊びをしているのか空しさを感じたのだった。
レムオンを通して現実を投影した世界で遊ぶという行為に違和感を覚えた。
でもすぐにその迷いは消えていった。今が楽しければそれでいいのだ。
結局のところ楽しもうという心が大事なんだ。
ゲームだろうが現実だろうが関係ない、と思うことにした。
「ねえツルギ。ボク達って現実に居場所が無いから、ゲームの中で現実にできないことをやって、満足しているだけなのかな?」
「え、どういうこと?」
「もしかするとボク達は現実から置き去りにされた存在で、だからこうやってゲームの中に現実を持ち込み投影しているんじゃないかって。これで伝わるかな?」
ボクの問いにしばらくの間があった。
そしてツルギは何かを悟ったように言い放った。
「それでもいいと思うよ。これが……ミツルくんと私の『青春』、じゃないかな」
「……うん」
やがて夜が訪れた。
静かなレムオンの闇に溶け込んだようにボクたちは沢沿いに歩いていく。
そして、夏の風物詩である蛍と出会った。
思わず声を出した。
「蛍だ!」
「うわぁ、綺麗!」
幻想的な命の光に包まれるように目の前が明るくなる。
冷たい石の様な心に温かい光が心地よい。
蛍の光を眺めながらボクとツルギはぼーっとしながら話し始めた。
「ツルギ。明日はどこへ行こうか?」
「明日は海に行こう。そこで花火をしてみたいなぁ」
「花火、か……」
花火を誰かと一緒にしたことなんて今までなかった。
家族とも花火なんてした記憶が無い。……友達とも。
「花火と、それから黒猫からもらった釣り竿もあるし海辺でのんびり釣りでもしたいかも」
「私も釣り竿あるから一緒にしよう!」
「……うん」
最初、ツルギに抱いていた印象は大分変わっていた。
ツルギはボクと違い素直で大人だ。
人を許し寛大な心を持っている。
そしてレムオンでの旅を心の底から楽しんでいる。
一緒に居るだけでそういう心は伝染するものなんだな、と気付かされた。
蛍の優しい光を楽しみながら、ふと黒猫が今どこで何をしているのか? 思いを馳せる。