第三話 楽しみ方……?
ちゅんちゅん。
今日も朝が来た。
退屈な一日の始まり。
ただただ退屈な生活の始まり。
夢も希望も無い。友達も居ない。
ベッドから起き上がり洗面台へ向かう。
冷たい水道水で顔を洗う。
部屋にはボクのPCとツルギが無理やり押し掛け置いて行ったもう一台のPCが並んでいる。
ツルギは一応女の子とは言えボクの家に不法侵入しPCまで持ち込み去っていった。
今日もツルギはレムオンをボクとする為に押し掛けてくるだろう。
その前にツルギのPCを物色することにした。
PCの起動ボタンを押す。
しかしツルギのPCを覗き込むにはパスワードが設定されているのでできそうにない。
「ふむ……?」
パスワードをでたらめに打ち込み突破を試みるが無意味に終わった。
ログインできない。
ま、最悪ツルギの粘着が酷いようならこのPCをぶっ壊し追い返そう。
レポートは終わったので有り余る時間を寝て過ごすことにした。
眠りを妨げるツルギを家には入れないと決意してベッドに寝ころんだ。
目蓋が重くなり眠りへとつく。
……と、激しく扉を鬼のように叩き続ける騒音と共に眠りから覚めた。
ガンガンガン!
はいはい、ツルギツルギ。
次来たときはツルギのPCを破壊してやる。
が、昨日ツルギの言っていたレムオンの楽しみ方とやらを聞きたいので今回は見逃す。
扉をひょいっと開けて見せる。
案の定勢い余って扉を叩いていたツルギはボクに覆いかぶさるように振りかぶった。
体に触れる一歩前に素早く体を横に移動する。
ツルギはそのまま地面とキスをした。
「痛いなあ……さあ、レムオンするわよ!」
地面から勢いよく立ち上がりボクとツルギのPCを順番に起動させる。
そしてギアを装着させられ無理やりレムオンにフルダイブした。
フルダイブして早々にボクは疑問を投げかけた。
「ねぇ、昨日言ってたフルダイブ型VRMMOの遊び方教えてよ?」
ツルギは待ってました! と言わんばかりに豹変して興奮し話始めた。
「ミツルくんは言ってたよね? レベル上げて強いモンスターを協力して倒して、アイテム手に入れて、売って買って。昔からやってることが変わらないって」
「言ったけど?」
「アイテム合成したりお店開いたり、まぁ他にも遊び方は色々ある訳よ。簡単に言えばプレイヤーの数だけ遊び方がある、って言っても良いと思うの」
「ふーん?」
「でさぁ……まずは何も言わずに私のフルダイブ型VRMMOの遊び方に付き合ってくれないかな? 流石に無理やりにって訳にはいかないけど……。きっとミツルくんにとって悪い経験にはならないと断言できる自信があります!」
「そう自信満々に断言されても困るよ。じゃあさ、もしツルギ流の遊び方に少しでもボクがつまらないと思ったらそのPCを持ち帰り二度と関わらないって、約束できる?」
その言葉のあとに少しだけ二人の間を不思議な時間が流れた。
ツルギはしばらく黙った後、ついに言った。
「いいよ。約束する。約束するって」
個人的には楽しくてもつまらなくても構わない。
ツルギと関わらないで済むという口実が欲しいだけなので何が起きてもつまらないと返答することにした。
ただ、ツルギ流の楽しみ方という奴に少しだけ興味を引かれているかもしれない。
ツルギとボクはレムオンラインの世界を歩き始めた。
この世界の地図も手に入れていないのでどれくらい広がっているのかもわからない。
まるで初めての街に着て散歩をしている時の様な気分の高揚を感じていた。
現実と錯覚してしまうほどフルダイブという物に感動している。
そんなこと言ってもたかがゲームだろ。
美しい世界って言ってもただのテクスチャだろ。
そんなことを思いながらツルギの後ろをついていく。
連れられてきた場所は街から少し離れた場所にある山道だった。
「今からここを登るわよ! あ、言い忘れてたけど敵には手出ししないでね? 私が片付けるから」
「はいはい」
とにかくめんどうくさい。
なぜゲームの中で山登りなんてしなきゃいけないんだ。
あ~早くつまらない宣言して、さっさとツルギを追い返してベッドで寝てたい。
ベッドで何もしないで寝ている時間が至高。