第二話 二人並んで
ちゅんちゅん。
また朝が来た。
頭が重い。
昨日寝た時間が昼の2時だったから、16時間は寝てたのか?
洗面台で顔を洗う。
携帯を確認するとツルギからメッセージが100件近く着ていた。
「え……?」
恐る恐る最新のメッセージを確認してみると恐ろしいことが起きようとしていた。
『もう我慢できない! 今からミツルくんの家にPC持っていくから! これでもう絶対に逃げられないからね?』
PCを持ってくるってどういうこと?
頭の中が朝から混乱した。
とりあえず家の鍵を全て掛けた。
その時だ、家の扉をガンガンと叩き続ける音が始まった。
「おーいミツルくん! 早く家の扉を開いて!」
ガンガンガン! 鳴りやまないツルギが扉を叩き続ける音。
鬼のように扉を叩き続ける。
このままじゃ近所迷惑になってしまう。
ボクは折れて玄関を開けた。
そこには大きなPCとギアを手にしたツルギが立っていた。
「ま、まさか家からPCとギアを持ってきたの?」
「見ればわかるでしょー? さあミツルくんの部屋へ行くわよっ」
自室に押し掛けてきたツルギは、手に持っていた重そうなPCをボクの机に並べて置いた。
勝手にボクの勉強机を広げてそこに座ったのだった。
「じゃあミツルくん。ギアを装着して、レムオンを一緒にするよ!」
「ちょっと待ってよ。こんな大きなPCを持ってきたことにも驚いてるけどボクはレムオンする気ないから」
ツルギは大げさにため息をして見せた。
「はぁー。一度レムオンして、合わないと思ったら止めればいいだけだよ? さ、四の五の言ってないでさっさとギア。装着装着!」
「……わかった」
ツルギに押し切られる形でREM ONLINEにログインした。
二人はギアを頭に装着しフルダイブする。
「ねぇツルギ。レムオンってどんなゲームなの?」
「剣と魔法とファンタジーな世界のゲームだよ。みんなで協力して強いモンスターを一緒に倒す! そしてレアアイテムをゲットする」
「それだけ?」
「楽しみ方はそれだけじゃないよ。まぁやればわかるって。まずは私とパーティ組んで!」
ボクは呪文使いでツルギが剣士。
なんだかんだでツルギとやるレムオンは新鮮で楽しかった。
その辺の雑魚モンスターを倒し経験値を手に入れる。
そして装備を買ったり物を売ったり。
昔から変わることのない味。
「ミツルくんなんだかんだで楽しんでるね。やっぱり私の目に狂いはなかった! ってところかな」
「いや? 楽しんでないけど」
「嘘言うな―! 絶対楽しんでるでしょ? 私にはわかるんだから」
「楽しいけど楽しくない。いい加減同じことを繰り返しすぎ。フルダイブできるだけで、昔からやってることは普通のMMOじゃん。なんでこんなゲームが流行ってるわけ?」
「一番人口が多くて手ごろなフルダイブ型vrmmoだからかな? あとグラフィック。すごく綺麗でしょ?」
「どうでもいい。ツルギ、むかつくから家に帰ってよ」
「じゃあさ。このゲームの、世界を旅してみない?」
「旅……?」
「きっとミツルくんの考えも、変わっちゃうと思うよ」
「そんな簡単に変わらないよ。絶対に」
ツルギの唐突な提案により一瞬心が揺らいだ。
確かにこの美しい世界を旅してみるのも面白いかも、と少し期待している自分が居た。