第十一話 触れる
ツルギと一緒に星空を見上げた場所へ着いたのがゲーム内時間の夜9時だった。
街の灯りが届かない暗闇に一つ、二つの灯りがゆらゆらとゆらめく。
ツルギは丘の上に座り星空を一人眺めて何かを考えていた。
まだボクの存在に気付いていないので、大きな岩の影に隠れて出るタイミングをうかがった。
なんて言おうか迷っている。
素直に謝るべきなのか、それとも普段通りの顔で現れるべきなのか?
何はともあれツルギと話したかった。
ボクはゆっくりとツルギの前に立ち、言葉を発した。
「ツルギ……」
ツルギは最初突然のボクの登場に困惑していた。
視線を合わせてくれない。
「……ミツル、くん」
そう一言だけ呟くように言って視線を地面に落とした。
「ツルギ。謝りたくてここに来たんだ。ボクは君をなにも知らないのに適当なことを言ってしまった。本当にごめん」
「あ、謝らなくてもいいよ。私が普通のプレイヤーじゃないのは理解しているし、他人からしたら理解できないプレイスタイルだし。……ここ、座りなよ」
言われた通り隣へ座った。
「ねぇ、ボク分かったことが二つあるんだ」
「え……聞きたいな。教えてよ」
「ツルギは孤独を愛している訳じゃないってこと。それに、現実逃避をしている訳じゃないってことを……」
「どうかな。人にどう思われようと、私は旅が好き。このレムオンを旅するのがね。実は自分でも自分の事をちゃんと理解していないのよ。明確な旅の目的も……あはは」
「ねぇミツルくん。ちょっと手、握っていいかな?」
ツルギはそっとボクの左手を握ってきた。
「……」
「どう? 熱、感じるかな?」
「温かい、かも……」
「ゲームなのに、可笑しいよねっ」
「初めてツルギに触れた気が、する」
「え、どういうこと?」
「ツルギの心に触れた気がした。思い過ごしかもしれないけど」
しばらくツルギの手に触れた後、急に照れくさくなり、その手を離した。
「ミツルくん。もう一つの分かったこと、聞かせて」
ツルギは星空を優しい目をして見上げている。
ボクも星空を一緒に眺めながら言った。
「ボクは人が嫌いだ。孤独を愛していた。でも今は、少し人を知りたいと思い始めてる。……ツルギのおかげだよ。ありがとう」
「ふふ。私も分かったことがあるよ」
「え?」
「ミツルくんは人嫌いじゃなくて、実は誰よりも人が好きなんだって事」
「……初めて言われた」
ボクが誰よりも人が好き? そんな訳無い。
だがツルギに言われるとちょっとうれしい気持ちになった。
「ボクとツルギはこれから別々にそれぞれの旅をしよう。時の風に身を委ねるのもいいんじゃないか、って思うんだ」
「それも面白いね。きっとレムオンのどこかで、またすぐに出会うと思う」