第十話 日常
朝。今日の予定を確認する。
何も予定などは無い。
友達と遊ぶ予定も誰かと会う予定も。
何も無い当たり前の日常が始まった。
そんな日常を少し変えてくれたのが、ツルギの教えてくれたレムオンだった。
でも……なんだかレムオンにログインしてツルギと一緒に旅をする気分にはなれなかった。
ツルギの抱える心の問題とボクの抱える心の問題は共通点などないんじゃないだろうか……?
人が楽しいと思ってやってることを邪魔するほどボクだってバカじゃない。
レムオンを辞めさせようとした自分を今になって責める。
「はぁ~……」
いつも通りベッドに寝転がり、何もしない『至高の時間』が訪れた。
いつまでもゴロゴロしているこの時間が一番の楽しみだ。
独りには慣れているので別に寂しいとか感じることもない。
ふとツルギが今、一人でレムオンを旅している風景を想像してみた。
ツルギはボクをレムオンに誘い旅友になった。
つまりツルギは一人旅に飽きて、旅友を探していたという訳だろう。
それはツルギが、孤独を心の底から愛している訳ではない証拠。
「独り、か……」
気が付くとボクはギアを頭に装着しフルダイブしていた。
フレンドリストからツルギの居る場所を確認する。
「あの場所か」
あの場所。
一番最初にレムオンで旅した場所だ。
ツルギ流のレムオンの楽しみ方を教えてもらった場所。
ボクは歩き始めた。
目的地に到着。
しかしそこには誰も居なかった。
「じゃあツルギは何処に……」
一緒に日の出を見た場所。
そこにツルギの姿は無かった。
黒猫と出会った滝つぼも通ってみる。
そこにも誰一人いない。
「……」
気が付くとボクは滝つぼで釣りを始めていた。
目標はザリガニを一匹でも釣ること。
この前はリアルタイムで30分粘って、一匹も釣れなかった。
「なんで釣れないんだ」
餌が悪いのか釣りのセンスが無いのか運が無いのか知らないが、一匹も釣れない。
釣りを辞めてゆっくりとその場から立ち上がる。
同時に心を虚無が支配した。
一人でレムオンを旅することがこんなにも虚無感があるなんて。
今もツルギはボクと同じように虚無感を感じているんじゃないだろうか?
楽しいひと時を誰とも共有せず、ただ一人で感じるだけの毎日。
ツルギの抱える心の闇、旅を続ける目的……。
山道を一人で歩く。
川沿いの道を一人で歩く。
ボクは星空を一緒に見たあの場所を目指して居た。
ツルギがそこに居ると信じて。