第九話 リアル
今日はスクーリング日。
教室と呼ばれる場所へ行きツルギに言わなければいけない言葉を胸に秘め部屋を出た。
いつもはこのスクーリングという行為に『めんどうくさい』としか思えなかった。
高校卒業資格のため、そう思い込むことでなんとかモチベーションを保ってきた。
だけど今日のスクーリングは少し違った。
ツルギにリアルで会うため、そして告げなければいけない言葉がボクを突き動かした。
駅から歩く事数十分。
夢も希望もない教室へ到着。
教室を見渡すとツルギの姿はまだ見えなかった。
途端にツルギとレムオンを旅した時間が夢だったんじゃないか、と思えてくるから不思議だ。
いつも通り机に突っ伏す。
ボクは気付いてしまった。
なにも変化を望んでいないのはボク自身に原因があると。
でも、どう変わればいいんだ?
今まで人と目も合わさず会話を拒み空気になることを徹底してきたボクがある日突然、陽気に喋り始めたら気持ち悪くないか?
結局のところこの教室に希望は無い。
気分が最高に落ち込んでいる時に、後ろから聞きなれた声がした。
「ミツルくん。おはよう」
ツルギだ。ボクは照れながら挨拶をした。
「おはよう。……ツルギ」
次にボクは胸に秘めた言葉をツルギに告げた。
「レムオン、一緒に辞めないか?」
「私、辞めたくない」
「またあの世界を旅して、現実逃避してどうなるんだよ? いっその事辞めて――」
ボクがそこまで言葉を発した時、ツルギは感情的になって言葉を遮った。
「あの世界は、レムオンは、私の望んだ世界そのものなの」
「……!」
「私は、レムオンに助けられた。ミツルくんには理解できないと思うけど、ね」
ツルギは、レムオンに助けられた……?
言葉がでない、ツルギがレムオンをする理由……深い理由があると初めて知ったのだった。
そして時は過ぎ授業が始まった。
授業後、ツルギはボクを避けるよう一目散に教室を出ていった。
人の心へ入りすぎた。
そもそもレムオンをなぜ一緒に辞めようという提案をしたのか?
それは現実で満たせない気持ちを現実逃避するためにレムオンをしていたボクが居たからだ。
だからツルギも同じなんだと心の中で勝手に思い込んでしまった……。
ツルギがレムオンで旅を続ける本当の理由はまだわからない。
だがその理由を一歩一歩理解していくことは可能のはず。
居ても立っても居られなくなったボクは教室から走りだす――
ボクは表面しかみない人間が嫌いだった。
出会って数秒で人の事をわかったつもりでいる奴が憎かった。
それなのにボクはその側に知らず知らずのうちになっていたのだと気付かされた。
ボクはツルギの事を一ミリも理解してなどいない。
いや、人を一ミリも理解していないの間違いかもしれない……。