異世界は一瞬の煌き (第7部)
暫く上空を滑らかに音も無く
飛んでいたが
楓と隆史の目に飛び込んできた景色
見慣れたはずの景色
されどそれは無惨な姿となった建物だった
その上を…複雑な心境で通り過ぎる
かなえ「もう少しで着くわ」
更に進んで行く…
2人の視界には初めて見る都市が見えてきた
その一角に、静かに降りていった
戸惑いながらも、目を奪われる美しさだった
白が基調とされている建物で
薄っすらと光を帯びている様に思えた
かなえ
「着いたわ」
2人が降りると、かなえは椅子状の乗り物に
手を翳し家の真上へフワリと浮遊させた
かなえ「どうぞ入って」
隆史と楓は促され家へと入った
隆史
「ここは、僕達がいた世界の…未来の姿なのかい?」
楓も隆史の傍でかなえの返事を
身動ぎもせず待っていた
かなえ
「あ~…そうね…少し違うかしら?…だけど安心して、
あなた達の事は知っているわ…」と
意味ありげに微笑む
楓「かなえ?さん…教えて!ここは何処なの?」
かなえは微笑みを浮かべ
2人に椅子に腰掛けるよう促した
楓と隆史は、はやる気持ちを抑えながら腰を下ろした
かなえ「あなた達が来た世界と
私がいるこの世界はまた別の世界なのよ…」
かなえの話を2人は身動ぎもせず聞き入った
かなえ「あなた達か居た、世界は…
楓さん、あなたがいた世界のパラレルワールドなの
そして、ここもまた、そのパラレルワールドなのよ」
楓は自分の理解を
遥かに超えた内容に、ついていけずにいた
隆史は、かなえが話す内容を、理解している様だった
かなえが話してくれた内容は…
衝撃的なものだった
楓がいた元の世界から
隆史の居るパラレルワールドへと、楓は来た
けれどその時
楓が隆史の居る異世界ヘ来たことで
また新たな異世界が出来てしまった
そして、それは更に別の異世界をも
生み出し続けているのだという…
人生の選択は、幾つもに分かれている
その選択によって、枝分かれし
そこから選択しなかった、その世界も平行に並び
別の世界が生まれる
選択する度に、幾つもの世界が存在している
普通なら、交わることのない世界なのだ…と
けれど、ある日
楓は、異世界のかなえと出会い
そして、かなえの居る世界へと行った
その事で、この世界が出来たのだと
かなえと名乗る女性は話してくれた
楓は漠然とは 分かるものの…
理解までには、至らなかった
あまりにも…
現実として、受け入れ難い内容だった
隆史の方をチラリと見た
隆史はただ黙って、かなえの話を聞きながら
総てを把握している様に、見えた
隆史か、かなえの話を聞き終え、訪ねた
「ここから、僕達が居た世界へは、帰れるのかい?」
かなえは、微笑みながら答えた
「ええ…帰れるわょ…ただ…」
隆史「ただ?…」
かなえ
「ただね…
今すぐは、無理だわ、次の満月が訪れるまでは…」
楓「満月?…ここには月があるの?」
楓は 外に駆け出した
上空を見渡したが、月など見えない
オーロラの様な空が、広かっているだけだった
家に入り、かなえに訪ねた
楓
「月なんて…どこにも見えなかったわ…」
かなえは楓を伴い外に出た、上空ではなく
腕を、平行に伸ばしながら、楓に言った
かなえ「楓のいる世界の月とは、違うわね
ここにある月は…アレよ」
楓は、かなえの指す方向へと、目を向けた
あれが…月?それは、オレンジ色に近く
細い楕円形の形状をしていた
楓が思い描く、月とは全く別物だった
かなえ
「あの月が、満月を迎えたら、帰れるわ」
楓「満月?…満月って…それは…いつなの?」
かなえ「そうね…今から、117日くらいかしら」
楓「117日?!…それは、私達の時間で、117日なの?…」
かなえ
「ええ…そうよ、あなた達の姿を捉えてから
あなた達がいた世界の
時の流れで、日数を計算したわ」
楓は訳がわからなくなっていた
117日は、とてつもなく長い…
けれど
今は…帰れる…それがわかり、ホッとした
隆史は、その月を静かに、黙って見つめていた
楓にとっても、隆史にとっても
この世界の生活は、馴染めなかった
何もかもが、違い過ぎていた
最初に乗った乗り物から始まり
深緑の森、薄っすらと光を帯びた家
薄い布が、体に巻き付いた様な服装…
かなえに似た、彼女以外の住人達
手を翳し、思い描くだけで出てくる食事
この世界では
食事を摂っていたのは、隆史と楓のみだった
かなえと名乗る女性も、食事を摂らず
薄い薔薇の花弁の様な物や…
クレープを、透きとおるほどにした様な、薄さの物を
1日1枚、口に含む
それが、この世界では、普通なのだと…
隆史と楓の食事は
かなえが、2人の意識を読み取り
再現したのだと話した
馴染めぬまま、117日目を迎えた
かなえは、隆史と楓、2人を乗せて
あの老木となった、大木へと連れてきた
着た時よりも、明るい光を放っていた
満月と言っていた、月は、楕円形の形を変えず
その色だけが、薄紅色に近く変化していた
かなえが、老木の大木に触れた
2人は、お互いの手を強く握り
老木に触れた
一瞬の眩い光に包まれた…
あの眩い閃光が、2人を包み
上空へと、上がって行き
光に包まれながら、また降りたった
2人は、そっと目を開けると
そこは、隆史のいた異世界だった
戻れた!
隆史と楓は、ギュッと強く抱きしめあった
大木の側には、大勢の人達が集まっていた
何日、経ったのだろう…そう思いなから
楓が、近くにいた人に訊ねると
2人が消えて、また現れるまで
十数分だった…と聞かされた
楓の世界と、この世界の時間が違うように
かなえに似た女性の住む異世界も…
また、時の流れが違っていた
かなえが駆け寄って来た
かなえ
「心配したわ…突然消えちゃうんだもの」
隆史と楓は、複雑な面持ちで、かなえを見ていた
かなえ「どうしたの?2人共、妙な顔しちゃって」
楓は、かなえを抱きしめた
楓「良かったわ…本当によかった…」
かなえは、2人の様子から感じ取り
家へと、誘い共に戻った
かなえ
「詳しい話は、明日、聞くわ…疲れてるみたいだもの
今日は、とりあえず、ゆっくりと休んでね」
この世界の、この家に…帰り着いた2人は…
其々の部屋のベッドへと、向かった
長い異世界での生活、やっと、戻れた2人は
今は…ただ、このベッドの感触に
懐かしさと、安堵を感じ…眠りについた