異世界は一瞬の煌き(第5部)
楓は隆史と居る
この時間が大切だった
隆史と横に並んで歩く…
それだけで嬉しかった、何気ないしぐさや
彼が話す言葉やその姿を傍らで聞けること
に幸せを感じていた…
隆史「元の世界ではもうすぐクリスマスだね?」
楓「えぇ…」
隆史「この世界にもクリスマスはあるんだ」
楓「そうなの?…元の世界と同じ?…」
隆史「多少違うかな…けど殆ど同じさ」
楓は彼と一緒にクリスマスを過ごせたら
きっと素敵ょね…離れたくないわ
でも… 何処かで帰らなくては…いけない
胸がキュッと…苦しくなった
こちらの世界のクリスマスは確かに
少し変わっていた
大木が一本丘の向う側に見えている
そういえばこの世界には鏡や窓以外にも
無いものがある…それは樹木で
丘の向こうに見える大木が一本だけだった
隆史「楓…ここのクリスマス見たいかい?」
楓「えぇとても…見たいわ!…」貴方と一緒に
楓はその一言を呑みこみ言えなかった
この世界のクリスマスイブの夜
一本だけのあの大木には
以前あの夜に見た蛍火の様な灯りが
まるで吸い寄せられるように集まり
イルミネーションの様に煌いていた
遠くからでも見えている
ここの住人は皆 其々
この日、色とりどりの衣装を身に纏っている
淡く美しく滑らかな生地だけれど
胸元や袖、腰の辺り等
宝石の様な彩りの輝きを放っていた
隆史「これさ…楓に似合うと思って…」
少し、はにかんだ様な笑顔で彼から手渡された
ドレスは滑らかな生地に
ルビーやエメラルドの様に
色とりどりの装飾が施されていた
楓「ありがとう!…隆史さん」
楓はすぐに部屋へ戻りそのドレスに袖を通した
滑らかな肌触りに想像していたのと違い
とても着心地がよくて軽い
中世のドレスの様なテザインで
腰の辺りからふっくらした膨らみがある
隆史「どう?…気に入ったかい?」
楓「ええ!…凄く!…ありがとう隆史さん」
楓が着替えをすませ出てくると…
隆史は照れくさそうに
「綺麗だよ…」と微笑んだ
2人はゆっくりと
クリスマスツリーへと歩き出した
楓にとっては最高に幸せな瞬間だった
初恋の彼と
クリスマスを過ごせるのだから
大木の周囲には大勢の人々が集まり
ダンスを踊っていた
映画の中で見たような中世のダンスだ
楓も彼とその輪へ入り踊った
夢の様な空間の中で彼と一緒に踊っている
楓は永遠に覚めないで欲しいと願っていた
数時間が経過する頃、宴も終演を迎え
最後には腕を交差しワインを飲み
お辞儀を交わし終わった
楓の住む世界とはかけ離れたクリスマス
けれど素敵なクリスマスイブだった
宴は終わっても恋人達はその大木の下に集まり
楽しそうに話している
楓はその情景が素敵過ぎてうっとりと見ていた
彼は楓の手をとり大木の下へと向い
隆史
「楓…良かったらずっと僕と一緒にいて欲しい」
楓「…嬉しいわ…」
嬉しさで胸が熱く一杯になった
楓の瞳からは一筋の涙が溢れ落ちた
彼はそっと胸元から小さな箱を取り出し
楓に差し出す
それは対になったブローチで
こちらの世界ではこのブローチが恋人の証なのだと彼が言った
ブローチは翡翠の様な色をしていて
楕円形の形状をしている
その周りには真珠やダイヤの様な装飾が施されていた
楓は受け取り胸元にそっと付けた
隆史はそっと楓の手をとり優しく引き寄せた
楓は胸の高鳴りを抑えつつ
隆史の腰にそっと手をまわす
「好きだょ」…優しく耳元で隆史が囁いた
楓は目を閉じる、胸が高鳴っていた
抱きしめ合う2人の影が1つに重なり
唇が重なった
その瞬間…
楓は全身の力が抜ける様な感じがした
このまま溶けてしまいそう…
そんな間隔を覚えた
2人だけの世界
このまま時が止まればいいのに…
楓は隆史の腕に包まれながら
この瞬間が永遠に続いていて欲しい…
そう思っていた
ここにいる恋人達の気持ちに呼応する様に
大木の輝きも更に明るさを増したように
パアッー…と強い光へと変わっていった
いつしかその大木の光は
眩しい程の閃光に変わった