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第7話 俺の能力と聖杖の擬人化

「その様子だと本当に見えるみたいだな」


 聖女さん可愛い、なんて思っていたら不意打ち気味に後ろから声をかけられ、ビクッとなってしまった。だから後ろから急に声をかけるなって!

 声をかけられた俺はそこでようやく俺が今まで何をしていたのかを把握する。

 つまり俺は今までただの木の棒が置かれている部屋の映像を見ながら手を振ったり急に表情を変えたりするやばいやつだと――――


「それで、あの杖はどんなことをしていた?」

「……え?」

「もしくは何かを言っていたか? 一応マイクもちゃんと備えておいたのだが」

「……え、え?」


 突然のことに頭の理解が追い付かない。

 中野さんはいったい何を言っているんだ。何が見えたとか、聞こえたとか、所詮は俺の妄想に過ぎないっていうのに。

 一体全体どういうことかわからない俺はとりあえず俺が考えていることをそのまま伝える。


「あ、あの、何が見えたとか、何が聞こえたとか、その、あー、どうせ俺の妄想で、恥ずかしいというか」


 あまりに混乱しすぎていっていることが支離滅裂だ。

 しかし中野さんはそんな俺の言葉から何を言いたいのか理解してくれたようで、俺を落ち着かせるようにいつものダンディーな声音で語ってくれた。


「……化人(かと)は気づいていないようだが、お前の【物が意思を持っているかのように見える能力】はただのお前の妄想などではない」

「……え?」

「それは非常に希少な能力で、【神の遺物】を扱う人間の持つ特徴だ」

「……はぁ?!」


 俺の頭の中はさらなる混乱で埋め尽くされる。

 今までのは妄想じゃない? 全部そいつらが意思を持っていたということ? てか神の遺物ってなんだよ、めっちゃかっこいいじゃん、それを扱える特徴があの擬人化? え、じゃあ俺は神の遺物を扱える? めっちゃ主人公的能力やん! え、でもこれは現実だし、ワンチャン死……?


「落ち着け、大丈夫だ」


 俺があることないこと妄想し始めたところで、やや強めに肩を叩かれ、意識を現実に戻された。

 俺は一度深呼吸をしてから、中野さんへと返答した。


「……はい、すいません」

「いや、無理もない。普通変なのが見えたら病気かと思うからな」


 すいません、俺は《これが妄想の極致だ!》とかいって調子乗ってました。

 内心で謝りつつも、そのことは表にかけらも出さず、いかにも神妙そうな顔をして中野さんに喋りかけた。


「……はい、ある時から四六時中変なのが見えて……誰にも言えなくて、変な精神疾患でも患っているんじゃないかって……」

「そうか……だが、大丈夫だ。それは決して病気なんかじゃない。むしろ偉大なお前だけの力だ!」


 息をするように嘘を吐く。ちょっとした特技だ。

 俺がしんみりした空気を出したことで若干鼻声になった中野さんはさっきよりも強く背中を叩きながら、俺を元気づけるように言い放った。

 ずっと話してて思ってたんだけど、中野さんって普通にいい人なんだよな…………この人がなんで……


「……すまん、話を戻すぞ」


 俺が思考の波にのまれそうになったところで中野さんが話を戻す。


「まずお前はあれが何かに見えたんだな」

「はい、精霊のようでした」


 流石にボンッキュッボンッの色っぽいお姉さんでした、とは言えない。中野さんも【物が意思を持っているかのように見える能力】としか言ってないしな。それになにより恥ずかしい。

 俺の返答に中野さんはなるほど、と頷き、続けていくつかの質問を投げかけてきた。


「最初は見えてなかったのか?」

「はい」

「何がきっかけで見えるようになったかはわかるか?」

「わかりません」

聖杖(せいじょう)はなんと言ってた?」

「何故私を閉じ込めるんだ、みたいなことを言ってました」

「具体的には?」

「え~っと、私を閉じ込めるなんて命知らずのようね、とか、トールに頼んで雷でも落としてもらおうかしら、とか」

「なんと…………至急対応案件だ。上に伝えとけ」


 中野さんの部下っぽい人たちは慌てて部屋を出ていった。今の話をどこかに伝えに行ったのだろう。

 中野さんはそれを見届けると、再び俺に話しかけてきた。


「すまんな、それで次の質問――――」


 中野さんが次の質問を口にしようとしたその瞬間。

 部屋が地震に襲われたかのように大きく揺れる。


「うげっ!」


 運動神経の無い俺はすぐに伏せることも出来ずに無様に転んでしまった。

 なんとか頭は守ったものの、膝とかが痛い。

 幸い揺れはほんの一瞬だけだったようで、すぐさま平穏が戻ってきた。

 しかしこんな短い地震なんて起きるはずが…………


「クソッ! 嗅ぎつけやがったか!」


 俺とは違い、しっかりと地面に伏せて揺れを過ごした中野さんが、世にも恐ろしい表情で叫んだ。

 それが意味することは……襲撃だ!

 中野さんの所属する宗教と敵対しているなんらかの組織が何か――おそらく俺――を狙って襲撃してきたのだろう。

 中野さんは部屋に残っていた部下にテキパキと指示を出していき、全員を外に出すと、


化人(かと)、お前はここで大人しくしていてくれ」

「……中野さんは?」

「なに、ちょっと外にたばこ吸ってくるだけだ」


 いや、あんだけ襲撃みたいな雰囲気出しといてそれは寒いですよ。

 とは流石に言えず、俺は笑わないようにだけ気を付けて頷いた。

 中野さんはニヤッと相変わらずの悪人面で笑うと、この部屋を締め切り、出ていってしまった。


「…………さむ」


 おっと、口は慎め。

 

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