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第6話 聖女? と木の擬人化

「着いたぞ」


 何度目か分からないが、また車が止まると、最初からずっと一緒にいた渋い声の人――中野さんが真面目な声音でそう言った。

 そして俺がさらわれてからおそらく十数時間ぶりに手足を解放された。


「着いてこい」


 目隠しを外し、中野さんが声に似合わずスキンヘッドに真っ黒なサングラスをかけたヤクザであることを確認すると、中野さんを追って歩き出す。この見た目ならもっと低くてドスのきいた声でしょ……

 俺は中野さんの後ろを数人の黒スーツの方々とともに歩いていく。彼らは私語一つなく、また、足並みが乱れることなく、さながら軍隊のように俺の周りを囲んでいる。

 流石にこんな方々に声をかけるほど勇敢ではない俺はあまりキョロキョロしないように周りを見渡す。

 現在は夜中のようで、当たりは真っ暗で何も見えない。唯一の光源である月も今夜はほどんど顔を見せておらず、周りを認識する手助けはしてくれない。また、民家のこぼす明かりすら見当たらないので、ここは相当な山奥と判断できる。

 真夜中だから寝静まってるとかもあり得るけどね。

 そしてこんな状況でも俺の頭はイカレてるのか、所々木々が擬人化してこっちに手を振ってきていた。

 彼女らは全体的に豊満な体形で、ザ・お姉さんといった雰囲気の擬人化だった。すごく、本当にすごく興味が惹かれたのだが、流石に自重した。絶対帰りに見て帰る。特にあのえっちぃお姉さんだけは抱き着きに行きたい。俺のこと手招きしてたし!


「遅れてます」

「あ、すいません」


 真っ暗の中、周りを見渡しながら歩いていたためか、気づけば中野さんの背中が見えづらくなっていた。

 周りの人に注意された俺は反射的に謝りながら早足になって中野さんの元へ行く。


「気をつけろよ」

「はい」


 中野さんとはここまでくる間ずっと俺と喋り続けていたからか、まあまあ仲良くなることが出来た。顔に似合わずラブソングなどが好きだとか、アイドルのコンサートはかかさず行ってるだとか、結構プライベートなことまで喋った。

 ちなみにそれらに加えて中野さんは美少女ゲー大好きな廃課金者でもあった。月うん十万も課金しているらしい。アイドルのコンサートとかも併せたら月いくら使ってるんだか……宗教って儲かるんだな。

 そんなこんなでどうでもいいことを考えながら進むこと十分ほど。

 中野さんが立ち止まったところは見上げるほどの壁が広がっているところだった。

 周りを見ても、今までの道中となんら変わったところはない、普通の山中。


「着いたぞ」


 しかし、中野さんはそう言うとどう見ても壁にしか見えないところに向かって歩いていき、通り抜けていった。

 スッと、自然に、消えるように。


「……え?」

「どうぞ」


 呆然と中野さんが消えた壁を見つめていると俺の背後を固めていた黒スーツの方々からポンと背中を押される。

 まだ混乱の中にいた俺は軽く押されたにもかかわらず、そのまま足を進め、壁にぶつか――ると思ったがそのまま通り抜けることが出来た。

 え、ナニコレ、すごい。


「すごいだろ」


 久しぶりに聞いた渋くてカッコイイ声にひかれて前を向くと、中野さんがニヤッと極悪人のような顔で笑っていた。絶対人殺してる。


「行くぞ」


 そして中野さんは再び前を向いて歩きだした。

 さっき着いたぞって言ったじゃん、とか、これで二回目だよ、とか言いたかったが飲み込み、ついていく。

 そしてまたしっかりと四角く整備された通路を歩くこと五分ほど。俺はある小部屋に連れてこられた。

 小部屋は十m四方くらいの広さで、天井も圧迫感を与えない程度には高い。室内には椅子が一つと、それと向かい合う壁に大きなスクリーンがあるのみだ。


「その椅子に座ってくれ」


 ようやく本当に目的地についたらしい。

 俺は急に山道を歩かされたりして疲れ切っていたためすぐさま椅子に腰かける。

 はぁ、運動部でもないのに山道を歩いたらダメだよ……これは明日は筋肉痛だな。

 後ろで運び込んできたらしい機材をカチャカチャする音を聞きながら、俺は少しでも疲労を抜くため足をマッサージしていた。

 そんなこんなで待つこと三分。


化人かと、今からお前にはある映像を見てもらう。それを見て、こちらの質問に嘘偽りなく答えてほしい」


 俺は久しぶりに本名で呼ばれたなぁ、と思いながらも、俺みたいな普通の高校生に何を求めてるのか、不思議に思っていた。

 だが、俺が何かを言う時間もなく、徐々に照明が暗くなっていき、目の前のスクリーンに映像が浮かび上がってきた。


「…………?」


 はじめ、その映像には人をダメにするソファのような座布団の上に魔法使いが持っているような古びた木の杖が置かれていた。なんの変哲もない木の杖だ。しいて言うならば年季がかなり入っており、ちょっとだけ神秘さというのか、そんな感じがするだけだ。

 これが一体なんの…………?

 そう思いながらも、これを見ろと言われたので見ていると。


「…………?!」

『ははは、知ってますよぉ~、私にはマスターがいないことなんてぇ~、どうせこのまま一回も使われずに朽ちていく運命にあるんですよぉ~、私なんてぇ~、使われ処女を捨てることなんてできないんですよぉ~…………クソが! みんな死んじまえ!』


 ふと瞬きした次の瞬間、杖のいた場所に僧侶というか、聖女のような恰好をしたボンッキュッボンッなお姉さんが、出不精な日曜日のOLみたいにぐて~っと寝転がっていた。仰向けで寝転がっているため胸元が非常に強調されて眼福です。

 だがなにやらいろいろこじらせてるらしく、僧侶にあるまじき暴言を吐いている。

 俺が目を丸くさせてそのお姉さんを見ている間にも彼女の暴言は止まらない。


『てかなんなんこいつら! 私をこんな場所に閉じ込めてベタベタ触りやがって! セクハラで訴えるぞ! 人間なんかイチコロだからな! トールハンマーとかそこらへんで一網打尽にしてやるからなぁああ!』

「………………」

『いや、ここは私が大津波か何か起こして世界を水没させてやろうか! …………やるしてもマスターがいないとなんも出来ないじゃん………………同期はほとんどマスターがいるか、いたことあるのに、なんで私だけ一回も使われてないのよ…………』

「…………」

『大体みんなの言うことは適当すぎなのよ! やれ《あなたは理想が高すぎる》だの、やれ《その引きこもり気質が悪いのよ》だの…………あなたたちはいいわよねぇー! 良い人に巡り合えてー! コンチクシ――――』


 バタバタと子供のように暴れていた彼女は散々暴言をまき散らした後、最後の叫びのところでこっちを向いて固まった。

 向こうにもこちらと同じ機械があるのかと思い、とりあえず彼女に向かって手を振ってみる。

 さっきまでドン引きしていたので、上手く笑えていたかはわからない。


『え……? 見えてる……?』


 呆然としたように魂の抜けた顔でそう呟く彼女。

 俺は手を振りながら無慈悲に首を縦に動かす。

 俺が彼女のつぶやきに反応して首を縦に振ったことから声もしっかり届いていると認識したらしき彼女は、急激に顔を真っ赤にさせ、居住まいを正し始めた。

 乱れた衣服をピシっと伸ばし、そこらへんに投げ捨てていたネックレスやら聖女が頭につけるティアラっぽいのやらをちゃんと装着し、人をダメにするソファから降りて真っ直ぐと立つ。

 そして顔が真っ赤なまま、頑張ってひきつった笑顔を見せると、


『初めまして、私のましゅたー候補よ』


 盛大に噛んだ。

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