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第5話 連行とガムテープの擬人化

 ガタッと体が揺れて、俺は意識を取り戻した。

 ここはどこだ……?

 朦朧としている意識の中、まずそう思ったが、目隠しはされてるし、イヤホンもされているので全く分からない。ちなみにイヤホンからは東野ナカの【出たくて出たくて】が流れていた。まさに今だな。震えてるよ。


「む、目が覚めたか」

「んー!」


 俺が身動ぎしたことに気付いた誰かが渋い落ち着いた声で話しかけてきた。声はイヤホンに直接送っているのか、東野ナカに被さって聞こえてくる。

 それに俺は返事をしようとしたのだが、俺の口はガムテープか何かでふさがれているらしく何もいえない。これ絶対剥がすとき痛いヤツやん……

 俺は手足もしっかりと布か何かで縛られているのを確認すると諦めて大人しく待つことにした。


「ほう、賢明だな。なに、大人しくしていれば五体満足で帰れるさ」


 怖くて怖くて仕方ないが、だからといってわめいてもどうにもならないことくらいは分かる。

 だが、何もやらないという選択肢もない。

 というわけで、とりあえず口に付いたガムテープを舐めて剥がして、何で俺をさらったりしたのかを聞いてみようと思います!

 犯人の目的を知ることは大事だと思うからね!

 表面上は静かに、しかし舌だけは激しく、いざガムテープへ行こうか!


「……っ?!」

「ん?」


 さっさとガムテープを剥がそうと舌の準備運動をしてから舌を突きだしたところ、おおよそガムテープとは思えない感触がした。

 それにびっくりして思わずビクッとしてしまい、渋い声の人に感づかれそうになった。が、渋い声の人は気のせいだと思ったのかこちらを注視する気配はなくなった……ように思う。


「…………」


 念のため、数秒ほどじっとしてから、俺は再びゆっくりと舌を突きだしていく。

 そしてガムテープに触れるだろうな~というところまで突きだしたところで、


『ひゃん♪』


 やたらと柔らかく、しかし弾力のあるものに押し返された。不穏なあえぎ声とともに…………

 俺は舌を引っ込め、お前はなんだ、と強く頭の中で思った。


『も~、つれないわねぇ。私があなたの口に貼り付いてるものよぉ』


 俺の思考が伝わったのか、口に付いたもの――おそらくガムテープの擬人化した女の子――が粘着質な声音で言ってきた。 

 てかこの子が言っていることが本当ならば俺は今女の子のお腹を舐めたということに…………興奮する。

 が、しかし今はそんなことで舌を止めたりしてる場合じゃない。

 俺は正直な体を意志の力で抑え込み、再び舌を突きだした。

 グヌッと柔らかく、しかし弾力性のあるもち肌を舐める。


『んっふ、積極的ねぇ』


 やたらと艶のある声で喘ぐガムテ。

 落ち着け、これはガムテープだ。あくまでガムテープだ。

 俺は自分に言い聞かせながら、ガムテを全体的に舐め、徐々に剥がしていく。


『もぅ、つれないわね。今日のところは諦めてあげるわぁ』


 それから十秒ほどガムテのあえぎ声が続いていたが、急にあえぎ声がやみ、ガムテがそう言うとペロンっとガムテが口から剥がれ落ちた。

 何故急に剥がれ落ちたのか。よく分からないが、とりあえずラッキーだ。

 にしても……あぁ、口周りがベトベトして気持ち悪い…………

 俺はさりげなく車のシートで口を拭うと、心して声を上げた。


「ねぇ、何故俺をさらったんですか?」

「ズズズッ!? ゴフッ! ゲォホ! ……お前、いつのまに」


 渋い声の人は俺が声を出したことにひどく驚いたようで、めっちゃむせていた。俺のイヤホンとつながっているマイクは彼の近くに置かれていたらしく、かなりの音量でゲホゲホと聞こえる。

 てか俺がじっとしてからまだ五分と経ってないのに飯を食べ始めていたのか……ガムテと格闘していたせいで気付いていなかったがめっちゃラーメンの匂いがする……

 数秒、返事を待ってみたが、驚きすぎて俺の言葉を聞いていなかったらしく返ってくることがなかった。


「何故俺をさらったんですか?」


 なのでもう一度聞く。

 相変わらず聞こえてくる東野ナカの【出たくて出たくて】に被せて、再びダンディな声音になってその人は答えた。


「……まあ、慌てるな。どうせ後で知ることになる」


 そうだけ言うとまたラーメンをすすりだした。ふざけんな、食べたくなるだろ。

 俺はあまり粘ってもいい結果は出ないだろうと判断し、結局大人しく待つことにした。


「あ、このイヤホンの音楽ってループですか?」

「……次はBlueの『愛の歌』だ」

「いいっすね~。流石に同じのループはきついんで」

「………安心しろ、そこには百曲入れておいた。ちなみにその次は『私の取扱説明書』だ」

「えっ!? 俺それ嫌いなんですよね。知るかっ! って思いますもん」

「……お前も大きくなれば分かるようになるさ」

「現代っ子はお互いを思いやるんですよ」


 それからしばらく、何度か車を乗り継ぎ、一回寝て起きる頃、ようやく目的地へとたどり着いた。

 

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