第4話 変な集団と電柱の擬人化
『じー』
「…………」
学校からの帰り道。そそくさと生徒の多い道を通り抜けると、そこを見計らったかのように物が擬人化する。
今回は、たぶん、電柱だ。
……言いたいことは分かる。俺も訳がワカラナイ。だが待ってくれ俺の中の常識よ。お前がいないと本当に俺は人の道を踏み外してしまう。
『むー! 見つめ合ってんじゃないのよ! このあばずれ!』
俺が無口系女子――という割には『じー』と声を出しているが――を感情のない瞳で見つめていると、ポケットから手と頭を出したスーが大声で抗議し始めた。カンガルーの赤ちゃんみたいでちょっと可愛い。口は汚いけど。
スーの抗議で現実に戻ってこれた俺は、はぁ、と一つため息をついて家路へつこうとする。
『あ』
俺が一歩踏み出すと遠慮がちに手を伸ばして声を漏らす電柱。
なんだ? と足を止めて電柱に視線を向けるが、無口系女子はただじっと俺を見つめてくるだけ。
「……行くからな」
特に何もないようなので俺は一言だけ言って、歩き始めた。
ポケットから顔を出してるスーはあっかんべーをしていた。
『うぅ……』
後ろから何かいいたげなうめき声が聞こえたが、どうせ俺の妄想だ、と無視して歩く。
女の子を無視するのは少し堪えたが、まあ、本物じゃないしね。
しばらくするとうめき声も聞こえなくなり、チラッと後ろを振り返れば無口系女子はいなくなっていた。
「……やっぱああいう系統の子もいいな」
『むー! むー! むー!』
「はいはい、スーが一番可愛いよ」
『――ない! ――つけろ! ――って!』
不意に、気を抜いてスーと喋っていると遠くから声が聞こえてきた。
それは目の前の十字路の左方向から聞こえてきている気がする。
俺は徐々に近づいてくる声がなんなのか、確認するべく小走りで十字路に向かい、左方向をチラッと見た。
『あぶない! 気をつけろ!』
そこには二mほどの身長の女の子がアスリート顔負けの素晴らしい走りを見せていた。
まだ距離は百mほどあるが、ほんの五、六秒でここまで来るだろう。おそらく時速六十kmはでている。
これはこのまま普通に歩いていたらひかれてたかもしれないな……
俺はそう思いつつ十字路の陰に引っ込み、待つことにした。わざわざ先にこの道を通るなんていうチャレンジ精神を持ち合わせていないからね。
そして約六秒後、それは十字路の真ん中で止まった。
それは黒塗りの高級車……じゃなくてボックスカーで、さっき見た女の子はいなくなっていた。おそらくこの車の擬人化したものだろう。
「真ん中で止まるとか迷惑だな……」
その車は何を思ったのか、十字路の真ん中で止まりやがった。
別に歩行者や自転車くらいなら隙間から通れるだろうが、普通に邪魔だ。
一体何をしたいんだ、と思っていたら扉が開いた。
「っ?!」
そしてそこから出てきたのは黒いスーツに身を包み、真っ黒なサングラスをかけた筋骨隆々な集団だった。
怪しい。どっからどうみても怪しい。
曇りガラスの張られた真っ黒なボックスカーから真っ黒なスーツと真っ黒なサングラスをかけた筋骨隆々な集団。
絶対にかかわり合いになりたくないなーと思い、迂回しようと背を向けたその瞬間。
「いたぞ!」
急に大声で叫ばれて、ビクッと反応してしまった。
マジでふざけんな、びっくりしただろうが!
若干イライラしながらも、絶対に関わりたくないと改めて思った俺は早足でその場を後にしようとし。
「確保!」
「?!」
背後から口に布を当てられて急速に意識を失っていくのだった。