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第15話 天宮さんとの会話とナイフの擬人化

 しばらく待つことになった俺たちは適当な場所に座ってのんびりしていた。

 だが、俺にはずっと『ぽー』という普通の杖が擬人化した幼女が出す音が聞こえており、そのせいでゆっくりできないでいた。


「…………」


 このままだと精神崩壊でも起こしそうだ、と思った俺は目だけでも癒そうと天宮さんを見つめる。

 天宮さんの見た目はかなりのドストライクだし、本当に可愛いので目の保養になる。出来れば上着を一枚くらい脱いでほしい。


「…………なに?」


 あまりにガン見が過ぎたのか、チラッとこちらを見た天宮さんがそっぽを向きながら不機嫌そうにそう言った。

 だが、照れているのか、はたまた怒りでなのか、頬がほんのりと赤く染まっていた。出来れば前者であってほしい。

 俺は会話のきっかけにちょうどいいかな、と思い言葉を投げかけた。


「いや、目の保養に」

「……へんたい」

「ごめんて、許して。ところで天宮さんって学校とか行ってるの?」


 若干セクハラ紛いのジャブを放った俺は、すぐさま話題を変更する。昨今はセクハラに厳しいからね。

 話題変更が強引すぎたのか、天宮さんはパチパチと二、三度瞬きをしたが、すぐに返事をしてくれた。


「……いえ、行ってないわ。勉強は組織の人たちが教えてくれるもの」

「あ~、確かにここの人たちの教え方すごい上手だしな」

「そうよ、みんなすごいの。銃の扱いも、近接格闘術もすごいのよ?」


 そう言ってこちらを向いてやや獰猛に笑う天宮さん。いや、その情報はいらなかったです……

 やや空気が穏やかになってきたところでもう少しだけ踏み込んだ会話をしてみる。


「天宮さんはいつも誰と訓練とかしてるの?」

「そうね~、大体手の空いてる職員の人たちと、かな」

「俺らくらいの年の子っているの?」

「いや、いないわ。……あ、だからお父さんはこいつに……」


 そしてここで新事実を発見。

 天宮さんは同年代の男と話したことがなかった!

 まあ、そうとは言い切れないが今の天宮さんの反応からして十中八九そうだろう。

 それと、これで今までのちぐはぐな天宮さんの態度の理由が分かった。喋りなれていない同年代、しかも外の普通の人と喋るのが初めて、もしくは久しぶりすぎて動揺していたのだろう。今日は仕事と割り切っているためか、あまり変な言動はなかったが。


 そのことに内心微笑ましくなりながら、一人考え込んでいる天宮さんを見ていると、


「おまたせ、待った?」


 扉が開いて副所長が軽い感じでそう言いながら入ってきた。茶目っ気というか、浮かれている感じだ。

 やたらと嬉しそうな副所長に、早く仕事が終わって嬉しいのかな? なんて思いながら俺たちは立ち上がった。


「いえ、ちょうどいい感じに休憩できていました」

「それはよかった」

「では、聖杖様の回収を行います」


 新しい声が聞こえた、と思ったら副所長の後ろから俺をここに連れてきたモブFが出てきた。

 うげ、と思いながらも表情にはださず、副所長を見る。


「副所長」

「うん、ごめんね、今ここには私と彼しか動けるものがいないんだ」


 どんだけ人手が足りないんだよ。

 そうは思いつつも、副所長の言葉にうなずき、モブFにも目礼する。

 モブFは俺の目礼をスルーすると、スタスタと歩いていき、天宮さんの持つ座布団を何も言わずに奪い取るように持っていった。


「…………」


 俺の目礼をスルーしたことや、天宮さんに礼の一つも告げないばかりか奪うように持って行ったことに、流石に眉をしかめる。

 ホント、なんでこんなやつしか残っていないんだ…………


「……?」


 そこで不意に引っかかるものを感じた。

 何故こんな大事なものが保管されている場所に二人しか動けるものがいないんだ? 普通、厳重に警備しているはずだし、中にも不測の事態に備えて様々な人間がいるはずだ。

 一体どういうことなのか。

 もしかしてモブFは裏切って…………


「副所ちょ――」

「――ははは! ようやく、ようやくだ!」


 モブFが副所長の目の前まで来たところで声を上げた俺だったが、副所長の歓喜の声にかき消されてしまった。

 突然大声出すなよ! めちゃくちゃビビったわ!

 びっくりして心臓がバクバクいっているが、なんとか落ち着き、目の前の状況が何を表しているのか、何が起こっているのか、考える。

 そして割とすぐに察した。

 ――あ、これ二人とも裏切ってるやつだ。


「さて、化人くん、君には感謝するよ」


 ひとしきり笑って満足したのか、悪そうな笑みを浮かべて副所長はこちらを見る。ついでにモブFも副所長の斜め後ろに移動し、そこから見てくる。にやにやすんな気持ち悪りぃ。


「副所長、どういうことですか?」


 隣から聞こえてきた声にびっくりして視線を向けると、いつの間に移動していたのか、そこには天宮さんがいた。

 俺が急展開にびっくりしている間にも話は続いていく。


「どういうことも何も、この通りだよ」

「……裏切ったの?」

「まあ、そういうことになるねぇ。組織の意向に背くのだから」

「何をするつもり? あなたたちにその杖は使えない。使えるのは彼だけ。そしてここには私がいる。上手く行きそうにはないけれど?」

「うんうん、分かってるよ。私は副所長なんだからね」


 ぽけーっとしていたら、またいつのまにか移動していた天宮さんが、俺と副所長たちの間に来るように位置取りしていた。しかも手には大ぶりのナイフを持っている。

 その後ろ姿は小さいはずなのに、気迫によってか何倍にも大きく見えた。

 きっと漫画やアニメなら絶対俺と天宮さんの立ち位置は逆なのだろうが、ひ弱な高校生である俺は大人しく守られるしかない。


 と、そんなことを思っていたらナイフが擬人化した。相変わらずに見境なしだ。


『ふふふ、キレッキレの私を止められるものはいない……この【絶対切断】の私にはなぁ!』


 右手を顔にかざし、左手を広げる様はまさに中二病。眼帯もあるし、中々がっつり中二病だな。

 ただし厨二ネームは中々にダサい模様。頑張れ。


 馬鹿みたいなことを考えている間にまた話は進んでいく。


「……わかっているなら何故?」


 天宮さんは油断なく二人を見つめながら問う。

 重く、鋭い声音は自分に向けられたものではないにも関わらず身をすくませる。

 しかし副所長とモブFはそれを全く意にも返さず答えた。


「それは簡単なことだよ。私がこれを使うことが出来るから」

「……嘘、出来るのなら最初からこちらに潜入などしなくてもいい」

「何故私があの宗教団体の者だと思ったんだい? ま、嘘かどうかは今からわかるよ」


 そう言いながら聖杖に向けて手を伸ばす副所長。


「っ!」

「動くな」


 天宮さんは副所長を止めようと足を踏み出したが、銃を取り出してこちらに向けるモブFを見て足を止めざるを得なかった。

 にやにやとこちらを見ながら副所長は口を開く。


「ふふ、そこで大人しく見ていてくれたまえ。せっかくの【神の遺物】の力のお披露目だ。観客は多い方がいい」


 そういうと再び聖杖に向き直り、手を近づけていく。

 ゆっくり、危険物に触れるかのように、少しずつ。

 そして――


『ん? 何よこのおっさん。触らないで』

「くっ! やはりか……」


 ――聖杖まであと五㎝といったところで大きく手をはじかれた。

 まるでバットでボールを打つかのように、カンッ! と。

 聖杖を見てみると、その周りは薄く膜のようなもので囲まれていた。

 副所長はこれを予想していたのか、悔しそうに呟きながら手をさする。


 いや、あんなに自信満々で「見ていてくれたまえ」とか言ってたじゃん! 拒否られてんじゃん!

 このシリアスな雰囲気が叫ぶのを許さないため、俺は心の中でのみそう叫ぶ。


 副所長は再び、懲りずに手を伸ばす。


「お願いします、聖杖様。私に力を貸してください」

『嫌よ。あなたは私を扱う基準に達してないもの』

「どうか、お願いします。聖杖様の強大で美しいそのお力をこの世界に見せつけてやりたいのです」

『え、そ、そう? で、でも、あなたじゃ私の力は引き出せないし……』

「私の実力が足りてないのは百も承知です。ですが、聖杖様がこぼしてくださるほんの一欠片で我々人類は聖杖様を崇め奉るようになりましょう。その強大な力故に」

『そ、そこまでいうなら仕方ないわね~! ちょっとだけだからねっ!』


 その瞬間、聖杖を覆っていた膜のようなものが溶けるように消えていった。

 そして副所長が「感謝します」と言いながら聖杖を手に取る。


 ……………………え? チョロくない?

 呆然としている間にも副所長たちは喜びを分かち合っている。


「ふふふふ、ふはははは! やった、ついにやったぞ!」

「おめでとうございます!」

「やはり私は間違ってなどいなかった! 私にも能力はあったのだ!」


 ……………………え? チョロくない?

 俺は心の中で思わず二回呟いた。

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