第13話 聖杖との再会と杖(レプリカ)の擬人化
『……またあのくされびっちと一緒なのよ?』
天宮さんと再会してから一緒に廊下を歩いていると、再起動を果たしたスーがそうこぼした。
念のためにスマホなどの通信機器の電源は切っていたのだ。歩いている途中で天宮さんに言われたので電源をつけた。
「そういうなって、それにそんな人じゃないと思うぞ?」
『いや、そうなのよ。あんな清楚で純真そうな顔で実は裏ではえげつないことをやってるなのよ!』
……まさか、な。
スーの言葉に反応してしまい、俺はつい天宮さんのほうへと視線を向ける。
すると天宮さんもこちらを見ていたらしく、一瞬だけ目が合い、慌てて目をそらされた。
『チッ! カマトトぶりやがって……なのよ』
「……前から思ってたけどそういう知識はどこから得ているんだ?」
『ネットでそこら中に転がっているなのよ。暇なときにいろんなところを渡り歩いているなのよ』
「……ってことは確実に俺より頭いいよな? 知識も豊富でそれを高速で扱うことも出来る。つまりいつもの語尾とか頭の悪い発言は演技ってことか?」
『…………スーの知識は偏ってるからわからないなのよー』
そう言って下手な口笛で誤魔化そうとするスー。
なんで天宮さんも、スーもこんなに腹黒いんだ…………もっと純真無垢で心の綺麗な子はいないのか……
「……独り言もそれくらいにして。もう着いたわよ」
「いや、天宮さんは知ってるよね!? スーと話してたんだよ?!」
「……ふふっ」
俺が天宮さんのボケに思いっきりツッコんでみると、一瞬の空白の後、小さく笑ってくれた。
この微妙な空間を壊したい思いに乗っかってくれたのだろう。
リラックスした俺たちはお互いに頷きあって、目の前の扉の向こうへと足を踏み入れた。
「うわぁ…………」
「…………また増えてる……」
そして二人して目の前の光景にドン引きした。
目の前には座布団に乗せられた古めかしい杖が所狭しと並べられていたのだ。
しかも棚などに並べるのではなく、床一面に置いているため、本当に見渡す限り杖が並んでいる。
一応人が通れる程度の隙間は空いているものの、あまりゆったりとは出来そうにない。
「……この中から見つけるの?」
「そうよ。私もあなたの側で見守るのだから、早く見つけてね」
二人っきりで杖を鑑賞しながら一緒に歩く。もはやこれはデートといって差し支えないな。
俺は目の前にある現実から目を背けるため、そんな益体の無いことを考えていた。
「…………ん?」
そんなことをしてやりたくないことを後回しにしていると、不意に俺の視界の中で動く物影が見つかった。
この場面で動く物影。そんなもの、一つしかない。
「見つかったかもしれない。行こう」
「え、ホント?」
驚く天宮さんを引き連れ、早足にその場所へと向かう。
杖と杖の間の狭い通路を通り、徐々に見えてくるそれに向かって歩き続ける。
そしてそこにたどり着き――
『ぽーーーーーーーー』
――虚空を見上げてぬぽーっとしている幼女を見つけた。
幼女は体を左右に揺らしながら、『ぽー』っと声を出している。
これは確実にあそこで見た聖杖ではない。聖杖はグラマラスなお姉さんだった。こんなちんちくりんでは決してない。
一体これはなんなんだ…………
俺が混乱していると、天宮さんが俺の肩越しに幼女を見る。
「……これがそうなの?」
「いや、ごめん、多分ちがッ!?」
神妙な声音でいう天宮さんに、俺は首を横に振って答えた。
そして振り返ってしっかり言葉で否定しようとして、俺はそれを見てしまった。
『ぽーーーーー』
『ぽぽーーーーー』
『ぽぽっぽっぽぽぽっぽっぽぽぽっぽーー』
『ぽぽっぽっぽっぽぽぽっぽぽっぽイェイ!』
――あたり一面を覆いつくしていた杖が一つ残らず幼女へとなっているのを……
慌ててもう一度最初の杖のほうを振り返ってみると、そっちも一面幼女になっていた。
更に深まる混乱。
幼女はみんな意味不明な声を垂れ流し、ゆらゆらと体を揺らしている。視覚的にも、聴覚的にも非常にうるさい。
たまにリズムを刻んでノリノリのやつもいるが、うるさいことには変わりない。
「……どうしたの?」
「……ここにある杖全部が擬人化した。しかもうるさい」
「うるさいの?! ……私には何の音も聞こえないけど……」
俺の言葉に驚きつつ、スッと耳を澄ました天宮さんだが、当然何も聞こえないはずがない。
『ぎゃー! なんなのよこいつら! うるさいなのよ! ご主人どうにかするなのよ!』
今まで耳を塞いで我慢していたスーも限界だったのか、そんなことを言って俺に八つ当たりしてくる。出来るならやってるんだよなぁ。
俺はこの状況に眉をしかめながら、一旦部屋の外へ出ようと足を向ける。
しかしそんな俺の肩に手を置いて止めてくるものがいた。天宮さんだ。
「ちょっと待って。どこに行くの?」
「部屋の外に」
「そんなにうるさいの? 例えばどれくらい?」
「日曜日のパチンコ店くらい」
「そんなに?!」
お互い未成年だよね、なんてことは言ってはいけない。
あれだよ、扉の外を通りがかるだけでもうるさいからね。全部潰れればいいのに。
俺の状況を察してくれたのか、天宮さんは俺の肩から手を離し、外に出ようと言ってくれた。
そして俺は、ぽーぽーうるさい中出入り口に向かって歩き始めた。
『なんなん?! こいつら! マジでなんなん?!』
「スー、口調」
『……なにを言ってるなのよ。スーはいつも通りなのよ!』
『――だりー、――で――――、寂しさ――だけ――』
あまりのうるささにスーの口調が崩れてきたところで何か声が聞こえた。
俺は騒音の中、この声がなんなのか確かめるため、立ち止まって耳を澄ませた。
「……化人くん、どうしたの?」
「声が聞こえた。ちょっと待って」
『――てられないってんのよ! 酒だ! 酒持ってこい!』
「見つけた」
この拗らせた行き遅れのような言動。一瞬でわかってしまった。
俺は声のした方へと目を向ける。
そして遠くの方で酒を求めて手を上に伸ばしている聖女風のお姉さんを見つけた。相変わらず座布団の上に仰向けで寝転がっている。酒なんて飲んでないはずなのに顔はほんのり赤く染まっていた。
「あっちにいたよ。今度は本物だ」
「……とりあえず行ってみましょ」
一度失敗したからか、あまり信用してない感じの天宮さんを連れ、聖杖さんのところへと歩いていく。
そして近づいていくごとに声は明瞭になっていく。
『なんで私に見合う男が現れないのよ! これは神の陰謀だわ! 私の美しさに嫉妬しているの!』
『千年くらい前に一緒にいたレンちゃんは持っていって、なんで私は置いてったのよ、あの腐れ人間!』
『私の何がいけないっていうのよぉ……美人で、清楚で、品行方正で、絵にかいたような聖女なのに……』
「それらが嘘だからだと思います」
聖杖さんのところにたどり着いた俺はつい本音を出してしまった。
しかし聖杖さんは俺の声を聞いても反応しない。一応声は聞こえていたのか喋るのはやめている。
聖杖さんは仰向けに寝て目を閉じたまま、小指を耳に突っ込んだ
『……あれ? おかしいな、私の言葉を聞いているかのように話す声が聞こえたぞ。耳でも詰まってるのかな?』
「聞こえてますよ。あと杖に耳ってあるんですか?」
『ぎゃー! なんで?! 人間なんで?!』
ようやく俺に気付いたらしい聖杖さんは、ガバッと起き上がると聖女にあるまじき顔を俺に晒す。
前回も見てたから知ってたけど、本当に残念だな、この杖。
俺が生暖かい目で見ていると徐々に落ち着いてきた聖杖さんが何かに気づいたらしく、俺の顔を指さして叫んだ。
『……あっ! あんたこの前私を無視したやつでしょ! 覚えてるんだからね!』
「聖杖さん、品行方正で清楚で美人な設定はどうしました?」
俺の指摘を受けて、俺を指さした格好のまま見る見るうちに真っ赤になっていく聖杖さん。後ろで天宮さんが「え、杖が赤くなってる……」と驚いている。
さて、聖杖で遊ぶのはほどほどにして、仕事を終わらせようか。
俺は目をぐるぐるさせ始めた聖杖を見て、この後のことを考えるのだった。




