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Ally アリー  作者: 杁唖
5/5

Ally 5

「”喜多川原子力発電所”まで」


俺が考案し、作り出した喜多川原子力発電所。

一見おかしな行き先だが、タクシーのおじいさんは当然表情一つ変えなかった。

「はい。かしこまりました」

プログラムであるおじいさんは、そう言って前を向き直してハンドルを握る。

ーーふん、黙ってプログラム通り役を演じてろ。モブキャラが。

などと思っても口に出せないが……

そんな時、隣に座ったアリーが口を開く。

「どうして原子力発電所なんです?」

アリーの姿ーー声も音もこの世界に干渉されない。よってタクシーのおじいさんも、アリーの存在に気づかない。

いくらアリーが大声で話そうが問題ないが、俺の方はそういうわけにもいかないのだ。

すっとカバンからイヤホンを取り出し、どこかに繋ぐこともなく片耳に取り付ける。


「すいません運転手さん。ちょっと通話繋ぎます」

一言嘘を言い残し、通話と偽って隣のアリーに返事する。

「もしもし。分からないかアリー?原子力を使って、俺が何をやろうとしているのか……」

「……仮想現実世界を盛大にバグらせる。貴方はそう言っていましたが……」


「あぁ、世界を一瞬でぶっ壊す」

「確かに原子力発電所は全壊すれば、だいたい地球の半分が爆破汚染されます。けれど残念ながら、全世界を崩壊させるバグにはなりません」


アリーはどこか言い辛そうだった。

けれどーー俺の計画に死角はない。


「おいおいアリー。誰が全壊させるなんてそんな優しい事言ったよ。原子力を中で超圧縮させるんだ」


自分でもすごい計画だと思った。


そもそも、俺が作った原子力発電所は、過去の事故をベースにして作ってある。例え旅客機が衝突しても壊れない。

それを逆に利用する。まさかこんな使い道になるなんて、思ってもなかったけれど。


本来の原子力発電所はーー水による温度調節と、制御棒による物理的抑制。それらが核分裂エネルギーをコントロールする役割を果たしている。


それじゃ逆にーーそれらを取っ払うとどうなるか。


原子力発電所の核融合炉内は、核分裂反応が連鎖的に起こり続ける。


そしてそのエネルギーが集積され、密度が上がり続けーーやがて……



「宇宙を飲み込む莫大なエネルギーーー『ブラックホール』になる」



仮想現実世界最大のテロを行う。


現実世界でほくそ笑んでいる、神気取りのプログラマーめ……!あいつらの誤算は、この俺を相手にした事だ!



タクシーを降り、目の前には巨大な球体の建造物がそびえ立つ。


喜多川原子力発電所。

ここで俺はーー世界をぶっ壊す。

「中は堅いセキュリティですよ。喜多川颯太はどうやってこれを突破するのですか?」

それは俺にとっては愚問だった。

「硬いセキュリティたが、俺の作った発電所だ。入れない筈がない」

そう言って、広い入口駐車場を早足で歩く。

この先にある守衛室を潜れば、発電所内に入れる。その直前でーーその声が響き渡った。


「ーーふうちゃん!!」


俺の動きがぴくりと止まる。

声でわかるーー

ふうちゃんという名称でわかるーー

振り返るとそこに彼女はいた。

不安そうな表情を浮かべたーー和水佳奏(なごみかなで)の姿がそこにあった。


「か、佳奏……!!」

「ふうちゃん……何やってるの!?病院に行くんじゃなかったの……!?」

佳奏が目の前にいるーーそれがこの世界にとって、何を意味するのか明白だった。

この目の前の佳奏は、俺の行動を止めるためにここに出現した。

出現させたのは、おそらくプログラマーの意向。

つまりーー俺の計画はバレていたという事になる。



それは負けーー死を意味していた。

やばいやばいやばいやばい。

もうなりふり構ってはいられない。


俺はすぐに、救いの手ーーアリーに助けを乞う事にした。

けれどーー

辺りにはいつの間にか、アリーの姿が見えなくなっていた。

「なっ……!?」

俺はきょろきょろと、必死にアリーを探す。

「アリー!!何処だ!?何処にいる!?くそっ!こんな時に!!」

大声で辺りに呼び掛ける。しかし反応は返ってこなかった。

代わりに、ぞろぞろとこの世界のモブが集まってきた。


まずいー!!!

消されるー!!!


「こうなったら無理やりここを爆破させるしかーー」

頭で何度も何度も、「死にたくない」を叫んでいた。

その時だったーー



バチンッ!!!



その音は、一瞬で沈黙と冷静を作り出した。

意識がすっと冷めていく。

「あっ……」

気がつくと目の前には、泣きじゃくる佳奏の姿があった。

遅れてきた頬の痛みは、今まで味わった中で、恐らく1番の痛みだった。


とても重いーー想いのこもったビンタだった。


消されると思っていた俺は、当然何が何だか分からない。

すると佳奏はしゃくり上げながら、自身のスマートフォンで文字を指で打ち込んだ。

「『アリー』ってふうちゃん言ってたよね?」

そして、俺に画面を覗かせる。



見せられた画面は、動画投稿サイト。検索されたキーワードを、俺は思わず読み上げてしまった。

俺はーー思わず目を疑った。



「……『Ally』!?」



再生された動画はこうだ。

8ビットで作られた、十数年程前のレトロゲーム。

そこには見覚えが新しいマスクの人物が現れ、次々と人を騙し、不幸にするというものだった。

その内容はなんとも皮肉なそれだった。


「他人に悪夢を魅せるマスクの怪人『Ally』……!幼稚園の時、私のお兄ちゃんが持ってたホラーゲームだよ。ふうちゃん覚えてない……?」


俺は耳を疑った。全てを疑った。

そして佳奏の口から、驚きの真実を聞かされる。


「ーー最近ネットで話題になってるよ……このゲームをプレイした人が、次々とゲームのように疑心暗鬼に襲われるって」


佳奏の言ったレトロゲームの内容は、まさに今の俺そのものだった。

今まで見えていた歪はーー全て俺の疑心暗鬼が見せた思い込み……!?!?

いや……!でも……!そんな筈ない……!

そう頭では言っている。ここは偽物の世界だ……!目の前にいる佳奏は……と。

けれどーー


佳奏の泣き顔はーー本物だった。


心が本物だと叫んでいた。


全てを悟ったその瞬間、俺の身体は膝から崩れ落ちた。

「お、俺は……!」

佳奏になんて酷い事を……!

激しい後悔が襲い掛かる。


佳奏……!

俺はお前に、心から伝えたい事があったんだ。

それなのにーーいつから俺は……!

大好きな佳奏さえも信じられなくなった……

俺は最低だ……


けれどーー

ーーこんな俺にさえも、この子は本気で泣いてくれている。

心が激しく動かされたのを感じた。そんな俺の心を読み取るかのように、佳奏は泣きながら大声で叫んだ。


「心配したよ!ふうちゃんのこと!本気で心配したよ!だって、ずっと好きだったもん!大切だから!!」


それは思ってもみなかった、佳奏の心からの告白だった。

俺は嬉しさと喜びで、胸が張り裂けそうだった。

もう佳奏を疑わない。

世界全てが敵になっても、佳奏だけはどんな事があっても守っていく。

俺はすっと、膨らんだポケットに手を入れた。



「佳奏……渡したい物(気持ち)があるんだ」




ピコピコピコピコ……

暗闇の中。ボタンが激しく連打される。

液晶画面だけが、不気味に光る。


「いや〜面白かったですね。どうでしたか?ゲームプログラムの主人公に、『その世界はプログラムだ』って教えてあげるというのは」


不気味に光り照らされた、笑顔に固まったマスク人物。

クククと笑い、持っていた携帯ゲーム機をパタンと畳む。


「さて、今これを読んでいる貴方は、この”世界の真実”をどれだけ知っていますか?今夜ーーその答え合わせに伺います」

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