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少年ジャンプで週刊連載に向けて、47ページのミステリーを描きました。
これからもどんどん、より面白いシナリオを描くライターを目指します!
これからも応援よろしくお願いします!
魂を削って描いたので、是非気軽に読んでいただけたら嬉しいです!
漫画ネーム原稿版もございますので、よければTwitterの方で連絡お願い致します!
そいつは今日も現れたーー
※
俺はいつの間にか、音も光もない、上も下もない異質な空間に立ち尽くしていた。
ひどく意識が朦朧とし、激しい嘔吐感に襲われる。それはその筈、この謎の空間に酔っていた事もあるが、それ以上に俺はこの次に起こるであろう出来事を知っているからだ。
背後から感じる不気味な気配。
チクチクと背中に刺さる視線。
俺はゆっくりと、恐る恐る振り返る。
そいつは今日も現れたーー
暗闇の中ーー
不気味に笑うマスクで顔を隠した人影が、黙って俺を見つめていた。
男子高校生の俺と似た体格、170前後のそいつは、いつもは特に何をするわけでもなく、黙ってこちらを伺っているのだがーー
振り返ったその瞬間、マスクは俺の視界を覆うように近づいていた。
冷たく吐き捨てるように、俺の耳元でそいつは言った。
「もうすぐそちらに行きますからね」
※
「颯太ー!!喜多川颯太ー!!」
突如何処からともなく叫ばれた少女の大声が、俺ーー喜多川颯太を助け出す。
ガタッ!!
激しい衝撃音と、背中に走る痛みで、俺は自分のーー本当の状況を思い出した。
天井が見える……
どうやらまた見ていたらしい。
何度も見てしまっているのだが、まるで本当に魂を持っていかれそうな、深く闇に堕ちていく悪夢。
冷や汗をかいたが、無事起きられたのだ。俺は安堵の胸を撫で下ろす。
茜色に差し込める夕日の光が、まるで半世紀ぶりに浴びる光のようで有難かった。
俺はそのまま床に倒れたように仰向けながら、視線を窓とは逆の方にずらした所でーー
囲まれた複数の学習机と、見慣れた少女が目に止まる。
くすくすとコチラを笑っている。
俺のおバカで派手な倒れ方が、ツボに入ったらしい。
その瞬間、ここは放課後の教室だった事を思い出す。
「ねぇ何寝惚けてんの?間抜けな顔してるよふうちゃん。早く起きて。でないと先帰っちゃうよ?」
「間抜け!?マジで!?ってか幼馴染だからって、そろそろふうちゃんって呼ぶのやめてくれ」
和水佳奏ーー長髪グレー色(ことりベージュとかいう色らしい)ヘアーで、整った顔つきから、クラスどころか学校中で人気が高い。
「ふうちゃんはふうちゃんでしょ?もう10年以上もこの呼び方だよ?ねーふうちゃん」
俺は颯太だからふうちゃんである。ニコッと俺に笑顔を見せた。
俺たちは幼稚園からの仲である。同じ小学校と中学校を卒業して、そして揃ってここの高校に入学したのは、もう半年前の話だ。
俺が立ち上がろうと片肘を立てたところで、佳奏は思い出したようにそれを言った。
「そういえばふうちゃん。今日の放課後に、何か話しあるって言ってなかった?」
「えっ、いやそのあの……!」
俺の表情は赤く、口調が焦る。
そう俺はーー和水佳奏に想いを伝えるんだ……!
今日!ここで!
今まで言おう言おうと心に決めた事は多々あったが、実際に本人を呼び出して、逃げられないようにしたのは初めてだった。
もう逃げられない!今日こそ告白するんだ!
ずっと好きでした。付き合ってください……と。
その時だった。急に夕日を遮るように、窓の外にそれらは現れた。
ドタドタドタ!!!
窓の外から、複数の様々な音が入り交じって聞こえてきた。不規則なリズムの足音と、成人男女数人のガヤガヤとした慌てた声。それと時々聞こえてきた、擦れ当たった機材音。
そしてそれらは窓を覆うように、この教室を機材ーー大型TVカメラで撮り始めた。
その光景はまるで、ゾンビに囲まれた映画の登場人物みたいな気分だ。
この教室が一階部に位置しているから、このテレビ局の取材陣は好き勝手に教室内を撮影できる。
こいつらは別に、何の変哲もないこの教室に興味がある訳では無い。
うんざりする程分かっている。目当てはこの俺だった。
今日こそちゃんと、佳奏に想いを伝える筈だったのに……!
俺はゆっくり立ち上がり、窓の向こうの取材陣を睨みつける。
けれどお気楽な取材陣は、動いた俺をカメラに収めながらーー
「動いた!なんて賢そうな表情だ喜多川颯太!」「これが100年に1度!IQ300の天才高校生か!」「『現代のピタゴラス』の異名を持つ高校生!私達は今!歴史的人物をカメラに収めています!」
なとど好き勝手言いながら、まるで俺を珍獣扱いした番組を作っている。ここは動物園じゃねぇってのに……!
佳奏は怯えながら言った。
「せ、先生呼んでくる……!」
「無駄だよ佳奏……!大人が1度でも、俺の味方してくれた事があったか……!?あいつも俺の事、人間なんて思ってない……!」
俺ーー喜多川颯太は人より脳の回転が早かった。
見た記憶は瞬間的に覚え、必要な知識は決して忘失しない。
最初に異変が発覚したのは4歳の頃だった。俺は何気なく父の書斎で遊ぶ事が多かったが、様々な国の書籍が多いその書斎で遊ぶ内に、幼少期にも関わらずどんな言語で書かれた書物も読み尽くして理解したという。
それからというもの、すっかりそれに浮かれた母親が、俺を小学生の頃にいくつものノーベル化学賞を取らせたのだ。
アメリカの一流大学へ飛び級の話も来ていたのだけれど、俺は普通のーー佳奏と一緒に高校生活を送りたかった。
「このマスコミらは、学校の許可を得て敷居を跨いで来てる……!俺の両親も、俺がーー喜多川家が有名になる事に歓喜してる……!」
なんとしても、佳奏だけは守らないと。
俺のせいで、佳奏を巻き込む訳にはいかない。
そんな時、俺の表情を見た佳奏が、ガシッと俺の腕を掴んで言った。
「気にしないで帰ろっか!一緒なら大丈夫怖くない!それに、外部の人達が知らない裏口から逃げちゃえばいいんだよ!」
そう言って逃げるように、俺を引っ張るように歩き出す。その佳奏の後姿が、どこか頼もしくカッコよかった。
ああ。再自覚再認識。
世間であれこれ好き勝手に言われてるが、俺はこいつといる何気ない平凡な毎日が大好きだ。
そしてーー佳奏の姿を見て改めて思う。
どんなに世界で1番になろうが、俺は佳奏の1番にならなきゃ意味がない……!
俺はチラッと一度、マスコミ陣の方へ視線を移した。
すると、その異形な光景に目を疑った。
思わず目を見開いて立ち止まる。
「なっ……!?」
窓の外でマスコミらが一斉に、形を変えて歪んでいた。
人としての原型がまるでない。
手足がまるで染色体のように、捻じれ交わって崩れた者。
モザイクのような靄がかかって、部分部分を隠した者。
頭や手足が、本来の数を超えて生やした者。
俺はそれらを一瞬で、『化け物』の一括りにして恐怖する。
思わず悲鳴を上げそうになったが、その次の佳奏の一言で状況が大きく変わった。
「ふうちゃん早く帰ろ。日が暮れちゃうよ」
そこだけ聴くと、ごく一般的な日常会話……それがこの異形な状況において、果てしなく浮いていたのだ。
「ほらふうちゃん。ぼさっとしてる時間はないんだからねー」
佳奏には見えていないのか……!?
俺は首を左右に降って思考を入れ替え、もう一度目の前の異形光景に目を向けた。
恐る恐る……
するとそこには、先ほどの歪が嘘のように、正常な光景に戻っていた。
あ、あれ……!?
目の錯覚だったのかな……!?
「早くしないとマスコミ、教室に入ってきちゃうよ」
「……ああ、ごめん」
佳奏の言う通り、ここは考えていても仕方がない。早くこの場から離れないと。
けれどーー俺は必然的に先程の夢を思い出す。
『もうすぐそちらに行きますからね』
夢で俺に襲いかかろうとして、その不気味な意味深セリフを言い残した、謎のマスクの人物。
首を大きく左右に降って思考を改める。
何考えてんだ俺は……!
あんなの只の夢だろうが……!
気にするな……!考えるな……!
俺はどこかひきつり笑いで、連れられるように教室を後にした。
ガヤガヤとマスコミらが騒ぎ立てる。1人が先陣を切ったように言った。
「喜多川颯太を追うぞ!校門に先回りだ!」
後に続くように、束になって回り込むように校門の方へ向かった。俺ーー喜多川颯太という1人の天才を追って……
その時俺はまだ、俺の知らない所で怪奇異変が起こっているとは、知る由も、考えたくもなかった。