分岐点
まだ関東では桜もつぼみのままであるが、空は青々と澄み渡り、見える限り雲一つない陽気だった。比較的不安定なこの時期には珍しい快晴で、この門出を祝福するかのようであった。
「あーあ、終わっちゃったなー」
名残惜しそうに、というには少々軽いが、それでも寂しそうに呟いた。独り言のつもりであったが、隣の人には聞こえていたようで、友人も寂しそうに返す。
「終わったね、高校。大学は、同じ人も沢山いるけれど、バラバラか」
そう思うと、中々に寂しさも増してくる。今まで当然のように隣にいた友達が、意識的に会おうとしなければ、会えないようになるのだ。何時でも会えると言えば簡単だけれど、学校の意味は大きかったのだなと、ふと感じる。
隣を歩く友人も、四月からは違う大学だ。お互いに気は合うし、ずっと一緒だと何となく思っていたけれど、目指す学部すらも違ったのだ。有名な学部を望んだ私と違って、ちょっとマニアックな学部を望んだ友人は、中堅のマンモス校に進学した。
既に卒業した学校から離れ、暫く見ることもなくなるだろう駅に向かって進む途中に、一本の桜の大木がある。その木を見上げて、友人が少しばかり詩的なことをいう。
「この桜が咲く頃は入学式で、ちょうど出会いの頃だな」
その言葉にハッとした。
友人は、後ろを振り向かない。半歩前に出て、こちらに表情を見せようとはしない。
泣くようなタイプではないけれど、複雑な表情をしているに違いない。寂しさと、それ以上のワクワクで。こちらまで、そんな気持ちになってきた。
その後、最後の日であるにもかかわらず、無言で歩いた。そして、本当に、高校生としては、その友人と最後になる分岐点。
振り向いた友人は、とても『良い顔』をしていた。
「またな」
こちらも『良い顔』を返す。
「ああ、また」
大きく一歩踏み出した。
後ろは見ないで、真っ直ぐに。
――未来へ。