プルミエ砦編2
「ここは?」リーフムーンが眼を開けると簡素な作りの屋根が在った。
「お目覚めですか?」とフルフロラは覗き込んでくる、なんだか近い気がする。
「ここは私達の村ですよー」何かと気になっていたが、彼女の語尾を伸ばすのが少々苛立つ、自分は敗北して、拉致された様だ。
村と聞いて、リーフムーンは眼を閉ざし、畑を耕し呑気に手を上げ挨拶を交わすゾンビ、井戸端会議をカツカツと響かせるスケルトンを思い、晩餐に並ぶアンデッドに囲まれた自分を続けて想像する。
鎧を脱がされ、下着とインナーしか着ていない自分の胸元から腹部を見て、生きながらに腹を裂かれ臓物を喰われると想像し暗い気分になる。
「殺せ」未だにしげしげと此方を観察するフルフロラにリーフムーンは多少の震えを帯びた声で言う。
キョトンとした顔をするフルフロラは、その言葉に気付き、満面の笑みで言葉を返す。
「いいんですか!」なんだ殺す気など無…笑顔に安堵を覚えたリーフムーンに、フルフロラは予想外の言葉を放ち魔力を解放する。「ハートスタンプ」聞いたことも無い魔法に自分の心臓は胸の中で収縮感の後、パンッと響き無くなった。
血流が喪失し、肺を膨らませても酸素は循環せず、息苦しさにハアハアと肩を上下させ、水に溺れる様に手を足をバタつかせる。
目に見えて手足は蒼白く、冷たい色に変化していく。
にこやかに見守る彼女のプラチナの髪をプチプチと千切った感触が何故か蘇る。 こんなに苦しい時間を長く与える彼女に、恨みより寧ろ謝罪したくなった…
ヒィハヒィハ…酸素を取り込め無い呼吸が長く続く、視界は次第に霞み、暗くなる、意識も、い…し……
さて、フルフロラです。リーフムーンさんが殺せと、私と、友達になってくれると言うことで、苦しく無い様に、心臓を潰しました。
凄く苦しそうです…止めてください、そんな死にそうな眼でヒィハヒィハって苦しまないで下さい、だって、心臓潰れたらすぐ死ぬって思うじゃないですか、もう二分くらい苦しそうじゃないですか。
どうしましょう、誰かメディック、メディーック、あぁ、動かなくなりました、もう死にました?「もしもーしリーフムーンさん死んでます?」声に反応したのか、ビクンとリーフムーンさんの体が震えます…
さて、起きたら仲良しになれる様に準備しますか、フルフロラと仲良しに仲良しになるのですよー、支配の暗示をアンデッド化の魔力に重ね、リーフムーンさんに毛布を掛け、一緒の毛布に横になります。
仲良し…なかよ…なんだか眠いですね、寝る必要は無いんですが気分ですね、たくさん苦しくして嫌われませんかねぇ…クー
数刻後、リーフムーンが眼を覚ますと、毛布が掛けられ、リッチに抱き付かれていた。
意識はある、記憶もある、見える、聞こえる、リッチの柔らかな感触に自尊心が傷付く、しかし、呼吸は無い、できな…必要無い、心拍も無い…
「アンデッドか…私は…」リーフムーンは呟き、抱き付いたままの同胞となったフルフロラのプラチナの髪を撫でた、その時パチリと眼を開ける彼女を見て、そのまま優しく撫で続ける。
はい、此方フルフロラです、なんだかピロートークが始まりそうです…
あれですか、良かったよ…とか言われるんですか?私優しくして貰えたんですか?事後ですか?なんか髪を撫でまくられです…
な、なんだか気持ちいいですよ、リーフムーンさんテクニシャンです…なんかこう、な、なんかー、「千切ってすまなかった…許してくれ」彼女の言葉に私は、「大丈夫れふ」変な語尾になる。
は、仲良しになる暗示のせいですね、なんという効果、流石だ私、なんか、触られるのってこんなに気持ちいいんでしたっけ?なんかー、なんかー、思わず手を回して抱きしめちゃいます。
「や、優しくして下さい」フルフロラは両の手を背に回して熱っぽくリーフムーンに呟く…
此方フルフロラ、もうゴールしてよかとね?行けるとこまでいくっちゃ…「あう」
垂れ掛かるフルフロラの頭にチョップが入る、若干照れた様子のリーフムーンの顔が手の影から見える。
少し強張る声音で、「そういう意味ではない…」とリーフムーンは肩に手を掛け、まさにしがみつくフルフロラを優しく離しながら言う。
そういうのが残っているのか少し気になるリーフムーンだが、謝罪を済まし、嫌われて無い様子に、我にかえる。
「現状を確認したい、お前の目的はなんだ?私を殺してアンデッドにしたかったのか?アンデッドの軍団でも作っているのか?世界でも滅ぼすのか?」口に出したら質問が止まらない、キョトンとするフルフロラにリーフムーンは質問を止められ無い…
「……私は…」リーフムーンは最後に「どうしたらいいんだ…」アンデッドになり、居場所も失い、人では無いと何処にも入れてもらえ無いだろう、いや、生物から忌み嫌われる存在な自分をまだ受け入れられず…項垂れながらか細い声を漏らす。
さて、此方フルフロラ…リーフムーンさんがパニックとショックで凹んでます…ふむ、アンデッド化の了承は得たはずですが…(ベッドの中で語るのですー)えろフロラが何か言います…悪くないですね、(お前バカですか、空気くらい読めです)まじめフロラが指摘する、(もう裸で迫るですーさっきは行けそうだったですー)(バカが、まだ早いです、数日かけて心を許してから体に行くです)どちらも、えろフロラであった…
まあ、現状を見てもらって、助けをもらうですね、無難なのは、嫌がられるなかぁ…
「アンデッド嫌でした?」尋ねるフルフロラに、「それは良いんだ、私が殺せなんて言ったから、覚悟も無い癖に…」リーフムーンは続ける、「でも、死ぬのは怖かった…苦しかったが、それより怖かった…」死の瞬間を思いだし肩を抱き震えるリーフムーンに「ごめんなさい、苦しくしてごめんなさい、殺せって言われたから、私の友達になってくれるかと思って…わたし、助けて欲しくって…」弱ったリーフムーンにフルフロラは本音をぶつけてしまう。
人の死は一度だけ、過ぎれば意識も帰らないものを、記憶に刻みつけ、意識を戻す…弱くない騎士だが、死の経験はまさに、死ぬほど辛い経験だろう…
「すまなかった…落ち着いたよ…と、言うか感情が弱くなった?」リーフムーンは、自身の身体ばかりか、精神の変化にも戸惑い、違和感を覚える。
「アンデッド化の影響ですね、ホントはもっと感情の触れ幅が小さくなるんですが…まあ、死亡直後は自分含めて数回なんですけど…」
あまり聞きたく無い事を言い始めるフルフロラを座り直させて、リーフムーンは彼女に再度問う…「私はどうしたらいいだろうか…」
此方フルフロラ、本音を暴露したが現状があまり変わらないです…整理しましょう、リーフムーンさん傷心可愛い、嫌われてなさそう、私に先を委ねてる?
私のしたい事は…無理も多いです…無理な事かもしれません…
「私はお前に付いて行きたいんだが…まあ、その…何が無理なのかは解らないが…」リーフムーンの言葉にフルフロラは、「えっと…声に出してました?」失態を恥じながら問う。
「いや、アンデッドの事はよく解らんが…多分、指令を受けている感覚じゃないかな…」リーフムーンに伝わってしまってる様だ。
此方フルフロラ、緊急事態です…「何があった」これもです?「何でも無いです」「そ、そうか」あれ?伝わり過ぎでは?ピリッとしたリーフムーンさんがかっこよかったですが…チラリ…なんか照れて…ふむ、駄々漏れですか…緊急事態じゃないですか、いつからですか?何処からですか?…チラリ…
「最初はアンデッド化の影響かと思って無視していたが…目覚めてすぐかな…」ふむリーフムーンさん曰く、全部………
恥ずか死、しますね、あ、もう死ねませんでしたね、いや、まさか全部なんて…チラリ…リーフムーンさん頬をポリポリしてますね、あ、お臍の縁にホクロがあります、隠しちゃいました…
ふむ、全部出てますね、寝ながらアンデッド化した影響でしょうか?あれ?なんか睨んでる?あぁ駄々漏れです、駄々漏れでした!ため息吐かれました…もういいです、私はリーフムーンさんと二人で旅に出ます、捜さないで下さい。
「どうしてそうなる」ビシッとチョップが入る。「あぅ」フルフロラは呻く…その時。
「フルフロラ様、お戻りですか?ただいま付近の調査と偵察から戻りました。」男性の声がノックと共に室内に響いた。




