土使い襲撃編8
「なあ、リーフムーン、オレ風呂嫌いなんだよ、止めようぜ」ジタバタと抵抗するルルを小脇に抱え、湯の温度をみる。
「ふむ、少し熱いがまあ良いか」椅子に座らせ、櫛でルルのボサボサした髪を先に整える、時間はかかるが全体的に丁寧にと根元から毛先まで櫛を滑らせる、渋々大人しくしているルルはだんだん慣れてきたのか、お湯の熱気にポヤンとした表情をしている。
こんなものかと、今度は桶に湯を入れ、少しづつ髪を湿らせ頭皮をもみ洗い、湯で流していく。
「リーフムーン、もうめーあけていいか?」俯かせ、目を瞑らせているルルが、言ってくる。
「もう少し待て」二度、三度と丁寧に流し、髪を後ろにまとめてから「もういいぞ」と解放する。
「ふう」ルルはやっと自由になったからか、立ち上がり、逃走を図ったのでまた捕まえる。
「リーフムーン、もういいだろ」「身体をまだ洗っていない」ジタバタするルルに湯をかける、「熱い」とバタ付くので抱えたまま背中を濡らした布切れで洗い始める。
「うー」と言っているが、気にせずに擦っていく、裸を見ると肉付きは女性的だ、華奢だと思っていたが、年相応の女子として見れば健康的で部分的な発育も始まっている。
腹部や脇も優しく洗い、チラリと陰部も確認し、「ちょっとリーフムーンそんなとこ、自分でやるから」ルルが気がついて抵抗をするが、「遠慮するな」と丁寧に洗っておく、大人しくなったので手足も洗い、そろそろ冷めてきたであろう湯船に入らせる。
「うむ、きれいになったなルル」私は満足し、自分もさっと洗い、湯船でブクブクと口で泡を作って遊んでいるルルの隣に入る。
「しかしこのような場所で風呂に入れるのはありがたいな、ルルのおかげだ」
「そ、そうか…ブクブク…」気に入ったのか嬉しそうにブクブクと遊んでいる。
さて、もうフロラは着いただろうか、獣人は礼節を重んじれば無下にはされないだろうから大丈夫だと思うが…ルルが飽きたのか私の膝上に座り臍から上を外気で冷ましながらキョロキョロしている。
確か森を抜けて大河の手前辺りだと言っていたな、ここからそこまで遠くは無く、森に三日、国まで二日ほど、往復十日か、滞在がどれ程になるか…
「考えても解らんか…」
「リーフムーンどうした?」
「フロラがいつ帰って来るかと思ってな」
「どうしてだ?」白銀の瞳で見つめてくる。
「その、なんだ、ルルをアンデッドにした事をどう言おうかと、この風呂もなんというかご機嫌とりみたいな意味もあってな、怒らせたらすまん」
「ふうん、大丈夫だよリーフムーン心配症だな」
「そうなのか?」
「なんならオレがここを鉄壁の砦にしようか?」ルルがスルリと滑る様に私の腿と腹の隙間に収まる。
「そうすりゃあリーフムーンは感謝こそされ、悪い様にはならないんじゃないかな?」
「どうだろうか…」ルルをそっと抱く。
「別に失敗したからって次に生かせばいいだろ」まるでルルに教えられている様だ。
「そうかもな」もう少し気楽に考えようと私は思った。
「そういえばリーフムーン」
「どうした?」ルルは耳元に近づき、小さめの声で囁く。
「あそこからオッサンが覗いてるけど、どうする、落とすか?」
「グルダンか、まあ、背中でも流してやるか」
「なんだ、リーフムーンはあいつが好きなのか?」
「わからんが、あれだけ好意を示されたら無下にするのもな」
私はルルを脇に下ろし、一息に壁を飛び越え、トンっとグルダンの背後に降り立つ、着地の音にグルダンがピシリと硬直する。
「た、隊長…」硬直したまま冷や汗を流してポツリとグルダンは言う。
「そんな所に居ないで中に入れ、背中くらい流してやるぞ」と言うと。
「すいやせんでしたー」とエコーを残すように走って行った。
「どうしたんだ?」私はグルダンが走り去るのを見送ると湯船に戻った。
「逃げられてしまった」
「オッサンはチキンだな」ルルがブクブクを再開しながら言う。
「まあ、まだ裸の付き合いをするには早いのだろう」
「オッサンが口だけなんじゃねえの」
「さあな」
夜が更けるなか、ルルと風呂から上がる、グルダンしか砦内に居ないので、下着に首からタオルをかけただけの格好でルルと向かい合う。
ルルの髪を乾かす為になかなか手間がかかる。
「適当でいいよリーフムーン」ルルは飽きてきたらしく口数が増える。
「風邪をひいたらいけないだろ」
「ひくような身体じゃ無いんだけど」ルルは半眼になる。
「あとは髪型をどうするか…とりあえず左右を縛るか」後ろに回り、細めに裂いた布をリボンにして髪を纏め、無駄に伸びた前髪をナイフで短い整える。
「こんなものか」
「見た目なんかどうでもいいよ」
ツインテールと呼ばれる髪型にしてみた、昔の記憶では、どんな魔物だ?と兄さんに聞いたら鼻からパスタを吹き出したな…と思いだした。
「なあリーフムーン、この髪型は名前とかあるのか?」ルルが聞いてくる。
「ツインテールと言うらしい」デジャブを感じる。
「そうか、尻尾が二本みたいだからかな」ルルは首を左右に振り、髪が顔にペチンペチンと当たるのが気に入ったのか繰り返している。
おや…なんだろうか、自分の教養の無さが痛い気がする、こんどグルダンに集中講座をやらせよう。
「隊長…さっきはすいやせ……ん…」ちょうど良い所にグルダンが来た。
視線を送ると直ぐに引っ込んだ。
「隊長も嬢ちゃんも服を着てからにしてくださいよ」あんなに焦ったグルダンは初めてだな、捕虜の時はふてぶてしかったのに、あれは演技だったのか?
とりあえず服を着てからグルダンに着替えたぞと声をかける。
「どうだ、オッサン、ついんてーるだぞ」ルルがペチンペチンとグルダンに自慢しに行く。
「おう、嬢ちゃんには良く似合うな、隊長がやったのか?」
「うん、リーフムーンにやってもらった」ペチンペチンとまだやっている。
「そうかい、ツインテールって魔物が居てな」
「オッサン、流石に二本の尻尾ってぐらいオレでも解るよ」
「なんだ、つれねぇな」
「バカにすんな」
よし、あいつは無いな、フロラに聞こう、考えも解るしな。
「そうだ、グルダン夜中は任せて大丈夫か?少し村に用事ができたんだが」
「いいっすよ、任して下さい」
「リーフムーン、オレも見張りできるぞ」言うやルルがスラッとしたゴーレムを作り出した。
「ほう…ルルもしかしてゴーレムの視界が使えるのか?」そういえばルルは最後前すら見ていなかった。
「おう、一応実験中だから不安定だけどな」
「こいつはスゲェ、斥候がタダでできるなんて」
「ま、まあな」ルルは称賛され、照れている。
「つまり、私と移動しながら砦の監視や斥候ができると」
「隊長、地味に俺を監視するとか混ぜんで下さいよ」
「追々できそうだぜ、なんか死んでから調子良くって」
「ああ、私もそうだったから解る」
「俺は解りたくねえっす」
どうやら大丈夫そうなのでルルと二人、村へと戻り、翌日の朝に砦へと帰って来た。




