土使い襲撃編7
目を瞑り、暗闇の中で私は後悔していた。
今回はかなり堪えた様で、身体が鉛の様に重く感じる。
私は…死んでからも駄目な奴だ…このまま土に帰るべきではないだろうか…
悔やみながらどれ程の時間が経っただろうか。
「なんだ?」なにやら髪を触られる感覚に目を開ける…
白銀の瞳が大きく見開きこちらを見ていた。
「リーフムーン起きたか、心配したぞ」抱きしめたままのアジールルがなにやら嬉しそうに髪をペタペタと触り続けている。
「アジールル…死んだんじゃ…」もう見慣れたボサボサの髪が私の顔に垂れてきてむず痒さに少し払う。
アジールルはコロンと横に転がり私と同じ様に仰向けに寝転がる。
おかしい、完全に事切れて身体が冷たくなり、死に至っていたのは間違え様が無い。
「なあリーフムーン」アジールルが今度は私の腕をペタペタと触りながら隣で囁く。
「やっぱりオレ死んだよな、心臓も動いて無いし」顎を引いて自分の胸元を見る、しだいにションボリとした雰囲気を纏う。
「間違い無いな」私は釣られてアジールルの目線を追いかける。
「リーフムーンも心臓動いて無いよな」白銀の瞳と目が合う。
「ああ、私はアンデッド、既に死んだ人間だからな」白銀の瞳が収縮する。
「オレもか?」アジールルの問いに、「みたいだな」と曖昧に答える。
「私のせいでお前をアンデッドにしてしまった様だ、許せとは言わない、恨んでくれ、すまない」ストンと謝罪の言葉が出る。
「別に恨まないよ、リーフムーン、リーフムーンに負けてなんだかスッキリしたし」
「恨まれた方が楽なんだがな、死なせた手前私は…」
「オレが勝手に死んだだけだよリーフムーン」
「だが、原因んは…」
「オレだ、リーフムーンは悪く無い、しっかしリーフムーンは見た目や言動の割に繊細だな、なんか姉ちゃんに似てる気がする」
まだイールと変わらないだろうに、私よりしっかりしてそうだな…
アジールルがまたコロンとお腹上に転がってくる。
「リーフムーン」アジールルはキュッと私の服を握りしめる。
「どうした?」
「オレ死んだんだから名前を変えたいんだ」
「必要か?」
「うん、なんとなく、アジールルは死んだってけじめをつけたい」
「そうか…」私は何も思わなかったな…
「何か考えてくれ」
「私がか?」
「リーフムーンがいい」
「ふむ…」アジールルが期待しながらコロンコロンと私にしがみ付きながら左右に揺れる。
「アジールル…から取ると……ルルだと女っぽいか…」ブツブツ呟くと、「オレ女なんだけど」と言ってくる。
「え?」流石に動揺していると、「ルルかぁ、なんか新しいオレみたいでいいな、うん、決めた、オレはルルと名乗る」
あっさりと名前が決まった、アジールルは名を改め、ルルと名乗ると私に宣言する。
「そういえばリーフムーン、オレは負けたんだから何をしたら良い?もう死んだから死ぬ以外がいいんだけど…」律儀なもんだと思いながらボサボサの髪を撫でる。
「なんでそうなる…まあ、今更なんだが…」
「なんだ?」
「ルルを仲間に欲しかったんだ、味方は少なく、敵は…相手は世界規模、なんと言うか力が欲しかったんだ」
「そっか、リーフムーンもオレが欲しかったのか、オレとおんなじだな、解ったリーフムーンの部下になる」ルルがホイホイと進めて行くが…
「いや、違う」私は違うと言う。
ルルがショボンとなり泣き出しそうな顔をする。
「リーフムーンは、オレが死んだから要らないのか?」もう涙腺が決壊しそうだ。
「そうでは無い、仲間だ、部下では無い、対等が良いんだ」お互い生無くさ迷うアンデッドの手前なのか、フロラがそうだからか、対等な関係を求める。
「へ?……うん解った」ルルはニコリと笑い、なんだか恥ずかしいらしく顔を私に押しあて、なかまーと言いながらグリグリとしている。
「もちろん、ルルにも出来る限りの協力をしよう」ピタリとルルが固まり、顔を上げる。
「フロラは…私の主人は私の兄さんがやっている奴隷解放を手伝ってるみたいでな、もしかしたら村にいるかもしれない」白銀の瞳がこれでもかと開かれ、私を掴む手も服に穴を開ける。
「ホントか?」
「居るかは保証できないがな、調べに行こう」
「行く、すぐ行こう、今」
「せめて後始末してからにしてく…」
「どうした?」
「グルダンが穴に落ちてた気がするんだが…」
「ああ、あのオッサンか?」
「たぶんそうだ、生きてるか?」
「生きてやすよ隊長」土壁の向こうからグルダンが濡れた布切れを持って現れた。
「ふむ、忘れていたすまない」とりあえず謝っておく。
「隊長ひでぇっすよ」
「助けてやったんだからいいだろ、リーフムーンを悪く言うな」
「坊主が落としたんだろうが」
「坊主じゃないオレはルルだ、ついでに女だ」
「へ?嬢ちゃんかい…」
「そうだ」
「まあ、どうでもいいっすわ」
「そうか?」
「子供に手を出すなよ」一応釘を刺す。
「なんでそうなるっすか、俺は隊長一筋ですよ」
「リーフムーンはオレのだ」ルルが食い付いた。
なにやら言い争いが始まるが、「まあ、なんだ、グルダン…」私は言っておく。
「隊長?」ピタリと言い争いを二人は止める。
「私としては、まあ、なんだな…死人を追いかけ無いで家庭でも築いたらいいんじゃないかなと思うぞ…」常々思われているのは知っているが、どうしてもアンデッドというのが壁になってしまう。
「解りやした、隊長に相応しくなるまで精進しやす」
「は?」
「では俺は先に破損箇所を探してきやす」グルダンが去って行く、結局濡らした布切れはそのまま持って行った。
「あのオッサン頭悪いのか?」
「かもしれん…」
ルルにも理解できた断りをどう解釈したのか、グルダンは一人駆け回る。
「まあ、ルルは砦の強化とこの囲いの撤去を無理の無い形で頼む」
「解った」と言うや、辺りが平野に戻る。
「速いな」ポツリと言うと、ルルは嬉しそうに「何か他にやって欲しい事あるか?」と聞いてくる。
「そうだな…」私はフロラが好きそうだなと、風呂はできないか?と聞いてみた。
「風呂…入れもんはできるけど中身は無理だぜ」とルルは言う。
「二、三人入れる程度の物を頼む、水は汲めばいい、温めるなら焼いた石でも入れたらいいさ」砦内のスペースに風呂、壁、屋根、石を焼ける窯が作られた。
風呂には焼石を浸ける為に二重底まで作られた。
「これは凄いな」温かい湯気が夕暮れに染まるプルミエ砦から立ち上る。
場違いが甚だしいが立ち込める湯気に影が映った。




