プルミエ砦編1
「今日もいい天気ですねぇ」と、のんびりした声が風に流される。
彼女は、軽く伸びをして足元の名も知らぬ草花と共に朝日を浴びる。
ふわりと揺れるプラチナの髪に隠れた彼女の肌は薄黒く、土気色で、人の肌では無い。
柔らかで豊満な身体をローブに押し込み、魅力的な線を形にしているが、傍らに居るものなら、呼吸を行っていない事に気付くだろう。
リッチと呼ばれて幾百年か、彼女、フルフロラは本日も、のんびりとした口調で指示を出す。
「では、いきますよー」
私の言葉に地面から次々と召喚されるのは、ぞんびさんと、ほねさん、もう百体にもなる仲間達がワラワラと整列し、指示を待つ。
あの砦から刺さる視線、あの騎士さんなら、仲間に、いや、念願の友達になってくれるかもしれない。
私には、解る、あの人は私達を助けてくれる。
「とつげきー」
今日こそは、お話したいな…
せめて名前は教えて貰おう。
私は、にこやかな気持ちで砦に突撃していくぞんびさんとほねさんを眺めた。
「私が出る。」
リーフムーンの言葉に嫌そうに従い、堀を跨ぐ橋が降りる。
上質な鎧に、緑色の葉の様な装飾、騎乗槍を短くしたような円錐の槍、根元まで突き刺されば四肢など千切れ、体幹なら致命的な、二百ミリほどの穴が貫通するだろう。
彼女は愛槍を右肩に担ぎ橋を渡る。
後ろで、ギィ…ギィ…バタンと、橋が上がる。退路は無さそうだ…
「嫌われたものだな」リーフムーンは、百体ほどのアンデッドの群れに向かいながらボヤく。
「まあ、無理かもしれんがやってみるか…」自分が思いの外、まあ、解っていたからか、平常心で居る事に驚きつつ、呟き。
「オイ、リッチ、サシでやらないか?」思いの外のほほんとしたリッチに聞こえる様に宣言した。
あ、あの人女騎士だったんだ。私は少し嬉しくなり、「いいですよー」と返事を返す。
みんなを待機させ、彼女の前に立つ。
「私はリーフムーンだ、貴様はなんと言うんだ、リッチ」やや、高圧的に名を聞いた。
名などどうでもいいんだが、まあ、大将首を取れば死んでも御の字だろう、彼女が死んで暴走するであろうアンデッド百体は、自分だけではもたないだろう、体力が尽き、気力が尽き、死に至る。
救援は無理だ、嫌われ過ぎた。
逃走はしないが、無理だ、目立つ自分を隠す物は無い。
「フルフロラです」リッチは何か幸せそうに答える。
名前聞かれましたよ、もう行けますね私、リーフムーンさん、くぅなんかいいですね、サシでやらないかとか、ライバルですか、私ライバルですね、勝ったら仲間にしますよ。
やっぱり嫌とか言わせませんよ、お持ち帰りです、お持ち帰りますよ、リーフムーンさん。
仲良しになって、一緒に寝たり、修行したり、お風呂入ったり…
「武器は?」疑問を投げるリーフムーンに、「素手で」答えるフルフロラ。
「クッ、行くぞ!」余裕を見せる答えに苛立ちながら、リーフムーンは脚力に魔力を重ね、あり得ない速度の突きを放つ、紙一重に避けるフルフロラの横をすり抜け様に、空いた左手でプラチナの髪を掴みプチプチと嫌な音を立てながら勢いに任せ、地にねじ伏せる。
天を仰ぐフルフロラの眼前に愛槍を向け、「言い残す事は有るか?」必殺の突きを避けて見せた相手に言葉を投げ付ける。
「リーフムーンさん思ったよりお強いですね」私、久しぶりに、久しぶり過ぎて忘れましたが、転がされました。
「呑気なことで」リーフムーンは、槍先をチョンと摘まむ彼女に止めを刺さんと体重を掛ける。
動かない、体重を掛け、足が浮き上がるがびくともしない。
「今度は私の番ですね」彼女の、フルフロラの言葉にリーフムーンは愛槍を放してまで距離を取る。
何をする…頬につたう汗が自棄に気になる。
一撃に、かなりの力を込めたためか、呼吸が荒くなる。
カランと、愛槍が転がる。
目に入ったのは、先ほど掴み、引き倒したプラチナ…
零距離からの打撃に、鎧を無視した衝撃が胸に届く…
「コヒュッ」と口から息が漏れ、リーフムーンは意識を手離す。
「てったいでー」間の抜けた声が耳に残った。




