ハマの友人
横浜港大桟橋に黄昏がやって来た。
東京湾内クルーズの白い船が
深い警笛を成らして静かに岸を放れて行く。
甲板に佇む客達が、頻りに手を振っている。
スマートホンやデジカメで…
「おう、儂の事か。」
港に妙な物が浮んでいるので驚いているらしい。
ご存知の儂の愛艇「パルサーシリウス号」
そうだった。
この巨大なボトルシップも
これで三代目だ。
こんなもんで外洋を渡るなんて、気違い沙汰を繰り返して居ると
あっと云う間に硬質ガラスでも消耗してしまう。
今回はヴェネツィアのガラス職人サンチョ爺さんの孫の力作じゃ。
しかも、荒海に堪える様に硬質ガラスで、
ボトルの内面には紫外線をカットする溶液を塗って貰った。
三代目の孫は、学生時代に地元でレガッタの漕ぎ手で鍛えたらしく
こんな巨大なワインボトル(全長17メートル)を宙吹きと云う技法で
吹いて造ったものさ。大した肺活量だ。
「嘘じゃないぞ」
「法螺吹き男爵は嘘はつかない」
「ん。法螺はついても嘘はつかないんじゃ。」
「?」
「また疑っちょるな。」
「法螺と嘘は違うものじゃ。」
「字が違うじゃろ。説得力が無いか。」
「君と無駄話しをしている内に向こうの船は行ってしまった。」
「中々の麗人も居たようだが…」
「ま、仕方が無い。」
クルーズ船は夕日を浴び乍ら、横浜の山下公園や家並み
横浜タワーを残して小さくなって行きよった。
「儂はどうするのかって?」
儂は山下公園で地元の海の男と待ち合わせ。
「おうおう。」
やって来たのは横須賀ボーイじゃ。
と云っても、儂の古い朋じゃ。
「暫くだったね。」
「男爵元気かい。」
「古い言葉じゃ」
「朋 遠方より来る
また 楽しからずや!」
「随分と白く成ったじゃないか。」
「はっはっは。陸に上がった河童。」
「船の上が懐かしかろう。」
「そりゃそうだ。」