ときにはちょっぴりおふざけを
「シショー! シショー! すごいです、鏡だらけです!」
「そーだねー。ラズリーはなんでパンツ穿いてないんだろうねー」
弟子と師匠はとある国の跡地に来ていた。
砂漠の真ん中にあり、風化した建物ばかりの場所だ。
「ぎゃーーーー! 下にも鏡ぃぃぃ!」
ただ、どこを見ても鏡があるのだ。長い間、砂や風にさらされてきたにも関わらず綺麗な鏡が。
「そもそもね、僕は思うんだ。君はなんでそんなに高露出なものを着ているのかな? そのスカート部分ってちょっとでも風が吹いたら見えると思うんだ、それに前かがみになったりしゃがんだりしたときにも」
「うぅぅぅぅぅぅっ」
「はいはい、そんなに恥ずかしいならきちんとしたものを着なさい」
「なかったんですよぅ」
〝大戦〟によって地上のほとんどは吹き飛ばされ、荒れ朽ち果てた。残ったわずかな物資は当然の如く奪い合いになる。その中でまともな服が手に入るはずもない。
思えばなぜこの子は一人だったのだろうか。
「ねえラズリー。君のお父さんとお母さんはどうしたの?」
「死にました」
「あっ……うん、ごめん」
「私が殺したんです。だって、悪そうなお兄さんたちに襲われた時に私を好きにしていいとか言って縛り上げておいて行ったんですよ? だからその後逃げた私が魔物に襲われた時に同じようにしました」
「……よくやったね、そんなこと」
思い出せば相棒に同じようなことをされた覚えがある。確かあの時は、サキュバスの群れに襲われた時に縛られておいて行かれた。もちろん火のエレメントで縄を焼き切って風のエレメントで逃走したが。
二人は廃墟を散策しながら、照り付ける日差しをどうやって凌ぐかをお互いに考えていた。この場に影というものはない。どこかに鏡があり、それがすべての影を照らし出すのだ。
「シショー暑いですー」
「うん? 水のエレメントが使えるならミストスプレィイングっていう技があってね、マイクロ単位の水を創りだし続けると結構涼しいんだ。それに水を使って光を反射させるっていう小技もあるよ」
言われてすぐにやってみようとするが、ラズリーにはできなかった。
「できませんシショー」
「だろうねぇ、僕って霧をよく使うからできるけど、普段使わない人にはできない高難易度だもんねぇ」
「シショー……」
「はいはい、熱中症で倒れられても困るからおいで。ちょっと効果範囲を広げるよ」
「見ないでくださいね?」
「むしろ離れたほうが鏡の反射で恥ずかしいところが見えると思うのだけど」
途端にさっとラズリーがネーベルに近づいた。
「涼しいです」
「うんうん、もうちょっと頑張ってみようかな。たぶん……この廃墟全体を氷漬けにするくらいはできるよ」
「あ、寒いのでやめてください」
「だろうね。君、そんなに薄着だと、砂漠だと日焼けで危ないし、氷雪地帯じゃ凍え死ぬのが落ちだよ。日焼け止めとかないから気を付けてね」
注意されてマントでなるべく素肌を露出させないように覆う。鍔広の帽子のおかげで顔や首は大丈夫そう。それよりも軽装のネーベルはどうか? こちらはそもそも余計な光を反射させ、生命のエレメントで永続的な治癒を発動しているため日焼けはどうということがない。
「それにしてもラズリー、気付いてる?」
「何にですか?」
「……君ねえ、警戒は常にやるように。砂の下になにか大きなのがいるよ」
「す、砂の下ですか……」
「まあサンドワームとかの丸呑み系じゃないから、出てきた瞬間にモグラ叩きの要領で埋めてやれば問題ないかな」
と、ちょうど進行方向の砂の中から顔を出した砂漠ネズミ(体長二メートル程度の魔物)に向けて手を伸ばし、パーの形で振り下ろすとズボッ! と逆戻り。
「ね? 簡単でしょ」
「シショー、そんなことできません」
「汎用エレメントがあるなら氷でも創って落とせばいいよ」
「創れませんよー」
「低レベルなんだね……じゃあ君の固有魔法は?」
「んー……分かりません」
「まだ目覚めてないのかぁ。それが使えるようになれば少しは楽になるかもしれないけど」
同類がやられた音で気になったのか、顔を出した砂漠ネズミをモグラ叩きの要領で次々と埋めていく。対症療法的なものだ、気絶や痛みの悶絶から立ち直ればまた顔を出すだろう。そして襲い掛かってきたときが、砂漠ネズミたちが弟子と師匠のご飯になってしまうときである。
「ちょっとネズミ多くない?」
進もうとした路地の角から砂色のネズミがひょっこり顔を出し、即座に火炎弾を撃ち込んだ。
ぎょっとしたネズミが避けると、火炎弾は鏡に命中しそのまま吸い込まれてしまった。
「え?」
そして、そっくりそのまま鏡から吐き出された火炎弾がネーベルに迫る。
「面白いね」
パッと手を振り、水の壁で防ぎ止める。自分の魔法は自分で壊せる。どうやらあの鏡は増幅などせずに撃ち返すだけのようだ。
「とりあえずは要注意ってところかな」