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僕は、選び取った結末の末に……

 参加者の半数以上は死に至る。

 それが魔法使いの試験の変えられない姿。

 ある理由によって、絶対に半数以上は死ぬのだ。魔法使いになるために絶対に必要な覚悟を身につける為に、魔法使いがするべき事の為に。

 誰もが試験の最後で選択を強いられる。

 その選択を超えられるのならば、魔法使いの仕事……元人間であった魔物を滅することもできるだろうと。逆に超えられないのであればさらなる被害をもたらすだけと、その場で魔法使いに殺される。

 魔法使い全体としての使命はこれといって存在しない。ただ、この試験を設けている組織が「魔物を滅し、人類を存続させる」と謳っているだけだ。

 しかしそんなものに釣られて寄ってくる魔法使いは少ない。大きな集団に所属したい、身の安全を確保したい、咎められない殺人をしたい。理由は様々だ。

 だが、試験を超えた魔法使いの大多数は無慈悲。

 誰もが最後の試験を知らずに挑み、相棒とともに散っていくか、それとも……。

「…………っ」

 最初からこんな気持ちになることくらい、分かっていたはずなのに。

 最初から刹那的で儚く短い関係になることくらい、分かっていたはずなのに。

 最初から、この理不尽な最終試験のことを知っていたのに。

 なのに……。

「最後の試験だ、二人、殺せ」

 突然現れた試験官は、それだけ言い残して空に転移し、試験の成り行きを眺める。

 ネーベルの目の前には長年の相棒が無表情で立っている。その後ろからは天城が駆け寄ってくる。

 こうなると分かっていたのに、今では彼女に抱いてはいけない感情を抱いてしまっている。

 後ろを振り返れば、ひょんなことから一緒に旅を始めたラズリーが近寄ってくる。

 二人、とは。

 相手の二人では無い。相棒を含めた二人なのだ。試験を超える条件は、相手と自分の相棒を殺す。兎角、この場にいる四人のうち二人が死ねば、それで合格になる。最低一人の命を奪えば、試験には合格できる。

 これが受け入れら無くて、前回は逃げた。ミナと二人一緒だったから、執拗な魔法使いの追撃から逃れ、行方を眩ませることができた。無論、相手の二人は試験続行不可能、そして試験内容を知ったとして焼き払われた。

 今回はどうだ? 二人一緒だから逃げられる、ならばラズリーはどうなる?

 結局死ぬのなら……。

「ミナ……」

「どっちがいい?」

「……僕がやる」

 その問いかけに、ネーベルはミナに背を向けラズリーへと歩み寄る。

「シショー?」

「……ごめんね、ラズリー」

 やるのなら、ひと思いに一撃で。それが、ネーベルなりの優しさだった。無駄な恐怖を与えるよりも、無駄な痛みを与えるよりも、悲しい感情を抱かせるよりも、何よりも早く、分からないうちにでも葬ってしまえと。

 慣れた動きで無数の徹甲弾を中空に顕現させる。人など掠るだけでも致命傷だ。

 確実な力を用意し、確実に当たるように照準する。同時に視界が涙で霞んで、歪んで。

 撃ち出された死の雨が地盤ごとすべてを掘り返し、何も見えなくなるほどの土埃を巻き上げる。

「これで、いいんだよね」

 ずっと昔に決めたのだから、普通とはちょっと違う友達ミナを一人にさせないと。どこまでもダークサイドに落ちていきそうだったあの頃には戻さないと。

 魔法使いは全よりもたった一つの個を優先する。

 ミナも言っていた「守るべきものは最小限に、大切なものはあるだけで自分の弱さになる」と。

 降ってくる岩を見えない障壁で弾き、風のエレメントで土煙を押し流す。

「……そっか、それが君の魔法なんだね」

 魔法の顕現には、直前の感情に影響されるものがある。今回の場合は信頼していた人に裏切られたが故の、すべての拒絶か。

 青い力の壁に包まれたラズリーは、泣きながら崩れ落ちていた。

 乗り気では無いネーベルは、立て続けに魔法を放った。

 鋼を蒸発させる火焔は水に包まれて消えた。

 すべてを貫く高圧の雷撃は水の壁に阻まれる。

 戦車の装甲を貫く岩の砲弾は弾かれ、空に引き寄せた隕石を持ってしても通用しない。

 そして、使える手札を軒並みぶつけたネーベルは諦めた。

 魔法使いとしての常識に囚われなければ手段はあるが、そこまではしたくない。

 人としての道徳心を捨ててしまえばやりようはいくらでもあるが、そんなことしたくない。「シショー、どうして、ですか」

「……僕はね、君と一緒にはいられないんだよ。僕は余所から来たんだ、この世界の存在とはちょっと違うんだよ」

「私も、です……」

 水の象徴色である青を微かに纏った小さな翼が、ラズリーの背に薄らと顕現した。

「最初のあれは全部作り話、今まで一緒にいたのは人間観察、かな? 最初から分かってたよ、だって君、気配が人間じゃ無かったから。だからさ――どわぁっ!?」

 突然真後ろからぶつかられたかと思えば酷い頭痛に襲われる。すぐに治まったものの、続けて顔のすぐ隣に刀が突き刺さる。

「…………ミナ? なんで」

 強制的に魔力と魔法が奪い取られる。火のエレメント、風のエレメント、それぞれ二つ。

「ターゲット変更。相性が悪い」

「…………。」

「どうせ殺せないんだろう。……でも、ネーベル、お前はそれでいい。いつまでも変わらずに人として超えちゃいけない一線を守り続けているから」

「ミナ……」

 差し出された手を取る。

 そう、いつだって助けてくれた。とても強引でやり過ぎなところもあるけれど、それをネーベルが止める。

 なんでも出来て頼りになって、いつも武器を手に前に出て敵を引きつけるミナ。魔法以外はからっきしダメだが、魔法だけで見ればこれ以上無いサポートとして後ろから支援するネーベル。

 いろいろあっても、これまで一緒にやってきた相棒、かけがえのない大切な仲間。

「溺死させてやれ」

「分かったよ。ミナもやりすぎないでよね」

 互いに相手を交換し、戦闘を再開する。

「おっと、俺とは一言もしゃべらないお嬢さんはあっちに行ったか」

「君ね、ミナに結構嫌がらせしたみたいだから、容赦しないよ?」

 天城が次のアクションを起こすよりも早く、全方位からいきなり襲いかかってきた水弾。瞬く間に巨大な水の牢獄に閉じ込められ、瞬間で凍結。

「さようなら」

 反対側でも同じように、一瞬の出来事といえるほどで進んでいた。

「お、お姉さん?」

 急接近したミナは、ラズリーが作り出した壁に触れると。

「スティール」

 問答無用で奪い取り、敵と交わす言葉は無いと言わんばかりに蹴り飛ばす。

「リリース」

 倒れ痛みに悶絶するラズリーに向けてネーベルから奪い取った爆破の魔法を放つ。

 声はなかった。吹き飛び、遠くに見えていた切り立った岩壁に打ち付けられ、更に風の魔法で加速したミナが零距離で再び爆破の魔法をぶつけた。

 オーバーキル。

 崩落し始めた岩壁から離れるため、風の魔法を解放する。

 ……ミナは忘れていた、油断していたと言うべきか。声が出ると言うことは、近くに天使がいるということを。

 空から落ちた光の槍が岩壁を完全に破砕し、圧倒的な力で魔法を消し飛ばす。

「やばっ」

 どう足掻いても逃げられない。

 ネーベルの魔法が自分を守るために飛んでくるのは分かるが、同時に打ち消されて届かないことが見えている。

「…………、」

 静かに目を閉じたミナは、か弱い力で自分にすがりつくラズリーを感じながら大地に落ち、岩の雨に埋まった。


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