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かつて一つの戦争を終わらせた彼/彼女を見つけ

 ネーベルは一人その店の外で立っていた。

 ここ数週間でほとんどの試験を突破し、そのうちのいくつかでミナと共闘した末にいつの間にかラズリーが完全に気を許してしまい、一方的ではあるが信頼できるお姉さんなんて思ったのか一緒に買い物に行ってしまった。

 ミナは乗り気ではなかったようでなんとかしてと視線を投げかけてきたが、あえてネーベルはそれを無視して放っておいた。

 いつもいつも自分から人の輪に近づかず誘われても逃げ続けてきたのだ、たまには強引に引き込んでもらった方がいいだろうと思って。

「ミナが嫌がるのもよく分かるよ……もぉー人が多いよ」

 魔法使いの試験場、その付近は大勢の魔法使いが集まるため必然的に魔物などの危険は少なくなっていく。

 危険がなければ人が集まり物資もある程度は生産できるようになり、それなりに物のやり取りが行われる。

 もちろん通貨ではなくぶつぶつ交換や労働力の提供などが主となっている。

 生きる為に社会を築き、社会の為に働くことで生存を約束される。

 そういうものなのだろう、一部の者を除いて。

 社会に不必要とされるまでならばまだ良かった、生きる為の社会に殺されそうになったからその者たちは異端になった。

 救いの手があれば良かったのかもしれない、でも誰もがそれは無理だと見捨てたからこそ、その者たちは進んで全体で見れば〝悪人〟や〝異端者〟と呼ばれる道に向かっていったのかもしれない。

「うん?」

 店の壁に背を預けて道行く魔法使いの魔力を感じていたネーベルは、一つ知っている魔力を感じ取った。

 そちらに目を向ければみすぼらしい姿でとぼとぼと道を行く青年を見つけた。

 首に巻いた桜色のマフラー、擦れた端からひらりひらりと舞い落ちる桜の花びらと桜の紋章。

 明らかに男物のマフラーではないしこの気候でつけるには暑い。

 だというのに首に巻いているのはそれが彼の法機、もっとも思い入れのある大事なものだということだ。

「〝魔法大戦〟の生き残りか……確か固有魔法は」

 続きを思い出そうとしたところで店から女の子が二人、可憐な姿を見せた。

 片方はとんがり帽子にノースリーブのブラウス、紺と蒼のグラーデションのお高めのスカート。ツインテールをほどいたラズリーだ。もはやラズリー専用となりつつあるネーベルの杖を受け取ってくるっと回ってポーズを決めるといかにも見習い魔法使いといった風貌の少女だ。

「シショー! どうですか私の――きゃぅっ!? 何するんですかお姉さん!」

「あー……下着売ってなかったんだぁ……」

 そして相も変わらずのノーパン。

 スカートの裾を持ち上げた手から辿っていくと、ラズリーと店主に無理やりコーデされたらしいミナの姿があった。切断されたはずの髪は長髪にもどっており、その綺麗な黒髪に似合うように決められていたのだが。

「…………、」

「ミナぁ……たまにはさぁ、いいんじゃないのかなぁ」

 ネーベルの前を横切ってすぐ横の建物と建物の間に滑り込んでいってすぐに衣擦れの音が聞こえ、ものの数秒で長袖シャツにカーゴパンツという作業着姿で出てきた。

「あのさぁ……分かった、言わないからその振り上げた拳を下ろそうか?」

「…………。」

「なにさ、最近暴力多いけど。もしかしてストレスなの? あの天城とかいうのが原因?」

 思えば試験中、試験外問わずにちょっとしたことで足が手が出てくる。待ち伏せから不意の一撃を得意とするミナの攻撃は相手が油断しているときに一撃で大ダメージを叩きこむことに特化している。しかもそれはもうついやってしまう、意識して抑えないと無意識にやってしまう域に達しているのだ。食らえばかなり痛い。

 もっと言えば人を壊すための攻撃方法をよく知っているため一対一になればやられる。仮に大人数で挑んだところで大抵の場合はよくて後遺症の残る返り討ち、悪ければ死体が識別できないほどに残らない殲滅だ。

「シショーはお姉さんと仲がいいんですね」

「どこか?」

「だって、喧嘩するほど仲がいいっていうじゃないですか」

「あのね、ラズリー。ミナが僕とやってるのは喧嘩じゃなくて一方的な暴力だよ? だから仲がいいとかそうい……う、の……」

 なんだか嫌な気配がして後ろを振り向けば、その瞬間に伸ばされた腕に絡み取られて視界がぐるりと回って気づけば地面に倒れて、さっきまで頭があった場所には桜の槍が突き刺さっていた。

「桜使い……?」

 突然の攻撃に反応できていたのはミナ一人だけだった。道行く魔法使いたちも試験場の警備も誰も彼の魔法の発動兆候すら、そもそも発動したことにすら気づけなかった。ネーベルが叩きつけられた音、そして槍が壁に突き刺さった音が聞こえた時に魔法の気配も感じたのだ。

「幻影、霧使いのネーベル。隣は、あれの生き残りと……」

「この子は関係ない。やりあうんなら僕が相手をする、たとえ君が最高ランクの魔法使いでもね」

 かつての魔法大戦で数多くの魔法使いを葬り去り、その力を継承してきた高位の魔法使い。彼の力は戦闘支援向きだが、使い方次第ではミナ以外のどんな相手にだって勝ててしまう。

 唯一最悪の相性を持ち合わせるのはミナだ。使用する魔法の関係上、互いに致命的な攻撃となる。

「……今は、まだそのときじゃない」

 ようやく警備の魔法使いが取り押さえようと踏み出すが、その手が触れると蜃気楼のように揺れて虚空に消えてしまう。

 ネーベルとミナはそれをよく知っていた。彼の相棒の力だったもの。

 もうその相棒は、彼女はいない。

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