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あいつのことを思い迷い

 寒獄、そう呼べるほどの極寒の氷雪地帯に四人はいた。正確には海の上に浮かぶ凄まじく大きな氷の上に。

「第一の試験。リヴァイアサンを討滅せよ」

 それだけ言い残して試験官である魔法使いは宙に浮いて消え失せた。あとに残された四人、二人で一つのペアが二つ。

「シショー寒いです」

「うーん、超ミニなスカートというかワンピースでノーパンで言われてもねえ……」

「シショーだけずるいです。断熱結界広げてください!」

 ネーベルとラズリーのペアだ。参加者たちは何も知らずに試験場まで旅をして、相棒と呼べるほどの誰かと共に試験に臨む。たどりつくまでにかなりの戦闘経験を積んでいるため、試験自体も相応の難度を誇る。

「さあお嬢さん、いい加減名前を教えてくれてもいいだろう? ていうかしゃべろうぜ?」

「…………、」

「おいおいお嬢さん、一緒に風呂入って寝た仲じゃんよぉ」

 天城采斗とミナのペアだ。水浴びをしていたところを覗かれて三十キロほどの大岩を投げつけ、路地裏で寝ていたらいきなり夜這いを掛けられて股座蹴り上げて、そして首を絞めても死なない化け物がずっと粘着して困っている。

「ミナ、そんなやつほっといてさっさと終わらせよう。この前みたいにさ」

 こくっと少女が頷くとネーベルは魔法を発動する。すべての属性を次々と詠唱して周囲に様々な魔法が広がり、その矛先をすべてミナへと向ける。それに驚くのは天城一人だけ、天城の邪魔が入るよりも先にすべての魔法はミナに襲い掛かり、そして傷一つ付けずに消え失せる。

「どお? 行けそう?」

「…………。」

 静かに頷いたのを確認してネーベルは空に巨大な鋼鉄の槍を召喚して、海中の何かに狙いを定めて落とした。バリバリガリガリと分厚い氷に亀裂が走り砕け隆起し、海中の化け物に命中した槍が押し返されて空中に舞い戻る。

「硬い! 来るよ、ミナ!」

 割れた氷の波が津波のように迫り、各自がバラバラに逃げてネーベルはその場で障壁を展開してミナを守る。

 すぅっと開かれた口から洩れるのはまるで機械のように感情のない声。

「……敵性捕捉、広域制圧魔法フリューゲルブリッツ・リリース」

 少女の背に純白の翼が広がったように見えた次の瞬間には空に蔓延る鈍色の雲が光に薙ぎ払われ、無数の翼が降り注いでいた。光は相手がなんであれ容赦なく消し飛ばし、光の翼は絶対の防御を展開し、降り注ぐ羽は触れるだけで強大な龍ですら一撃で意識を刈り取られる。

 発動条件が極めて困難なものである為この魔法を使うことができるものは少ない。そもそもの前提として必要な魔法はすでに失われてしまい、この少女、ミナを含めて数えるほどしか使用者がいない。ひとたび発動されたならば発動したものにも止めることはできず、一つの戦争を強制的に終息させることさえもできるほどの大魔法。

「これで終わりだね」

 槍の一撃に怒り狂った蛇のような化け物が勢いよく姿を見せる。硬い鱗は物理攻撃を無効化し、その巨体と魔力の壁で魔法すらも受け付けないはずの最強を関する魔物の一種。

 ……の、はずが。空から舞い降りる羽は魔力の壁をものともせずにひらひらと宙を舞い、リヴァイアサンと呼ばれる魔物に触れると一見何もないように見えるのに意識を刈り取って極寒の海へと送り返していく。

「あっという間だね。本当ならこの試験は何日もかけてやるものだけど……君がいればすぐだ。あ、そういえば、ったぁ!? なんで蹴るの!?」

「…………。」

「僕何かした!?」

 するとミナは紙に何かを書きなぐって突き付けた。

「なになになんなのさ…………」

 読めば、もう一つ上の魔法があればあの変態を巻き込めたのに、なんて書かれている。

「……それ、よくないと思うんだけど?」

 言い返せばまた書きなぐって突き付けられる。字は汚いが刀を寄越せと。

「あぁ、別にいいよ? いつものやつでいいの?」

 こくっと頷いたのを見て、ネーベルは魔法でさっと刀と鞘を創り出す。魔法でものを創り出すことはできる。だがそれは一時的なもので長くは維持できないのが普通、それでもネーベルの魔法はごく普通のものと変わらないものを創り出すことができる。

 ミナは何度か感触を確かめるように振るうと、鞘に納めて腰に差した。

「で、堕天使は?」

 ふるふると横に首を振ったのを見て、まだ収穫はないのだと思う。

「まあゆっくり探そう。どうせしばらくは試験場を行ったり来たりするわけだしさ、ね」

「…………。」

「痛いんですけど……なんで前触れなしに僕のほっぺを引っ張るのねえ! 痛いっいたいたたたたたたぁぁぁぁっ! い、急げばいいの!? ゆっくりじゃなくて急げばいいのねぇ!?」

「そう、それで……」

「え? 声が……ってことは……ミナ? ちょい、こんなところでやめてよ?」

「ふ、ふふふふふっ……殺す、あんのクソ天使、ぶっ殺してやる!」

 刀片手に近づけば近づくほどに思うように声が出せるようになる方向に走っていく。呪いをかけたあの天使が近くにいれば声が出る。

「うーん……ミナ、やっぱり君は口を開かないほうがいいよ」

 黙っていれば見た目はそこらにいる人間。だけど普通の中に入り込めない、初めて見た時からいじめられ人の輪から追い出され、そして自らも入り込もうとせずに離れていた。

 孤独な人だった。ほとんど図書館に入り浸って本が友達とでもいうかのように図書館の本をすべて読み漁る人で、知り合うきっかけになったもの一冊の本で。

「ミナ、僕は君を独りにはさせないよ」


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