表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

第七話 亡跡のイージス

文字数少ないですがよろしくお願いします。


どれぐらい寝ていたのだろう。

硬い地面で寝た為か身体の節々が痛い。

失った左腕の痛みも引いて、鋸で切られたような切断面の肉が盛り上がり傷口も塞がっているみたいだ。


「フルルルル……」

 

俺が起きたのを察したのか、横でエグゼスの声も聞こえる。


「よし、色々考える事はあるけど先にここから出なきゃな」


失った左腕の傷口を軽く摩った後、眼前にあるであろう土壁に手をかざしてクレイクラフトを発動させる。

イメージは俺が通れるくらいの洞穴だ。

下手に動かして地盤が崩落するとまずいので、動かした土は圧縮して周りの壁に貼り付けていく。


光の無い暗闇なので、目が慣れるまで視認する事が難しい。

前世であれば暗視スコープを付けて一発だったんだけどな。

さっさと目を慣らすのが優先事項だな。


「エグゼスいるか?」


「フルルルル……」


モリモリと眼前の土砂を掘り進み、時々背後に追従しているハズのエグゼスへ点呼を取る。

特に意味は無いが、暗闇に尽く縁のある俺だ、それを考えて少しナーバスになっているのかもしれない。


「お?なんだ?土の感じが変わったぞ……」


丁度目が暗闇に慣れてきた頃、無心で掘り進めていた土砂の感じがガラリと変わった。

目を凝らしてみると眼前に土は無く、代わりにレンガのようなブロックが整然と並び立てられていた。


「おぉ……これってアレか?地中に埋もれた過去の建造物か?……まさか誰かの家の地下室ーなんて事は無いよな……」


通常であればこの壁を撃ち抜くにはツルハシで地道にカンカンやるか爆破処理でドカンとやるかなのだが、俺の前ではこんな壁、障害にすらならない。


ブロックに手を当て、マナを操作して砂粒遊操(サンドタクト)を発動する。

マナの流れと強度を調節してブロックを砂へと分解してゆく。


ある程度通れるぐらいまで分解し、風化したようなブロックの断面をクレイクラフトで補強すればいっちょ上がりだ。


「さてさて、一体ここは何でしょうねー」


治生草を摂取し、少しではあるが睡眠を取った事で体力が回復して余裕が出来た俺の中で、埋もれていた探検家の心が再び顔を出していた。


壁にはびっしりとヒカリゴケが自生しており、通路を薄暗く照らしていた。

そんな中で俺は失った左腕の事も忘れて胸を弾ませながら慎重に進んでいく。


湿っぽい淀んだ空気からして、この空間は今の今まで空気の循環がされていないように感じられる。

よく見ると通路の至る所に白骨が転がっている。

部分的な骨しか無いので、元の生き物が何なのかは判別出来ないが、足で小突くとあっさり砕けるぐらいまで風化しているので最近の物では無い事が伺える。


「ヴヴヴヴヴゥ……!」


「……どうした」


俺の横をぴったりと歩いていたエグゼスが足を止め、低く唸りながら重苦しい淀んだ空間の奥にある、この場所には不釣り合いな重厚な扉を見つめていた。


獣の気配察知能力は人の比じゃ無い程に突出しており、大気中に漂う匂いや足音、草の微かな囁きを敏感に感じ取って危険を察知する。

シックスセンスと言っても過言では無いソレは、時には異質な存在さえ捉えてしまう。


エグゼスの様子から扉の奥には警戒するべき何かがあるのだろうが、俺逹は吸い寄せられるようにその扉へ近付いていく。

扉は鋼鉄製だろうか、骨が風化する程の時が経っているにも関わらず腐食や劣化も見られない

のだから何か特殊な付加がかけられていると見て間違いないだろう。


「重そうだな。開くのか?これ」


俺もエグゼスも鋼鉄の扉を見上げるようにして立ち尽くす。

漏らすような俺の呟きに反応するように、目の前の重厚な扉は地鳴りのような音を立てて独りでに開いていった。


「あ、あれ……俺どうして震えてんだ……?えはは……」


扉が完全に開ききり、ヒカリゴケの明かりでぼんやりと中の様子が伺える。

夢遊病さながらのふらついた足取りで誘われるように中へ入っていく。

だがこれは俺の意志では無い、俺の身体は完全にコントロールを失っており、尚且つ全身を激しく震わせながら一歩一歩進んでいく。


恐怖による震えでは無い。

現に俺は一欠片も怖いとは思っておらず、むしろ意識そのものが靄に包まれたかのようにぼんやりとしている。


扉の内側は四方十メートル程といった広さの異質な部屋となっていた。

薄暗い部屋の中央には複雑に描かれた魔法陣がありその上には異形を象った石像と祭壇のような物が据えられ、石像の背中からは悪魔の様な翼と天使のような翼が対になって生えている。

ねじくれた角を生やした頭を抱え込むように両腕が頭部を覆っている為、顔の判別は出来なかった。


何よりこの部屋を異質たらしめているのが部屋に立ち込めている黒と灰色の霧だった。

風も通っていないにも関わらず、二色の霧は流動的な動きで部屋の中を生き物の様にうねっており、異形の像と霧の色が相まってよりダーティでカオスな雰囲気を醸し出している。


率直な感想を言うと気持ち悪いの一言だろう。

本能に直接訴えかけるような生理的嫌悪感がこの部屋には満ち満ちている。


だが俺の嫌悪感とは裏腹に、フラフラと祭壇へ吸い寄せられるように動く足は意識の範疇を超えており、俺自身どうする事も出来なかった。


魔法陣の中央、異形の石像の前へと踏み込んだその瞬間だった。

制御を離れた俺の足は、突如糸の切れた操り人形のようにその力を失い地面に崩れ落ちた。


「ぐぬ……ぁ……ああああ!!」


崩れ落ちた瞬間、身体が地面にめり込むのではないかと錯覚するほどの重圧が全身を襲い、肺からは酸素が絞り出されて身体中の骨が軋みを上げる。


圧迫されている肺に少しでも多く酸素を取り込もうと浅く呼吸を繰り返していると、同じ様に倒れているエグゼスが視界に入った。


俺の身体がどうなっているのかは分からないが、エグゼスの場合は酷かった。

真っ黒だった瞳は燃えるような真紅に染まり、目、鼻、口、耳のあらゆる場所から血が吹き出している。

闇のように黒い体毛は所々が白く変わっていた、その白が皮膚を突き破って露出した骨だというのは直ぐに理解出来た。


四肢はあり得ない方向に曲がりながらもビキビキと嫌な音を立てて長さを伸ばしていく。

骨が折れる鈍い音を響かせながらエグゼスの身体はみるみる肥大化し、大型犬くらいの大きさだったエグゼスの身体が、二メートルほどの大熊のような大きさまで変異してしまっていた。


唯一の救いなのがエグゼスの意識はとうに無いらしく、いくら骨が飛び出し四肢がねじくれても悲鳴一つあげずにビクビクと全身を痙攣させているだけだった。


目の前でエグゼスが壊れていく様をただ見ている事しか出来ない中、その声は唐突に頭に響いた。


『力とは、何だ?』


(あ……?)


『力とは、何だ?』


(知るか!誰だテメェ!これもテメェの仕業か!)


強烈な重圧の為に口は開けず、仕方無く心の声で正体不明の存在へと言葉を返す。


『答えよ、力とは、何だ?』


(クソが……こっちの言い分はシカトかよ……)


『答えよ、答えよ、答えよ』


(ぬあああ!答えろ答えろうっせぇよ!壊れたオーディオかテメェは!力ってのはなぁ守る為にあんだよ!分かったか!)


『守護、守る、護衛、力とは駆逐するに非ずか?』


(守る為に敵を駆逐する力ならそりゃ守る為の力だろうが!)


『力が、欲しいか』


その言葉と共に身体にのしかかる重圧の強さがさらに増した。

ゴキッと鈍い音が身体に響く。


(ぐふっ……アバラが何本か逝きやがった、両脚も、ダメだな……)


『答えよ、力が、欲しいか?』


(貰える、モンなら……是非に、欲しいね……それこそ、この状況を、ひっくり返せるぐらいの力……)


『ならば呼ぶがいい。力を渇望する小さき者よ、魂の叫びをあげよ。我が名は、イージス。守護を司りし力也』


(イージス……アレか、イージスシステムの元になったっつー神話の……いいぜ、呼んで、やるよ……さっさと、来い……!イージス!)


俺がそう念じた瞬間だった。

身体にのしかかる重圧が消え、辺りに充満していた黒と灰の霧が異形の像へと収束していく。

部屋中の霧を全て吸い込んだ像は次第に光を帯び、周囲に小さな火花が散り、像はその光量を

増していく。


「一体……何が……」


俺が呟いた瞬間、爆発的な光の奔流が視界を埋め尽くした。


ブックマーク、プレビューありがとうございます。

ご意見ご感想おまちしてまーす。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ