表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

第十四話 神を冠する武具

よろしくお願いします。

五百年前、栄華を極めた帝国が大規模な争いを予見し、財を投げ打ち数十年の歳月をかけて完成させた品々があった。

それはアクセサリーサイズの小さな物から船のような巨大なの物まで、種類は数百点にも及んだ。

その中で飛び抜けた性能を持つ品は敬意と畏怖を込めて"神具"と呼ばれた。

選ばれた者のみ使用する事が可能であり、その力は他を寄せ付けない強大さだった。


神具の次に強力な性能を持つ品を宝具。

制限や欠陥があるものの、一般兵も使用が可能で宝具に勝るとも劣らない威力を持つ品を帝具と呼んだ。


やがて帝国が危惧した戦い、世界を巻き込んだ戦争が始まった。

結果、帝国は滅び、帝国が所有していた数百の神具達は世界に散らばる事となった。


失われた神具や宝具、帝具は真偽混ざり合った噂により世界中の権力者や盗賊、冒険者達が血眼になって探す伝説の宝となった。


ある神具は秘境の奥深くに、ある巨大な宝具は何処かの都市の建物に紛れて、ある帝具は呪いの武具として、地中深くに埋もれた物、海中に沈んだ物、諸説様々存在するが共通する事はただ一つ。

手に入れた者は世界を変える力を手に入れる、とまことしやかに囁かれている事だ。


そして勇者曰く神具や宝具は保有するマナが膨大であり、品々から漏れ出したマナが暴走、周りの空間や生物を侵食し魔物を変異、凶暴化させるのだと言う。

それが長年放置されればされる程、その土地に局地的な変化が起こり、生態系の崩壊を皮切りに異界さながらの魔境を作り出す。

ハングオーバーの酷い版だ。

イージスの場合、グラムが時々ガス抜きと称して封印部屋の空気を循環させに出向いていたそうだが、つい一年ほど忘れていたらしい。

そのせいで左腕は失うし、とんだとばっちりを受けたもんだ。

仮にイージスのマナを受け止められなければ死んでいたんだしな。

原因がグラムにあると思うと少し腹が立ってきた。

怒りをぶつけた所で何も無いのは分かっているから口には出さないけどな。


もし本気で失われた神具達を探すなら、そういった場所を探すと結構な確率で見付ける事が出来るそうだ。

自信たっぷりに語るグラムが発見した神具や宝具は数十を超え、彼はそれらを封印したり各地の信頼する権力者へ譲渡したりと色々やっていたらしい。


何でそんな危険な事をするのかと尋ねた所「死なねーからな。何だって出来んだよ俺は」とドヤ顔で言い放ったのだった。

そしてその中の一つが俺の持つ神具イージスというワケだ。

能力は以前俺が見た説明の通りらしい。

イージスはグラムにも感慨深いものがあるらしく、封印を施してからもちょくちょくこのウルガ村へ滞在し、様子を見ていたそうだ。


グラムの話はもっと長かったが、要点を掻い摘んでまとめると今の通りだ。


「分かったか?」


「超強いヤツらは危険、失われた力は死の隣にって事ですね」


「色々すっ飛んでるがそういうこった」


神具の中には投擲すると穂先が無数に分かれて複数の敵を貫く槍、思念操作で飛び回る円月輪、なんてのも存在するらしい


俺の場合、外を出歩く時はイージスのシステムをセミオートにしておくと色々捗るとグラムに言われたのでさっそくセミオートに変換する。


システム:セミオートに移行しました。


ポン、と目の前にウィンドウがポップアップして変更完了のメッセージが表示された。

イージスは所持者の神経と脳に直接リンクしているのでこういった現象が起きるそうだ。

なので無理矢理外すと所持者の命は無い。


つまり先程のグラムは気に入らない答えならばどっちにしろ俺を殺す気だったという事だ。

勇者のくせにふてぇ野郎だ。

でも実際、勇者とはそういう非道さも持ち合わせなければいけないのだろう。

綺麗事だけでは世界など救えないのだから。


「今度ソレで遊ばせろや」


「何を言ってるんですか貴方は、俺を殺す気ですか」


「いいじゃねぇか減るもんじゃねーし」


「減るから!貴方と違って唯一無二だから!馬鹿じゃないの!?」


「ふん。冗談が通じねーガキだな……まぁいい、分からねー事がありゃいつでもここに来い」


「いいんですか?これから先分からない事なんて腐るほどあると思いますけど」


「……程度によるが、少し考えれば分かるような事なら叩き出す」


「アイアイサー!」


「んだよ、ソレ」


ギロリと睨まれてつい反射的に敬礼の姿勢を取ってしまった。

この人の沸点がよく分からない。

馬鹿って言っても怒らなかったのに。

何でも人に頼るな、少しは自分で考えろって言いたいのかしらん。


「これは俺の考えた目上の人に対する了解の作法であります」


「ほぅ……」


ギロリと光った目がまたギロリ。

今度は値踏みするように敬礼と俺の顔を見つめて薄ら笑う。

なんなんだこの人超コワイ。

こんなんが勇者とかヤダワ。


「テメェ!」


「っひ」


グラムが机を思い切り叩いて立ち上がった。

思い切り過ぎて机に軽く亀裂が入っている。

俺変な事言ったか?

マジでコワイんですけど。


「面白ぇ!気に入ったぜ!もっとやれ!他にはねーのか!そうかそうか俺が目上か!お前いいヤツじゃねぇか!」


「えっ……あ、はい、他にも暗号とか最敬礼とかフォネティックコードとか……」


勇者グラムは怒ってなかった!

むしろ「だっはっは!」と顔を綻ばせて笑っている。

新しい玩具を見つけた子供のような、無邪気な笑い。

バンバンと叩かれている机の亀裂はピリピリと広がっているけれど。

なんなんだこの人超コワイ。

ひょっとして目上って言っただけでコレなのか?

だとすると、持ち上げれば意外とチョロい勇者なのかもしれない。


「あぅ……」


「あ、ウィンディア気が付いた?」


今の騒ぎで気を失っていたウィンディアが目を覚ました。

目をゴシゴシとこすって眠たげだ。

顔を洗う小動物みたいで超可愛い、ヤバイ。


「……チッ……」


対象的にバンバン机を叩いてはしゃいでいたグラムは、バツが悪そうに不貞腐れたような気怠そうな態度で椅子に沈んだ。

まるで人見知りの少年のように。


「す、すいません。なんだかいきなり気分が悪くなっちゃって……勇者様は、大丈夫、ですか?」


殺気を浴びて失神した事をまだ理解出来ないのだろうウィンディアが、困ったような焦ったような口調でグラムをチラチラ見る。


「俺は平気だ。ウィンディアっつったか?お前は精霊の事黙っとけよ。人前で喋るのも止めろ、精霊は口で無くとも思念で会話が可能だ、覚えとくといい」


「はいっ!色々ありがとうございます!あの、勇者様も精霊が見えるんですか?」


さっきまで俯いていた子とは思えないほどの明るい声で話すウィンディアの顔はとても輝いていた。


「あぁ、そうでも無きゃアイテールの相手なんて出来ねーだろ。さっきだって精霊と話してるお前を見て急遽呼んだんだ。元々用が有ったのはノワールだけだったからな……ん……今のオモロイな、アイテールの相手は空いてーる、なんてな」


「「あ、はは……」」


勇者グラムのつまらないダジャレに、乾いた笑いを返すしか出来ない俺とウィンディアだった。

その後も色々と話を聞き、便宜上俺の考えた--と言っている前世の軍律やコードの話で盛り上がって上官下官のやり取りの真似事をして遊んだりと交流を深めていった。


これが俺達と勇者グラムの出会いだった。



***



「おい根暗女!今日はブツブツ言わねーのかよ!」


翌日、教室に入るなりそんな声が聞こえた。

声の主を見ると小太りの坊主頭がウィンディアに絡んでいるのが見えた。

お利口さん(クレバーボーイ)はどうやら痛い目にあいたいらしい。

あんな美少女を虐めるなどあるまじき!

と思って声をかけようとした時だった。


「言わないよ!クレバー君こそ男の子のくせにいっつも三人一緒で女の子みたい。あとさ、もう二度と私の事根暗なんて言わないでくれないかな?根暗でも無いし変人でもない、色んな人を困らせてばかりの君達のほうがよっぽど変人だよ」


「ひゅう……」


俺は思わず小さく口笛を吹いていた。

俯いていたウィンディアが顔を上げ、凛とした声ではっきりと抵抗したのだ。

その声に怯えは一欠片も感じさせない自信に溢れたものだった。


ウィンディアに突然の抵抗を受けたクレバー(ハムレッグ)は目を白黒させ、顔を青くしたり赤くしたりと忙しそうだ。


「だっ誰が!誰が変人だ!俺を誰だと思ってるんだ!俺にそんな口を利いてタダで済むと思うなよ!」


最終的に顔を真っ赤に染めたハムレッグはワケの分からない事を喚き始めた。


「止めなさいクレバー君、みんな見てるよ?」


眼鏡っ娘のブレアがいきり立っているハムレッグの肩にそっと手を置いてなだめるように声をかけた。


だがハムレッグは怒りに我を忘れているのか、ブレアの手をはたき落し、何を思ったのか怒りの矛先をブレアに向け始めたのだった。


「うるせえ!大体なんだよお前!年長だからって偉いのか?!眼鏡なんてかけていい子ぶりやがって!どうせ影では根暗女と同じように俺の悪口をブツブツ言って楽しんでるんだろ!ママとパパに言いつけてやるからな!」


発狂と見紛うばかりの喚きっぷりにブレアはもちろんクラスメイト、果てはウィンディアまでも目を見開いて唖然となっている。


ああ見えてハムレッグはいいとこのお坊ちゃんなんだろうか?

この村にそんな家なんて無かった気がする。

ガキの癇癪はよく分からんな。


「大体何なんだお前!先生の子供だからって調子に乗りやがって!」


どうやらハムレッグの怒りの矛先は俺にも向けられたらしくハムレッグは鼻の穴を広げ、荒い息をしながらドスドスと俺に向かってきた。


--警告、害意のある対象を捕捉、第三種防衛行動を開始します--


ハムレッグが俺の胸ぐらを掴みクリームパンのような拳を振り上げた時、抑揚の無い声が頭に響いた。


セミオートに設定していたイージスが反応したらしく俺の左腕が瞬時に動き、胸ぐらを掴んでいたハムレッグの手首を捻り上げたと思ったら、ハムレッグはそのまま横に一回転してステン、と尻餅をついてしまった。


口をポカンと開けて俺を見上げるハムレッグとクラスメイト。

我に帰ったハムレッグはその後も何度か殴りかかってきたが全てイージスにより軽くあしらわれてしまった。

イージスが無くともガキのパンチなんて欠伸をしてても避けられるが、反応してしまったのだから仕方無い。


--捕捉対象の害意がゼロになりました。防衛行動を停止します--


どうやらイージスは俺に向けられる敵意や殺意などの害意を数値化して把握出来るようだ。

説明のウィンドウをよく見ると今のイージスの捕捉限界数は十体前後で、規模や害意数値により変動するらしい。


「だ、大丈夫でヤンスか?」


「クレバーさんになんて事しやがるでゲス!」


四つん這いになり、荒い呼吸を繰り返しているハムレッグに二人の少年が駆け寄ってきた。

ハムレッグにいつもくっ付いて歩いてる二人、名前は確かヤンスがライテ、ゲスがレフリーだったか。

二人共村人A、Bみたいなパッとしない顔をしてる。

あえて特徴的な所と言えばライテは鼻が長い事とレフリーにはソバカスがある事ぐらいだろうな。


金魚のフンみたいにハムレッグの周りをチョロチョロしてご機嫌伺いばっかりしてる奴らだ。

そのくせ弱い者虐めや悪戯には積極的で、年下とみるや横柄な態度を取る最低な性格をしてる。


「俺は何もしてない。そのブタ野郎が勝手に暴れて勝手に疲れてるだけだ」


「お前が悪いでヤンス!」


「そうだ!クレバーさんに謝るでゲスよ!」


「謝らなきゃいけない理由があるのか?」


「難しい言葉使って誤魔化すつもりでヤンスね!」


「悪いのはお前でゲス!さっさと謝るでゲスよ!」


何だこいつら、全く話が通じてない。

そもそも理由って言葉を難しいだなんて馬鹿じゃないのか。

ハムレッグもこの二人も年齢的には見た目六、七歳の筈だ。


そんな馬鹿共がウィンディアを虐めるとは……こいつらには少しばかりキツイお仕置きが必要なようだな。


「くそぉ!ガキのくせに俺を馬鹿にしやがって!許さないからな!」


ムカつく腰巾着二人を一発殴ってやろうかと思った矢先、ハムレッグが捨て台詞を吐いて教室から飛び出して行ってしまった。


腰巾着二人も急いでハムレッグを追って教室から出て行った。

去り際に「根暗女ー!」「ギャハハでゲス!」という捨て台詞を残して。


あいつら絶対殴る。

そう決めた朝の一コマだった。


「ノワール君大丈夫?」


俺が一人怒りに燃えて頬をピクピクさせていると後ろから袖を引っ張られた。

振り向くとウィンディアがいつもの困ったような顔で俺を見つめていた。


「ごめんね、私のせいで」


少し潤んだ瞳に鈴のように綺麗な声が桃色の唇から漏れ出る。

ウィンディアは小さな手で俺の袖を遠慮気味に摘んでおり、申し訳無さそうに瞳を伏せていた。

保護欲を掻き立てられるその仕草を前に、俺の中からあの三人組の存在は綺麗にすっ飛んでいった。




なかなか伸びません。

面白く無いのかなぁ。

感想、指摘、ご意見おまちしてます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ