終点:意味のあること
終点まではあと少し。
アナウンス用のマイクの感度を指先で突いて確かめる。
「ご乗車されているお客様にお知らせします。当列車は後15分程で終点に到着いたします。皆様、下車の準備をお願いいたします」
眠っている乗客には、戻ってくる際に声をかけたので大丈夫だろう。
この列車が八号車編成なのは、ちゃんとした意味がある。
八は、数字で書くと8
横に倒すと“無限”の意味を持つ ∞ と捉えることができる。
人間は生まれ、死に向かって歩く生き物だ。
しかし、それは決して一回だけではない。
何度も生きること、死ぬことを無限に繰り返す。
ランコントル列車は、これから生まれ変わりを果たす人々を運ぶ列車。
私は車掌として、多くの人と触れ合い、見送ってきた。
乗客たちの数だけ個性があり、物語がある。
辛く苦しかった人
楽しく幸せだった人
ごく平凡な日々を過ごした人
一人一人違う、様々な物語。
それらはただの話ではなく、意味のあることだ。
最後にもう一度、アナウンスをかける
「間もなく終点、終点です。
本日は当列車をご利用いただき、誠にありがとうございました。
危険ですので、列車が完全に停車してからお立ち下さい。
どなた様もお忘れ物のないよう、お気を付けください。
皆様、どうぞよい人生を___ 」
END.