寺中
※お題「嘘」「#Twitter300字ss」で書きました。
大学二年の秋に祖母が亡くなり、葬儀は寺院で行われた。
「私にもちょうだい」
声をかけられ、俺は飛び上がりそうになる。寺の敷地を当てもなく歩き回った挙句、人通りがないとみて煙草を喫んでいる最中だった。
「どうしたの? 怖い顔」
義姉の奈江である。彼女とは行きがかりで関係を持ち、顔を合わせれば情事に耽っていた。
俺は、煙草のパッケージの底を弾く。
「……私のこと。少しは好き?」
「うん。好きだよ」
奈江の質疑へ形式的に答えた。実際には好悪を考えたことさえない。
「嘘を言うんじゃないよ」
言葉を吐き出す奈江の顔は、祖母とすげ変わっていた。俺を凝視している。
「どうかした?」
俺は、ほうほうの体で逃げ出した。