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二章 王侯貴族と転移秘法 10


    ◆ ◆ ◆


 ユートとサラが事務所を出るのと同時に、命司もまた、エラルを(ともな)って事務所を出た。

 ユートの言葉通り、エラルは自分も探索(たんさく)に行きたいと言ったからだ。

 悲痛な面持(おもも)ちで、エラルは命司の隣を歩く。背は、命司より少し高いくらいだろうか。あの中年の騎士と比べると、華奢(きゃしゃ)に思えてしまうほど貧弱そうな体格なのに、しかし重装甲の(よろい)に身を包み、背中には巨大な戦斧(せんぷ)を負って、なおも命司に遅れることなく歩いている。

 だがそれでも、王族だと言って納得(なっとく)出来るのは、その全身から(にじ)み出る雰囲気だろうか。エラルはどこか高貴な雰囲気を確かに(まと)っている。面差(おもざ)しは秀麗で、髪と同色の少し太めの眉は、しかしながら男っぽさを感じさせず、どちらかといえば柔和(にゅうわ)な性格を表しているように思える。確かに、サラが好みそうな中性的なイケメンだ。もっとも、男である命司にとっては、どうでもいい事だが。

(さて、世間話でもしたいとこだが……相手は王族だしな)

 無言で歩く気まずさに、そう考え始めたとき——

「メイジ君……って、呼んでいい……かな?」

 不意に沈黙(ちんもく)を破ったのは、エラルの方だった。

「……は?」

 (きょ)を突かれた事もあり、思わず何のことを言っているのか理解できず、命司は立ち止まった。

「あ、ゴ、ゴメン。いきなり迷惑(めいわく)だよね……」

 気恥ずかしかったのか、エラルは(ほほ)を微かに染めて、眼前で両手を何度も交差させる。

「あ、いえ、別に構いません……呼び捨てでもいいですし。というか、呼び捨ての方が気が楽で……」

(なんか、気ィ弱いのかな……)

 そんな事を考えて、命司は思わず苦笑(くしょう)してしまう。つい、ガキの頃の自分を見ているような気になってしまった。

「……あ、じゃあ、ボクの事もエラルって呼び捨てて。ボクも、その方が気が楽だし……敬語とかも、いらないから」

 一瞬の沈黙。

 だがそのあとに、

「っはははっ!」

 命司は思わず笑ってしまっていた。

「変わった王族なんだな。緊張(きんちょう)して損した」

 命司の態度に、エラルもまた苦笑を浮かべる。

「そ、そうかな……ただ、メイ……ジ、ボクと年近いみたいだから……友達になれたらな……って、思って……」

(王族って、やっぱそういう辺りは不便なのかね)

 王侯(おうこう)貴族の生活なんかに興味はないが、しかし、望む相手と話をするのもはばかられるような生活は、確かに窮屈(きゅうくつ)に違いない。

「俺、客には丁寧(ていねい)だけど、友達には言いたいことズバズバ言う方だから。それでいいなら。ちなみに、メイジ・コーダって名前ね。歳は十九」

 そう言いつつ、命司が手を差し伸べると——

「その方が嬉しいかな。じゃ、改めて……ボクはエラル・メ……いや、エラル・ハシュパカル。二十歳。ボクの方が一つ上みたいだけど……学年は一緒……かな?」

——エラルもまた、命司の手を握った。

「さぁ? 俺、学校行ってないから。でもまぁ、年上だろうが遠慮(えんりょ)なく呼び捨てるけどな。じゃ、市場に急ごうぜ」

「あ、う、うん|」

 駆け出す命司に、エラルも負けずに走り出す。

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