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二章 王侯貴族と転移秘法 02


    ◆ ◆ ◆


 雷雨(らいう)の中で、時折、雷光(らいこう)に照らし出される三つの影があった。

 大学構内の寄宿舎。その中で、建物の周囲を生垣(いけがき)によって囲まれているものが二つある。大浴場を囲んで、東西南北に配された寄宿舎のうち、生垣があるのは西と南の建物だ。その西の寄宿舎の西側で、三つの影は(うごめ)いている。

 三つのうちの二つの影は木製のスコップを使って、生垣の両側から、生垣の一部——その一本の木の根元を掘り起こしている。

「ったくよ、木は青属性だから、白属性の金属に弱いんだろ? こんなもん、切り倒しちまえばいいじゃねぇか」

 掘っても掘っても根の先が見えずに、影——ローブを(まと)った男の一人は不平を()らした。

「金属の道具使うとマズいんだってよ。根っこもキズ付けんなって指示だし」

「いいから急げ。この雨だ、ある程度掘ったら三人で引っこ抜くぞ」

 根元を掘る屈強(くっきょう)な男達にそう言って、(そば)にいる小柄(こがら)な男は掘り返された穴を(のぞ)き込む。が、穴にはすぐに水が溜まり、状況は分からない。

 しかしそれでも——

「よし、ここらで一度引っ張ってみよう」

 小柄な男の提案で、根元を掘った生垣(いけがき)の木を三人で(つか)んだ。

「いくぞ! せぇ〜の! 引け!」

 声にならない気合を発し、三人は引いた。

 だがそれでも、容易には動かない。

 ゆすってみる。一頻(ひとしき)りそうしてから、再度引く。

 微かな手応(てごた)えを感じた。やがて——

 ずり、と、大きく動いたのを手始めに、その木は抜け始めた。だが、

「お、おい、どこまで長いんだよ、この木はよっ?」

 枝を離して幹を(つか)み、幹を離して根を掴み、その根がどこまでも続く。

「じゃあ、俺が木を向こうに引っ張って行くから、お前らは根を引いていってくれ」

 小柄な男はそう言い置き、抜いた木を引っ張って歩いて行く。そして、二人の仲間から合図があった時、小柄な男はおよそ三丈三尺(約十メートル)以上も離れた場所に到達(とうたつ)していた。

 小柄な男が駆け戻ると、三人は互いに目配せをして(うなず)き合った。そして、そのまま姿勢を低くし、生垣の内側に入った。

 寄宿舎西側の壁には窓がない。が、男達はそこから南に回り込み、移動して行く。

 とある部屋の前で先頭の小柄な男が合図をしながら止まると、出窓の下から背伸びをして、窓を(のぞ)いた。しかし、カーテンに仕切られている室内を(うかが)い知る事が出来ない。

 小柄な男は思案した。跳ね上げ式のガラス窓。その奥のカーテンを動かさなければ中の様子が窺えない。これまで(つちか)ってきた技術を駆使(くし)すれば窓を開けるのは容易(たやす)いが、しかし、その前に一度頭目の指示を(あお)ぐべきだと思った。

 小柄な男は右耳に右手を当て、口元に左手を当てた。それが秘法の発動条件となる。

「あ、カシラですか? 手筈(はず)は順調なんですが、部屋の中が見られやせん。(あか)りは点いてるんで、誰か居そうな気配なんですがね? ……ああ、分かりやした。お気を付けて」

 小柄な男は通話を終了すると、仲間達に小声で指示を出す。

「このまま待機だ。首尾(しゅび)良く運べば出番はねぇがな」

「うへぇ、早く戻って酒が()みてぇ」

「全くだぜ」

 口々に(つぶや)きながら、男達三人はその場で肩を寄せ合い、まるで出窓の部屋の備品ででもあるかの様に固まった。

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