二章 王侯貴族と転移秘法 02
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雷雨の中で、時折、雷光に照らし出される三つの影があった。
大学構内の寄宿舎。その中で、建物の周囲を生垣によって囲まれているものが二つある。大浴場を囲んで、東西南北に配された寄宿舎のうち、生垣があるのは西と南の建物だ。その西の寄宿舎の西側で、三つの影は蠢いている。
三つのうちの二つの影は木製のスコップを使って、生垣の両側から、生垣の一部——その一本の木の根元を掘り起こしている。
「ったくよ、木は青属性だから、白属性の金属に弱いんだろ? こんなもん、切り倒しちまえばいいじゃねぇか」
掘っても掘っても根の先が見えずに、影——ローブを纏った男の一人は不平を漏らした。
「金属の道具使うとマズいんだってよ。根っこもキズ付けんなって指示だし」
「いいから急げ。この雨だ、ある程度掘ったら三人で引っこ抜くぞ」
根元を掘る屈強な男達にそう言って、傍にいる小柄な男は掘り返された穴を覗き込む。が、穴にはすぐに水が溜まり、状況は分からない。
しかしそれでも——
「よし、ここらで一度引っ張ってみよう」
小柄な男の提案で、根元を掘った生垣の木を三人で掴んだ。
「いくぞ! せぇ〜の! 引け!」
声にならない気合を発し、三人は引いた。
だがそれでも、容易には動かない。
ゆすってみる。一頻りそうしてから、再度引く。
微かな手応えを感じた。やがて——
ずり、と、大きく動いたのを手始めに、その木は抜け始めた。だが、
「お、おい、どこまで長いんだよ、この木はよっ?」
枝を離して幹を掴み、幹を離して根を掴み、その根がどこまでも続く。
「じゃあ、俺が木を向こうに引っ張って行くから、お前らは根を引いていってくれ」
小柄な男はそう言い置き、抜いた木を引っ張って歩いて行く。そして、二人の仲間から合図があった時、小柄な男はおよそ三丈三尺(約十メートル)以上も離れた場所に到達していた。
小柄な男が駆け戻ると、三人は互いに目配せをして頷き合った。そして、そのまま姿勢を低くし、生垣の内側に入った。
寄宿舎西側の壁には窓がない。が、男達はそこから南に回り込み、移動して行く。
とある部屋の前で先頭の小柄な男が合図をしながら止まると、出窓の下から背伸びをして、窓を覗いた。しかし、カーテンに仕切られている室内を窺い知る事が出来ない。
小柄な男は思案した。跳ね上げ式のガラス窓。その奥のカーテンを動かさなければ中の様子が窺えない。これまで培ってきた技術を駆使すれば窓を開けるのは容易いが、しかし、その前に一度頭目の指示を仰ぐべきだと思った。
小柄な男は右耳に右手を当て、口元に左手を当てた。それが秘法の発動条件となる。
「あ、カシラですか? 手筈は順調なんですが、部屋の中が見られやせん。灯りは点いてるんで、誰か居そうな気配なんですがね? ……ああ、分かりやした。お気を付けて」
小柄な男は通話を終了すると、仲間達に小声で指示を出す。
「このまま待機だ。首尾良く運べば出番はねぇがな」
「うへぇ、早く戻って酒が呑みてぇ」
「全くだぜ」
口々に呟きながら、男達三人はその場で肩を寄せ合い、まるで出窓の部屋の備品ででもあるかの様に固まった。




