初恋のミルクチョコレート
初恋は実らない。
そんな言葉だか名言だか迷信だか定義たかがこの世には蔓延している。一体どうしてなんだろうね? 初めての感情に戸惑って、不器用になったり、空回ったりしちゃうからかな? (そして肝心の私は、どれだったんだろう)
もちろん、それが正しいのかは分からない。
見事に初めての恋が成就した奴もいれば、そうでない奴もいる。確率は五分五分のように思えた。
教室の席、隣の子がフラれたと思ったらそのまた向こうの子は学校のマドンナから告白された、なんてことがあった。とにかく私の周りには四六時中そんな類の話が出回っていて、勝敗はそれなりに等分されていたように感じた。
そして、己の場合はというと。
玉砕だった。
否定のしようがないくらいに、それはもう。意気込んで買った初めての贈り物も、結局渡せず仕舞いになった。あの人が、立ち直る暇も与えないくらいの酷さで受け取るのを断ったから(もしかしてこれぐらいが標準なのかもしれない)(私に免疫がないだけで)
暖かい店内、ハートの装飾があちこちに見当たるレジで店員さんが慣れた手つきで施してくれた丁寧なラッピング。それがこの、無地の薄水色の包装用紙に金色のリボンが巻かれた横長の小箱だ。かわいらしい装丁がされた平たい箱は私の感情の高ぶりのままに乱暴にほどかれ、中身がむき出しのまま現在我が家のダイニングテーブルの上にちょこんと存在している。
食卓に突っ伏し、恨めしげな視線を眼前のバレンタイン用チョコに向ける。そのうち、今目の前に見える物体にイライラしてきた(なんで、私が)(あんな嫌なこと言われなきゃいけないの)
数時間前の失恋後のムシャクシャした感情が私に、露わになった蓋を見るうちから取り上げさせ、後ろを見ずに放り投げさせた。硬い紙質の蓋が床に落ちカタンと微かな音をたてた。
手作りなんて大層なものではないけれど、本当なら、今これはあの人の手元にあるべきはずなのに。それすらもあの人は許してくれなかった。
……もういい、あんな奴なんて知らない。好きなんかじゃなかった。好きになるんじゃなかった。……少しくらい、優しくしてくれたっていいじゃない。
こんな風に悩むくらいだったら、無理やりにでも押しつけりゃよかった、泣き崩れて困らせりゃよかった。
生涯たった一度の初恋を無かったことにするべく、甘い甘いミルクチョコレートを私は自分の胃に収めた。




