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悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない  作者: 葵川 真衣


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8/12

8.兄の友人




※※※※※


 

 

 断罪ルートに入っても生き延びられるよう、シャルロットは対策を講じている。

 炊事、洗濯、掃除をするようにしたのだが、父も兄も目を丸くして止めてきた。

 これは将来のためなのである。自分のことは自分でできるようにしておかなければ。

 

 シャルロットは父に頼み、護身術も学びはじめた。

 秀才の兄には、外国語の勉強を教わっている。レオンスとは一日の大半をともに過ごしていた。

 仲良くなれてシャルロットは嬉しかったが、少々困ることもあった。

 レオンスが魅惑的すぎるのだ。

 

 ゲームでは彼は儀礼的に悪役令嬢に接していたが、仲良くなった今は非常に優しく、甘々だ。

 数ヵ月前、兄は飼っていた愛猫を亡くした。猫の代わりのようにシャルロットを見ているフシがある。

 父や使用人は兄妹仲が良くなったと、あたたかな目で見守ってくれている。

 

 けれどシャルロットは、うっかりするとレオンスにときめいてしまいそうになる。

 魔性的な魅力のある攻略対象。その妹をするのは、かなり大変なことだった……。

 

 しかし日々は平穏に過ぎた。

 

 そんなある日のことだった。

 屋敷に兄の友人がやってきた。

 居間で彼に遭遇し、凍り付いたシャルロットに、兄が紹介してくれた。


「二人ははじめて会うね。クロヴィス、オレの妹のシャルロットだ。シャルロット、彼は友人のクロヴィス・デュティユー」

「はじめまして」

「はじめまして……クロヴィス様」

 

 シャルロットは気が遠くなった。

 クロヴィスは──赤髪の殺人鬼だった。


(そういえばゲームでも、殺人鬼とお兄様は親友だった)


 攻略対象であるクロヴィス・デュティユーは、冷ややかな美貌の少年だ。兄と同じ十五歳である。

 長い赤髪は後ろで一つに束ね、アクアグレイの瞳、品ある鼻梁、きつく結ばれた唇をしている。

 いつも無表情で寡黙だが、怒ると最も怖いキャラだった。

 

 ヒロインへの想いがとてつもなく深く、悪役令嬢の断罪へは積極参加し、攻略対象の中で唯一、実際に悪役令嬢を手に掛けた人物である。

 殺し方がホラーだったので、彼はプレイヤーに殺人鬼と呼ばれるまでになった。


(怖……っ!)


 シャルロットは震撼した。

 兄同様イケメンではあるが、シャルロットはどの攻略対象よりも、クロヴィスに近づきたくはなかった。

 

 しかしクロヴィスに悪印象を与えてはいけない。断罪されるかもしれない。

 卒倒しそうな恐怖のなか、なんとか笑顔を保った。

 さりげなく素早くその場から離れる。

 

 クロヴィスは悪役令嬢に転生した自分にとって、天敵だ!

 

 部屋に戻ったシャルロットは、ゲームについて記したノートを震える手で開いた。

 クロヴィスの項目に目を通す。

 やはり……彼はほとんどのルートで悪役令嬢を殺害している……。

 

 深刻に悩んでいると、ノックの音がし、ひっ、と悲鳴が出そうになった。


「……はい……?」

「オレだよ」


 兄の声だ。シャルロットはノートを引き出しにしまった。


「お兄様、どうぞ」


 扉が開き、レオンスが入室する。シャルロットは椅子から立った。

 兄が歩み寄ってくる。


「どうした? 震えている?」


 レオンスはシャルロットの手を取り、指でシャルロットの指先を撫でた。とくんと心臓が音を立てた。

 レオンスは心配そうにシャルロットに視線を走らせる。


「クロヴィスが怖かったのか?」

「いえ……そんなことありません」


 クロヴィスは兄の友人だ。失礼すぎて本音を吐露できない。本当はめちゃめちゃ怖く、目が合っただけで死にそうだった。

 レオンスは苦笑する。


「彼は確かに無愛想だが、悪い人間ではないよ」


 そう、悪人ではない。悪逆なことを行った悪役令嬢に裁きを下しただけで、クロヴィスは基本的には善良な人間なのだ……。

 悪役令嬢に転生したシャルロットにしてみれば、殺し方がむごすぎ、恐怖でしかないのだが。


 青ざめているシャルロットに、兄は眉を寄せた。


「顔色が良くない。今日は、勉強はやめたほうがいいかもしれないね」

「いえ……平気ですわ」

 

 シャルロットは週三日、夕食後に兄から勉強を教わっている。

 レオンスの教え方はわかりやすい。


「あの、クロヴィス様は……?」


 兄は優しく笑んだ。


「彼はもう帰ったよ」

「そうですの……」


 シャルロットはほっとする。

 レオンスは腕を伸ばしてシャルロットを抱き寄せた。


「冷えたのかもね」


 兄のぬくもりを感じ、こわばりがすうっと解けていくのを感じる。身が溶けてしまいそうである。


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