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悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない  作者: 葵川 真衣


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7/12

7.可愛い妹




※※※※※




 レオンスはシャルロットの婚約が流れて、喜んだ。

 世界で一番可愛いシャルロットを、あんな男にやれるものか。

 レオンスは妹のことを大切に思っている。


 大貴族ラヴォワ公爵家の養子である自分は、赤子のとき、この家に引き取られた。

 母は出産時亡くなり、実父は誰かわからない。

 

 公爵夫人は、養子のレオンスをよく思わず、使用人も同然だとシャルロットに話してきかせた。

 義母と義妹から、ずっと蔑みの目で見られていた。

 

 義母は娘しかおらず、レオンスが家を乗っ取ってしまうような気がしたのだろう。

 忙しい義父は、侮蔑されているレオンスに気づいていなかった。

 

 家では感情を押し殺し、良い子を演じてきた。向こうに愛情がなかったように、自分のほうも愛情などなかった。

 表向き、愛想良くしていただけ。

 

 だが──。

 あの日からすべてが変わった。

 公爵家で夜会が開催された日。

 レオンスは広間を覗いていた妹を目にした。

 

 シャルロットは十三歳で、まだ夜会には出席できない。

 部屋に戻るようにと声を掛けに傍へ寄れば、妹は青ざめ震えていた。

 

 愛情も何もない妹だが、具合が悪そうなのをそのままにしておけなかった。

 それで部屋まで運ぶと、シャルロットはレオンスに礼を言ってきた。しかも今までの態度を謝りもした。

 青天の霹靂だった。

 今までどんなに親切にしても、妹は礼どころか、それを当然のように空気のように受け取ってきた。


 熱でもあるに違いない。

 測ってみると、やはり発熱していた。

 熱でおかしくなっているのだ。

 

 アッシュブロンドの髪に、ラピスラズリの瞳、形の良い鼻、艶やかな唇をした美貌の妹は、幼少時からちやほやされていたが、レオンスは居丈高な妹を可愛いと思ったことは一度もなかった。

 しかし熱で潤んだ瞳をし、殊勝な態度をとるシャルロットに、庇護欲を刺激された。


 家族の愛情に飢えていたレオンスは、風邪を引いて気弱になっている妹の世話をすることを決めた。

 自分に付かれれば嫌かもしれないと思ったが、シャルロットは発熱してつらそうなのに、レオンスを気遣いもした。


「お兄様はお兄様です。体調の悪い妹を気遣ってくれる、優しいかたです。お父様が誰であっても関係ありません。大切なお兄様ですわ」


 レオンスはそれまで凍っていた心が、溶けていくのを感じた。


(なんて可愛いんだろう)

 

 これまでのシャルロットとは別人だった。風邪によるものなら、ずっと風邪を引いていてほしい。

 

 シャルロットはその日を境に、心優しい、素直な、努力を惜しまない人間となった。

 わがままなところはなくなり、レオンスを本当の兄として慕ってくれるようになった。

 人格が入れ替わったと思うくらい、以前とは違う。

 

 恐らく高熱が出たためだろう。

 今のシャルロットを自分の元に届けてくれた神に感謝した。

 神は本当にいた。

 けれど──妹と過ごす内、突きあげるような愛しさを抱えることになった。

 妹が可愛くて仕方ない。


 シャルロットが婚約者を大切にしなければ、と話したとき相手を憎んだ。


(婚約者など……邪魔だ)

 

 妹を他の男のものにさせたくない。

 隣国からやってきた婚約者を苛々と迎え、どうやって婚約を潰してやろうかと考えていれば、男は呆れることを告げた。孕ませた愛人がいると。そんな状況にあるのに、妹はけなげにもスティーヴンを許し、嫁ぐ気でいた。レオンスはすぐさまスティーヴンの息の根を止めたかった。

 

 両家がスティーヴンの愚行を知り、破談となったものの、今後またシャルロットに結婚の話が持ち込まれれば、とレオンスは憂慮していた。


(シャルロットはオレのものだ)


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