59.流れ星
「お兄様」
レオンスはシャルロットの横に立った。
「招待客に囲まれて大変だったね」
「お兄様も、令嬢に取り囲まれていましたわね」
先程会場で、兄が令嬢たちに囲まれているのを目にした。
レオンスは苦く笑む。
「誰もオレ自身を見てはいないよ。ラヴォワ公爵家の跡取りであるという点で近寄ってくるだけだから」
シャルロットはかぶりを振った。
「違いますわ。お兄様ご自身に魅力があるからですわ」
兄は微笑した。
「おまえは優しいね」
「本当のことを申し上げているんです」
レオンスは魅力的だ。令嬢たちの気持ちもわかる。シャルロットも兄妹でなければ、恋をしていたと思うくらいだ。
(兄だし攻略対象でもあるから、そういう感情には抑制が大きく働くのだけれど)
そのとき、威厳ある国王がバルコニーに現れ、シャルロットとレオンスは慌てた。
「国王陛下」
二人が恭しく礼をすれば、国王は穏やかな眼差しをした。
「シャルロット、ようやく婚約発表となったな。エドゥアールは非常に喜んでいるぞ。息子ととても似合いで、二人が正式に婚約となり嬉しく思う」
国王はレオンスに視線を流した。
「……シャルロットの兄のレオンス・ラヴォワか」
国王の双眸に懐古が滲む。
「よく似ているな、母親に」
レオンスは驚いたように瞬いた。
「母をご存知なのですか」
国王は首肯する。
「ああ。君の母親は宮廷でも有名な佳人だった。亡くなったのは本当に残念だ」
国王は目を伏せたあと、シャルロットとレオンスに微笑んだ。
「舞踏会を楽しんでくれ」
国王が去り、レオンスはその後ろ姿をじっと見送った。
シャルロットは一つのことを思い出していた。
ゲーム内で……レオンスの父親は、実は国王ではないかと匂わせる描写やシーンがあったのだ。
まさか。
シャルロットは浮かんだ考えを打ち消す。
(いえ、ないわ。国王陛下は愛妻家と評判だったし。もしそんなことになれば、お兄様とエドゥアール様が兄弟ということになってしまう)
数ヵ月レオンスのほうが先に生まれているから、生まれ順では王太子がレオンスということになる。
レオンスの父親は、母親の幼なじみなど他にも候補はいた。国王ではないだろう。
レオンスは実父のことが気になっているようだったし、ゲームが始まれば、謎の部分もわかるのでは、と思っていたのに。
(どうしよう。ヒロインが隣国に行ってしまってゲーム自体がはじまらない……!)
「どうした、シャルロット」
シャルロットは首を横に振った。
「なんでもありませんわ、お兄様」
窓の向こうの会場には、レオンスが戻るのを待ちわびている令嬢らがいる。
「会場にお戻りくださいませ。皆様、お待ちのようですわ」
「おまえは?」
「わたくしは、もう少しこちらで休んでおります」
「オレはおまえ以外とダンスを踊る気はない。ここで休むのもいいけど、少し庭園を歩いて、星空を眺めない?」
シャルロットは迷ったが頷いた。
魔法学院に入学した兄とは会うこともあまりない。久しぶりに過ごしたいと思ったのだ。
それで螺旋階段を下り、庭園に出た。
少し歩くと、噴水が見え、そこに置かれていたベンチに二人で座った。
星が煌めく空を仰ぐ。たくさんの光が見える。
「とっても綺麗ですわ」
「そうだね」
隣でレオンスがシャルロットに訊いた。
「殿下は、入寮せず毎日王宮に帰っているようだけれど。おまえに会いにきているの? 婚約したといっても、結婚前だ。殿下に何かされていない?」
「何もされていませんわ。朝と夜、食事をご一緒しているだけで」
だが、エドゥアールに先程キスをされたことが脳裏をよぎって頬に熱が集った。そんなシャルロットの様子に、レオンスの声音が変化した。
「……何かされた?」
恥ずかしくて、シャルロットは否定した。
「いいえ、何も」
「キス?」
シャルロットはさらに頬が赤くなった。
「お兄様、そろそろ会場に戻りましょう……!」
「……ああ」
シャルロットはベンチからさっと立ち上がる。
レオンスと会場への道を引き返していると、兄が夜空を指さした。
「……シャルロット、流れ星だよ」
「え?」
「あそこ」
シャルロットが兄の示す場所に顔を上向けたとき、唇に兄の吐息がかかった。
今にも唇が重なりそうで、シャルロットはびっくりして後ずさった。
危うくぶつかるところだった……。




