58.王宮の舞踏会3
エドゥアールは髪をかきあげて続けた。
「ティロル男爵が、彼の両親の出身国で暮らすことを望んでいたのだ。困窮していた家の援助をし、隣国で暮らせるように手配した。男爵の娘オティリーは魔力保持者であったが、国を出ることになったため、魔法学院には入学しない。彼女自身、魔法学院でやっていく自信がなかったらしく、隣国に行くことになって非常に喜んでいたようだ」
(ヒロインが魔法学院に入学しない……!?)
シャルロットは驚愕の展開に絶句する。
ゲームでは、ヒロインの祖父母は確かに隣国の人間ではあったが、ヒロインは生まれてからずっとこの国で暮らしていた。
国外に出たことがないので、一度出て広い世界を見てみたい、とゲームで語っていたから間違いない。
「オティリー・ティロルは入学しない。だから貴様が不安に思うことは一切ない」
エドゥアールは手を伸ばし、呆然自失しているシャルロットをそっと抱き寄せた。
「あまりに貴様が危機感を覚えているようだったので、彼女が入学することのないようにした。別にその娘がいようがいまいが、俺のシャルロットへの気持ちは変わらないのだが」
シャルロットはエドゥアールに抱きしめられているのもわからないくらい、動揺していた。
(ヒロインがゲームの舞台に登場しない……)
なら……どうなるのか。悪役令嬢の不幸は回避される?
そうであれば幸いではあるが……ヒロイン不在では困ることがあった。
シャルロットは前世でゲームのバッド、グッド、ノーマルはクリアしたが、トゥルーエンドはまだなのだ。
自身の身の危険を回避しつつ、謎になっていたことを知りたいと思っていた。
攻略対象四人ともに謎が残っているのである。
レオンスでいえば本当の父親。一体誰なのか。
エドゥアールは七歳で地下洞窟から出たが、回想シーンで、靄がかかっている部分があった。何かが隠されているようなのだ。
クロヴィスは強い魔力を抱えている。しかしそれには魔族の血を引く以外にも、理由がありそうだった。
ユーグはゲームで意味深に時折瞳が赤く光ることがあった。それはなぜなのか。……等々。
シャルロットは、ヒロインと彼らの恋の行方を遠巻きに見守り、謎を知りたい、と考えていたのだが……。
ヒロインがいないのでは、解明されないのでは……!?
虚脱していたが、エドゥアールに抱きしめられていることにようやく気づいて、焦って身じろいだ。
「エドゥアール様……」
「好きだ。貴様が思い悩むことをすべて、なくしてやりたい」
彼の逞しい腕の中に抱きしめられ、だんだん心臓が甘く震えるのを感じた。
(好きって……)
本当に……?
シャルロットは、ゲームのこともあり判断がつかない。
「……エドゥアール様、それでは今思い悩んでいますので、すぐ腕を解いてくださいませ」
彼はゆっくりと腕を解いた。
「今夜、俺たちは正式に婚約をした。これくらいは許されるだろう」
エドゥアールはシャルロットの肩に手を置く。
「俺は貴様を、なにものからも守る」
本当ならありがたい言葉であるが、攻略対象である彼に自分は断罪される立場。
ヒロインがゲームの舞台に登場しない場合……どうなるのか。
とりあえず、備えは怠らないでいよう、と思う。
「大広間に戻って踊ろう。俺以外ともう踊るなよ」
シャルロットは彼に手を握られ、大広間へ戻った。
エドゥアールとダンスをし、そのあと貴族たちにお祝いの言葉をかけられて取り囲まれた。
エドゥアールはシャルロットに耳打ちする。
「バルコニーで休んでおけ。俺が挨拶をしておく」
彼の気遣いに感謝しつつ、シャルロットは頷いて、そこから移動した。
疲れていたので、バルコニーに出、手摺に手を置いて、ほっと息をつく。
(エドゥアール様は俺様だけれどお優しいわ)
戸惑うことはあれど、彼といるのは嫌ではない。シャルロットのことを慮ってくれている。
攻略対象は皆、魅力的だが、一緒にいると時折心臓が痛んだりするのは謎だ。シャルロットは胸に手を置いた。
(わたくし、もしかして……心臓病なの? どうしよう……)
深刻に悩んでいると声がした。
「シャルロット」
見れば、兄がこちらに歩いてくるところだった。




