52.誤算
レオンスは王宮に来て、妹と話したあと、エドゥアールの部屋に行った。
煌びやかな室内でエドゥアールと向き合い、長椅子に座った。
「貴様は、シャルロットのことをどう思っている?」
エドゥアールに探るように見られ、レオンスは静かに答えた。
「大切な妹です」
「それだけか?」
「ええ」
彼に自分の気持ちを話す気はない。
「まあ、いい」
エドゥアールは足を組んで、その上に肘をのせた。
「今日貴様を呼んだのは、シャルロットのことで話があったからだ。俺はシャルロットと結婚したいと思っている」
そのことだろうと予測していたが。
(やはり)
レオンスは苛立ちを懸命に抑える。
「妹は、クロヴィス・デュティユーと婚約しています。ですから──」
「その婚約は解消してもらいたい」
エドゥアールはセレストブルーの目を眇めた。
「俺は、クロヴィスという男とシャルロットの婚約を貴様が仕組んだと考えているのだが、違うか?」
「それはどういう意味でしょうか?」
「シャルロットと、仮の婚約をするよう親友に頼んだのでは? 男よけのために」
レオンスは息を詰める。
「婚約は侯爵家から申し込みがあり、決まったのです」
「申し込みをしてきたのが、偶然にも親友だったのか?」
「クロヴィスに日頃から妹の話をしていましたし、我が家に来た彼は妹と会っていました。それで気に入ったのでしょう」
「確かに貴様の親友はシャルロットを相当気に入っている。以前王宮で会ったとき、俺がシャルロットを連れて行くと、俺を殺しそうな顔で睨んでいたぞ」
「…………」
そう、クロヴィスはシャルロットに惚れている。誤算だった。甘く考えていた。
「婚約の解消をはかってほしい」
「殿下、それは──」
エドゥアールはにやりと笑う。
「クロヴィスとの婚約より、まだ俺との婚約のほうが良いはずだ。なぜならば、俺はシャルロットが魔法学院を卒業するまで待てる。しかし貴様の親友はどうだろうな? 調べたところ、デュティユー侯爵夫妻は大いに乗り気で、今すぐにでも結婚させたがっているそうじゃないか。ラヴォワ公爵を説得中だとか」
事実、デュティユー侯爵夫妻は早めの結婚をと父に熱心に話しているのだった。
それもあってレオンスは倒れた。
クロヴィスは侯爵夫妻の働きかけを止めている。しかし父が承諾してしまえば。
「俺がシャルロットと婚約をする。そのため、貴様に協力してもらいたい」
「協力というのは?」
「ラヴォワ公爵は婚約解消を不義理に思い躊躇うかもしれない。俺と結婚するほうがよいと父親を説き伏せてくれ。シャルロットもだ。いくらシャルロットに求婚しても頑なに拒絶される。だから俺と結婚したほうが幸せになれると彼女に話してくれ」
エドゥアールは唇に笑みを刷く。
「俺は結婚自体は待てるが、シャルロットが他の男と婚約している今の状況が我慢ならないのだ。貴様にとっても、早い結婚になるだろうクロヴィスとの婚約より、俺との婚約のほうがましだろう?」
レオンスは唇を引き結ぶ。このままクロヴィスと婚約させておくわけにはいかないが、だからといって王太子の要求も受け入れがたかった。
「……あなたが婚約者となった場合、結婚まで妹に手を出したりしませんか」
「シャルロットの意思を無視して何かするつもりはない」
「少し考える時間をいただきたいのですが」
「いいだろう」
エドゥアールは首肯した。
レオンスが屋敷に帰ると、父が気がかりそうに訊いてきた。
「レオンス、シャルロットは王宮でどのように過ごしていた?」
「多くを学び、良い環境にいるようでしたよ」
実際、妹は充実した毎日を送っているようで、元気そうだった。
「そうか」
父は安心したように表情を綻ばせた。
「殿下から連絡はいただいていたが、王宮に行ったきり、どうしているものかと気になっていた。シャルロットが元気に過ごしているのならいい。今日は殿下と何の話を?」
「魔法学院で同じ学年になるので、その話を」
父は思案するように顎を撫でた。
「ふむ。レオンスは魔力保持者、ラヴォワ家の跡取りとして魔法学院に入学となるが、シャルロットについては入学させなくても良いかもしれんな」
その言葉に、レオンスは嫌な予感がした。




