51.あり得ないこと
「お兄様。わたくし、とても悩みましたのに。ひどいですわ……!」
「ごめんごめん」
この半年間の思い煩いは一体なんだったのか?
シャルロットは怒りと安堵、残念に思う気持ちが胸の中で混ざり合った。
(でも、そうよね。お兄様がわたくしを異性として見るなんて)
あり得ないことだ。シャルロットは膨れながら訊く。
「どうして倒れるほど、いろいろなことに取り組み、毎日忙しくされておりますの?」
レオンスは淡々と説明する。
「オレはラヴォワ公爵家の後継者だから。若いうちの苦労は買ってでもしろと言うし、日々、父上の跡を継ぐために励んでいる。以前と変わらない」
シャルロットは眉をひそめる。
「でも倒れるまでというのは……」
レオンスは肩までのブルーブラックの髪を揺らし、首を左右に振った。
「立ち眩みがしただけさ。それを誇張してクロヴィスが話したんだよ」
シャルロットはほっとしたが、まだ少し心配だった。
「お兄様、どうかお身体に気をつけてくださいね」
「ああ、おまえに心痛を与えないように、気をつける」
レオンスはシャルロットの頬に掌をのせた。
「シャルロット、屋敷に帰ってきてはくれない? 父上もおまえがいなくて寂しく思っている。オレもおまえが帰ってきてくれれば安心だ」
シャルロットは迷った。ずっとこの半年悩んでいたことが解決した。
でも王宮での稽古はとてもためになるし、指輪の使用方法も調べないといけない。王宮内に手がかりがある気がする。
エドゥアールが魔法学院に入学すれば、彼が毎日戻ってこないようにシャルロットは屋敷に帰るつもりだが、それまではいようと思っている。
「あと半年は王宮にいる予定なのです。ここでは多くのことを深く学べるので」
「そうか……」
「屋敷にはちょくちょく帰るようにします。お兄様が身体を壊さないように見張らないといけませんもの! 魔法学院入学まであと半年なのですわ。ご自身の体調に気を配ってくださいね」
エドゥアールと兄は同じ学年になる。
そこでシャルロットは、兄を呼んだのはエドゥアールであることを思い出した。
「エドゥアール様が、お兄様にお話があるんでしたわ!」
レオンスをエドゥアールの部屋に案内しようとすると、兄がシャルロットの手首を掴んだ。
「シャルロット……殿下に無理なことはされていない?」
「誰にも無理なことなどされておりませんので、心配ありませんわ」
エドゥアールは距離が近いことがあるが、それだけだ。
「そう……」
兄は淡く息をつく。
シャルロットはレオンスと、エドゥアールの部屋に行った。
ノックをすると内側から扉が開き、エドゥアールはシャルロットとレオンスを眺めた。
「話が終わったのなら、今度は俺が貴様の兄と二人で話をする。シャルロットは稽古をしてくるといい」
シャルロットは頷いて、レオンスを仰いだ。
「お兄様、ではわたくしはこれで」
「ああ。またね」
レオンスは優しく笑む。シャルロットも笑顔を返した。大きな悩みの一つがなくなって、胸のつかえが下りた気がした。
足取り軽く、稽古用の服に着替えるために部屋へと戻った。
※※※※※
レオンスは、妹には冗談だと言うしかなかった。
シャルロットは別荘から逃げ出し、半年も家を空けたのだ。レオンスの告白がよほどショックだったに違いない。
話すのは、もっとあとにすべきだった。
レオンスは、シャルロットに気持ちを告げてしまったことを悔いた。
兄だと思っている相手から、色恋云々言われれば、それは拒絶反応が出て当然だろう。
元々、シャルロットの心を掴むまで、妹が自分を受け入れられるようになるまで待ち、時期をみて話す予定で。それまでの間、仮のものとしてクロヴィスと婚約させた。
しかし親友はシャルロットに恋をし、王太子は妹と結婚を考えている。レオンスは焦燥に駆られ、告白をしてしまった。
(早過ぎた)
それでシャルロットが王宮に滞在することになってしまった。
王宮書庫では、毎日エドゥアールと一緒にいるらしい。偵察させているユーグから報告を受けている。
シャルロットがいないことがつらすぎて、レオンスは予定を詰め込んだ。
父に同行して領地に行き、借地人と面会し問題を話し合った帰り、倒れた。父にゆっくりするようにと心配されたが、時間が空くとシャルロットのことを考えてしまい苦しい。




