49.近況1
月曜の朝、師に護身術と武術を教わった。熱心に丁寧に指導してくれ、シャルロットの腕は大分上達した。将官をつけてくれたエドゥアールに感謝しなくてはならない。
いつもは稽古が終わってすぐに着替えるのであるが、クロヴィスと会う約束をしている。急いで書庫の建物の裏手に行った。
すると四阿にクロヴィスがいた。
「シャルロット」
「クロヴィス様、お久しぶりです」
運動を終えたばかりの血色良い、稽古着姿のシャルロットを見て、彼は安心したように微笑んだ。
「凛々しい姿だな」
「このような格好で申し訳ありません。先程まで武術の稽古をしておりまして」
「王宮で稽古を?」
「はい。武術以外もこちらでいろいろ学んでおります」
「そうか。元気そうで何よりだ」
「クロヴィス様は、お元気にされていらっしゃいましたか?」
「ああ。僕は変わりないが……」
彼は溜息をつく。
「レオンスがこのところおかしいんだ。君が家からいなくなってから」
「お兄様が……?」
「ああ」
「お兄様はわたくしがいるときから、ちょっと様子が変でしたけれど」
シャルロットを閉じ込めたり、異性として見ていると告白したり。
クロヴィスは頷く。
「レオンスは君に強い執着心をもっていた。今、君が屋敷から出たことで自暴自棄になっているんだ。表向きは今までどおり、いや、それ以上にラヴォワ公爵家の跡取りとして完璧に物事をこなしているが、精神的にはぼろぼろな状態だ。何度か倒れている。君にそれを伝えようと思ってな。ラヴォワ公爵家の屋敷で知り合った、ユーグに君への仲介を頼んだ。彼は王宮書庫によく来ているようだから」
シャルロットは息を呑む。
「お兄様、倒れたんですの……?」
クロヴィスは顎を引く。
「レオンスは勉学に励み、領地経営に取り組み、借地人と会って農地を見て周り、慈善活動に精をだし、日々君のことを考える時間を作らないようにしていた。それで数回倒れた。ラヴォワ公爵が君に連絡を入れようとしたようだが、レオンスは妹に負担をかけたくない、自分のことを伝えないでほしいと止めた。見ていられなくてな。僕の独断でこうして君に知らせることにした」
(お兄様……)
シャルロットは胸がきゅっと痛くなった。そんなことまったく知らなかった。
「わたくし……一度屋敷に帰ります。お兄様がそんな状況だとは知らなくて」
「レオンスがシャルロットに伝えないようにと止めていたのだから、君が知らなくても仕方ない。レオンスに会ってやってくれるか?」
「はい」
シャルロットはクロヴィスに礼をした。
「教えてくださって、ありがとうございます」
「レオンスは親友だし、君は婚約者だ。放っておけなかった」
クロヴィスに恐れを抱いていたけれど、彼は真心があるひとだった。
「クロヴィス様はお優しいですね」
心からそう思って告げると、クロヴィスは目尻を朱に染めた。
「……そろそろ僕は行く。じゃあ、シャルロット」
「それではまた」
シャルロットはクロヴィスと別れたあと、部屋に戻って素早く着替えた。
昼食をとるためにエドゥアールの部屋に行くと、彼はすでにテーブルについていた。
「今日は少し遅かったな?」
「……申し訳ありません」
シャルロットは息を吸い込んで口を切った。
「あの……エドゥアール様、わたくし明日、家に帰ろうと思うのですが」
「なぜだ」
「家族が心配で。しばらく会っていませんし、家族の顔を見に戻ろうと思いまして」
エドゥアールはシャルロットをじっと見つめる。
「今帰れば、貴様が悩んだ状況に、また陥ることになるのでは? 兄が気になるのであれば王宮で会えばどうだ? シャルロットの兄を王宮に呼ぼう」
「父にも会いたいですし、いったん家に帰りたいのですわ」
エドゥアールは吐息をついた。
「では俺も一緒に行く」




