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悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない  作者: 葵川 真衣


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48/60

48.将来好きになる相手

 

 シャルロットは未来のことを思えば不安で、葡萄酒を口にした。


「お兄様は、将来好きになるかたがいらっしゃるのですわ。なのに今、わたくしに執着なさるから、離れたほうがお兄様も冷静になって良いと思いますの」

「どういうことだ? 貴様の兄が将来好きになる相手、とは?」


 シャルロットはふふと笑う。


「エドゥアール様はお兄様とライバルになるかもしれませんわ。エドゥアール様もそのかたをお好きになるでしょうから」


 彼は訝しげにする。


「話が見えないのだが? 酔ったのか?」


 今日ははじめて葡萄酒を飲んだ。確かに頭が少しぼんやりする。酔ってしまったのかもしれない。


「そうかもしれません……ですが」


 シャルロットは目を据わらせた。


「エドゥアール様は、わたくしに結婚云々おっしゃいますけど、あと二年半も経てば、もっと惹かれるひとに出会いますわ」


 彼はいっそう怪訝な顔をする。


「もっと惹かれるひと?」

「ええ。男爵令嬢オティリー・ティロル様です」


 シャルロットはヒロインの名を唇にのせ、グラスを傾けてこくんと飲む。


「オティリー・ティロル……誰だ? 知らないのだが」

「今はご存じなくとも、魔法学院で出会われますわ。そうしてエドゥアール様は彼女に恋をされるのですわ」

「なぜそんなことを言うのだ?」

「だってゲームでそうでしたもの。お兄様もユーグ様もクロヴィス様も、オティリー様に惹かれますわ。彼女を慕う皆様からわたくし、目の敵にされ、殺されるかもしれませんの。おほほ」


 笑って話すシャルロットに、エドゥアールは呆れたようだ。


「貴様が何を言っているのか、さっぱりわからん。完全に酔っているな? 意味不明だ」


 シャルロットは目をつり上げた。


「意味不明ではありません、本当のことですわ! わたくしは悲惨な目に遭いますわ!」


 シャルロットは叫んで、テーブルに顔を埋めた。


「おいおい……大丈夫か」


 椅子を立って、こちらに近づいてきたエドゥアールをシャルロットは手で払いのけた。


「あなたは距離が近すぎます!」

「……わかった、わかった。これから近づきすぎないようにしよう。だが今日は貴様の様子がおかしい。部屋まで運ぶぞ」


 彼はシャルロットを腕に抱え上げ、部屋まで連れていった。


「降ろしてくださいませ!」


 ばたばた暴れるシャルロットを、エドゥアールはやれやれとばかりに無視した。

 部屋まで送ってくれ、シャルロットに水を飲ませ、侍女に就寝の支度を命じたあと、彼は帰っていった。


 その夜のことを翌朝思い出したシャルロットは、頭のてっぺんから足の爪先まで青ざめた。


(昨日……エドゥアール様にゲームのことを話してしまったわ……っ! どっ、どうしよう……っ!)


 いつもエドゥアールの部屋で食事をとることになっている。

 恐る恐る彼の部屋に足を運ぶと、呆れたように見られた。シャルロットは目を伏せ、挨拶をする。


「おはようございます、エドゥアール様……昨夜は失礼しました。わたくし酔ってしまって」

「おはよう。貴様は酒を控えろ」

「そうします」


 おずおずと席につくと、彼はちらりとシャルロットに視線を向けた。


「それで、貴様が昨晩話していた内容だが」


 シャルロットははっと慌てた。


「わたくし、酔って意味不明なことを口走ってしまったのです! どうぞ昨晩わたくしが話したことは、すべてお忘れになってくださいませ」

「魔法学院で出会う男爵令嬢に俺が恋をするとか、ゲームでそうだったとか、皆が男爵令嬢を慕い、シャルロットは目の敵にされるとか話していたが」


 しっかりエドゥアールは記憶している! シャルロットは白くなって、首を左右に振った。


「おほほほ。自分で言っておきながら、わたくしも今聞くと、何のことだかさっぱりですわね! 本当に意味不明ですわ!」


 シャルロットは目を逸らせる。エドゥアールはそうか、と相槌を打った。


「今日は俺も王宮書庫に行こう。近くに寄り過ぎるというから、今日は気をつけてみよう」


 酔っぱらいの戯言として捉えたのだろう。話が変わって、シャルロットはほっとした。


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