48.将来好きになる相手
シャルロットは未来のことを思えば不安で、葡萄酒を口にした。
「お兄様は、将来好きになるかたがいらっしゃるのですわ。なのに今、わたくしに執着なさるから、離れたほうがお兄様も冷静になって良いと思いますの」
「どういうことだ? 貴様の兄が将来好きになる相手、とは?」
シャルロットはふふと笑う。
「エドゥアール様はお兄様とライバルになるかもしれませんわ。エドゥアール様もそのかたをお好きになるでしょうから」
彼は訝しげにする。
「話が見えないのだが? 酔ったのか?」
今日ははじめて葡萄酒を飲んだ。確かに頭が少しぼんやりする。酔ってしまったのかもしれない。
「そうかもしれません……ですが」
シャルロットは目を据わらせた。
「エドゥアール様は、わたくしに結婚云々おっしゃいますけど、あと二年半も経てば、もっと惹かれるひとに出会いますわ」
彼はいっそう怪訝な顔をする。
「もっと惹かれるひと?」
「ええ。男爵令嬢オティリー・ティロル様です」
シャルロットはヒロインの名を唇にのせ、グラスを傾けてこくんと飲む。
「オティリー・ティロル……誰だ? 知らないのだが」
「今はご存じなくとも、魔法学院で出会われますわ。そうしてエドゥアール様は彼女に恋をされるのですわ」
「なぜそんなことを言うのだ?」
「だってゲームでそうでしたもの。お兄様もユーグ様もクロヴィス様も、オティリー様に惹かれますわ。彼女を慕う皆様からわたくし、目の敵にされ、殺されるかもしれませんの。おほほ」
笑って話すシャルロットに、エドゥアールは呆れたようだ。
「貴様が何を言っているのか、さっぱりわからん。完全に酔っているな? 意味不明だ」
シャルロットは目をつり上げた。
「意味不明ではありません、本当のことですわ! わたくしは悲惨な目に遭いますわ!」
シャルロットは叫んで、テーブルに顔を埋めた。
「おいおい……大丈夫か」
椅子を立って、こちらに近づいてきたエドゥアールをシャルロットは手で払いのけた。
「あなたは距離が近すぎます!」
「……わかった、わかった。これから近づきすぎないようにしよう。だが今日は貴様の様子がおかしい。部屋まで運ぶぞ」
彼はシャルロットを腕に抱え上げ、部屋まで連れていった。
「降ろしてくださいませ!」
ばたばた暴れるシャルロットを、エドゥアールはやれやれとばかりに無視した。
部屋まで送ってくれ、シャルロットに水を飲ませ、侍女に就寝の支度を命じたあと、彼は帰っていった。
その夜のことを翌朝思い出したシャルロットは、頭のてっぺんから足の爪先まで青ざめた。
(昨日……エドゥアール様にゲームのことを話してしまったわ……っ! どっ、どうしよう……っ!)
いつもエドゥアールの部屋で食事をとることになっている。
恐る恐る彼の部屋に足を運ぶと、呆れたように見られた。シャルロットは目を伏せ、挨拶をする。
「おはようございます、エドゥアール様……昨夜は失礼しました。わたくし酔ってしまって」
「おはよう。貴様は酒を控えろ」
「そうします」
おずおずと席につくと、彼はちらりとシャルロットに視線を向けた。
「それで、貴様が昨晩話していた内容だが」
シャルロットははっと慌てた。
「わたくし、酔って意味不明なことを口走ってしまったのです! どうぞ昨晩わたくしが話したことは、すべてお忘れになってくださいませ」
「魔法学院で出会う男爵令嬢に俺が恋をするとか、ゲームでそうだったとか、皆が男爵令嬢を慕い、シャルロットは目の敵にされるとか話していたが」
しっかりエドゥアールは記憶している! シャルロットは白くなって、首を左右に振った。
「おほほほ。自分で言っておきながら、わたくしも今聞くと、何のことだかさっぱりですわね! 本当に意味不明ですわ!」
シャルロットは目を逸らせる。エドゥアールはそうか、と相槌を打った。
「今日は俺も王宮書庫に行こう。近くに寄り過ぎるというから、今日は気をつけてみよう」
酔っぱらいの戯言として捉えたのだろう。話が変わって、シャルロットはほっとした。




