47.兄の気持ち
シャルロットがびっくりしていると、ユーグは深刻な顔をした。
「シャルロット様、突然なのですが、クロヴィス様とお話をする時間を取っていただけないでしょうか?」
「え、クロヴィス様と、ですか?」
ユーグは深く頷く。
「そうです。ぼく、ラヴォワ公爵家の屋敷でクロヴィス様と知り合ったのですが、どうにかしてシャルロット様とお話ができないかとあのかたは悩んでいらっしゃるのです。大切なお話があるようですので、エドゥアール様に気づかれないよう、書庫裏手にある四阿でお会いしてはいただけませんか」
シャルロットがクロヴィスと会うことを、もしエドゥアールが知ればついてくるはずだ。
クロヴィスとの婚約解消をエドゥアールは望んでいるし。面倒なことになる。
武術稽古後、着替えをするまでの間なら、エドゥアールは傍にいなかった。
「わかりましたわ。月曜のお昼前、十一時半頃はいかがでしょうか」
「はい。ではその日時にお願いします。クロヴィス様に伝えておきます。ずっとシャルロット様にお会いすることを望んでいらして。それはレオンス様もなのですが……」
兄は元気にしているだろうか。
ユーグに尋ねようとすると、違う話に変わって訊きそびれてしまった。
夕刻になり、ユーグは帰っていった。
シャルロットはエドゥアールと夕食をとった際、葡萄酒を飲みながら彼に問いかけた。
「わたくしたちがいつも書庫で座っている席は、立ち入り禁止の場所ですの?」
彼は片眉を動かす。
「そうだが? 王族専用席だ。知らなかったのか?」
「知りませんでした」
なぜ気づかなかったのか。長椅子が置かれているのは、あそこだけだし、座り心地よく、机も精緻な彫刻入りで艶やかで上質だった。
「わたくし、今度から違う場所で本を読みますわ」
「俺たちは、願いの叶う指輪について調べているのだぞ? その会話をひとに訊かれれば、関心を引いてしまう。だからあの席を使っているのだ」
そうか。指輪の存在がひとに知られれば、厄介だ。
ユーグは良いひとで問題なかったが、世の中にはいろいろな人間がいる。注意するに越したことはないだろう。
シャルロットは浅慮を反省した。
「そうとは知らず、エドゥアール様にいつも文句を言って申し訳ありませんでした。ひとに聞こえないよう、近くに寄って話していたのですね」
「いや、それは無意識にシャルロットの近くに寄ってしまうのだ」
「なら意識して、近づかないようにしてください」
彼は唇の端を持ち上げる。
「実際、傍のほうがひとに聞かれなくていいではないか」
「近すぎますわ」
「もう慣れたのでは?」
本に集中できないので、気にしないようにと思っているが、別に慣れたというわけではない。
「それにしても今日はどうなさったんです? いつも書庫についてきますのに?」
今日は、珍しく彼がついてこなかったので違う席に座り、ユーグと話ができた。
「宰相に話があると言われ、会っていたのだ」
宰相といえば、ユーグの父親である。
ひょっとするとユーグが父親に頼んで、今日エドゥアールが書庫に来ないようにしたのだろうか。
「そうですの……」
「俺がいなくて寂しかったか? 安心しろ、明日は付き合うぞ」
「別に寂しくありません。付き合ってくださらなくて結構ですわ」
シャルロットがそう告げれば、エドゥアールの表情が曇った。
「俺がいると気づまりか? なら少しだけ意識して距離を保とう」
珍しく引いてくれて、シャルロットは目を瞬いた。
「エドゥアール様が折れてくださるなんて、珍しいです」
エドゥアールは皮肉に笑んだ。
「シャルロットに嫌がられるようなことはしたくない。貴様の兄の、二の舞を演じる気はない。家に帰りたくないのは、兄レオンスが貴様を溺愛し、束縛するからなのだろう?」
「…………」
異性として見ていると言われ、どうしていいかわからないからだった。
ゲームではあり得ないことだ。
魔法学院に入学し、ヒロインと出会えば、兄の気持ちも変わることだろうけれど。




