46.平和な日々2
シャルロットが王宮に来て、半年経った。
別荘から帰ってきたあと、自分はすぐにここにやってきた。
王宮に滞在することなどエドゥアールが家に伝えてくれている。
父や兄のことが気にはなっていたが、兄と顔を合わせることを思えば、帰ることを躊躇していた。
あと半年で兄は魔法学院に入学する。そうなれば家に戻ろうと、シャルロットは予定を立てていた。
「エドゥアール様」
「なんだ?」
シャルロットはエドゥアールの部屋に、庭園で摘んだ花を飾る。
「もう少しすれば、エドゥアール様は魔法学院に入学ですね」
「ああ」
魔法学院は全寮制。
今は毎日会っているが、エドゥアールと会うことも半年経てばなくなる。
彼は長椅子の背もたれに身体を預けて口を開く。
「魔法学院は王宮から近い。今同様、朝食や夕食は貴様ととる」
シャルロットはぽかんとしてしまった。
「入寮するのでは?」
「俺は寮で生活する気はない。通学する」
「魔法学院は全寮制ですのに……それは可能なんですの?」
彼は肩をすくめる。
「俺は王太子だ。許されないとでも?」
……可能なのか……。
エドゥアールはゲームでは寮の大きな部屋で暮らしていた。
夜に、寮から抜け出たエドゥアールとヒロインが学院内で待ち合わせて会うシーンがあったから間違いない。
あまりにゲームとは異なってきていて、シャルロットは不安に思った。
(だ、大丈夫なの……?)
エドゥアールは両腕を組む。
「別に寮に入ってもよいのだが、シャルロットが王宮にいるからな。一緒に食事をとりたい。貴様が魔法学院に入学すれば、俺も寮生活をはじめる」
ではゲーム開始時には、彼も入寮している。ゲームで見たシーンも無事行われるだろう。
しかし。
「どうしてわたくしに合わせるんですの……」
一体どういうことなのだとシャルロットがエドゥアールを見れば、彼は軽く答えた。
「貴様が魔法学院に入学すれば、毎日ここに戻る意味はない。寮に入ったほうがラクだ」
「それなら、最初から入寮すればよろしいのですわ」
「俺は貴様を監視しなければならないのだ。話しただろう?」
彼に手間暇をかけさせるのも気が咎める。
「使用方法がわかるまで、エドゥアール様が指輪をお持ちくださいませ。そうすれば、わたくしを気に掛ける必要はなくなります」
すると彼は首を左右に振った。
「貴様のものだ、持っておけ」
「ですが」
「婚約指輪としての意味合いもあるのだ」
「わたくし、余計に持っておくことはできません」
「では、もし俺が方法を見つけて、指輪に貴様との結婚を願えばどうする?」
シャルロットは目をぱちくりした。
「そんなことを願ったりはなさらないでしょう」
「シャルロットはずっと俺を拒んでいるし、業を煮やして方法が見つかった途端、願ってしまうやもしれん」
それは困る。
「……やっぱり、わたくしが持っていますわ」
彼はふ、と笑った。
「ああ」
「シャルロット様」
ある日、シャルロットが一人で書庫にいると、声を掛けられた。
顔を上げると、ユーグが立っていた。
「ユーグ様」
約半年ぶりの再会だった。シャルロットは懐かしく思う。
「お元気でしたか?」
彼ははにかむように笑んだ。
「はい。ラヴォワ公爵からシャルロット様は今、王宮で暮らされていると伺いました。どうですか、何か困っていることはありませんか?」
「ええ。わたくしは元気にしていますわ」
ユーグはほっと息をついた。
「よかった……シャルロット様を書庫でいつもお見掛けしていて、お元気な姿を目にはしていたのですが、心配で」
ここは広く、シャルロットはユーグも書庫にいたなんて気づかなかった。
「声を掛けてくださればよろしかったのに」
ユーグは哀しそうに俯く。
「話しかけられませんでした。殿下とシャルロット様がいらっしゃる場所は、一般の者は立ち入り禁止になっているので」
「立ち入り禁止?」
「はい」
そういえば……いつもエドゥアールと座る席の周りには人がいなかった。今日は気分転換で違う場所に座ったのだけれど。




