45.平和な日々1
「俺は王家に伝わる指輪をシャルロットに渡した。使いかたがわかったとき、貴様がおかしな願いをするとも思えんが、俺はこの国を守る責任がある。だから貴様を監視しているのだ。指輪が他の者に渡っても危ない」
「そ、そうだったのですか……」
「そうだ」
シャルロットは納得した。
自分は決して悪いことに使ったりしないが、悪人の手に渡り、世界滅亡を願いでもしたら大変だ。
王家の人間としてエドゥアールが心配するのもわかった。
シャルロットは、ただゲームのような恐ろしい目に遭わないよう、不幸にならないよう願いたいだけだが。
「知っている人間は他に誰がいる?」
「ユーグ様だけですわ。彼には誰にも話さないでほしいと伝えています」
エドゥアールと地下洞窟に行ったのを知られないように口止めしたのだが、しておいてよかった。よからぬ輩が悪いことに使おうと指輪を奪いに来たらいけない。
「念のため、今後は口外するな」
シャルロットはこくりと頷いた。
「言いません」
「貴様が魔法学院に入学するまで、王宮にいてもらおう」
「え?」
シャルロットは息を呑んだ。
「わたくしが魔法学院に入学するまで、三年あるのですが」
「ああ。その間王宮にいろ」
あと数日したら屋敷に帰ろうと思っていたシャルロットは唖然とした。
「そんな長くいられませんわ」
エドゥアールはブロンドの髪をかきあげた。
「貴様は、家に帰りたくないのではないのか」
「それは……」
まだ心の整理がついていないのは事実だった。
「王宮にいたほうが、俺も監視しやすいし、貴様も指輪の使用方法を探しやすいだろう?」
「わたくし、しなくてはならないことがあります。王宮でずっと厄介になるわけにはいきません」
「しなくてはならないこととは、なんだ」
「護身術、武術の稽古や、外国語などの勉強ですわ」
断罪された場合に、必要だ。
エドゥアールは呆れた顔をする。
「護身術と学問はまだしも……なぜ武術を学ぶ必要がある?」
ゲームで殺されそうになったとき、なんとか生き延びるためである。
しかしそれは話せない。シャルロットは言い繕った。
「それは……エドゥアール様のようなかたに、無理やり何かされそうになったときに、反撃するためですわ」
彼は頷いた。
「必要かもしれないな」
無理やり何かをすることはないと、彼は否定しなかった。
「ならばそれらを学ぶための師をつけてやる。王宮で一流の者から学ぶほうが実りは大きいと思うぞ。貴様の力も一段と上がることだろう」
その言葉に、シャルロットは惹かれるものがあった。万全の備えをしておきたかったからだ。だがそこまでしてもらって良いのだろうか。
「申し訳ないですわ」
「気になるのであれば、王宮にいる間、俺に仕えるといい」
「仕えるって……何をするんですの?」
シャルロットが訊いてみると、彼はなんでもないように言った。
「主に俺の身の回りの世話だ。貴様の学びの妨げにならない程度で、俺の話し相手となり、部屋の片付けや、所用をこなしてくれ」
「それだけで良いんですか?」
「ああ」
強引な要求ではなかった。それならシャルロットにもできそうである。
「わかりましたわ」
シャルロットが承諾すると、エドゥアールは口角を上げた。
「よし」
翌日から、エドゥアールが紹介してくれた数人の師に、護身術や武術、学問を学ぶことになった。武術は将官が直々に教えてくれた。
シャルロットは少々怖気づいたものの、折角の機会である。真剣に学んだ。
また、それ以外のときはエドゥアールの部屋を片付けたり、彼に言われて必要なものを用意したり、今までどおり指輪の使用方法を探して過ごした。
シャルロットがしなければならない、エドゥアールの身の回りの世話等の仕事は少なかった。エドゥアールの部屋は侍女が毎日綺麗に掃除しているし、彼に言いつけられる用もそれほど多くはなかったからだ。
シャルロットは自身のすべきことに集中して取り組むことができた。
ただ一つ不服なのは、書庫でのエドゥアールの距離感が変なことだったが、平和に日々は過ぎていった。




