44.誘惑
「指輪の使いかたがわからなくても、俺が幸せにしてやる。俺と結婚すればいい」
「ですからわたくしは他のひとと婚約しています」
シャルロットは視線を本に落とし、エドゥアールを無視した。
彼も本を読み始めた。距離は近いままだったが。
日が落ち、部屋に戻ろうとすると、エドゥアールが外で立ち止まった。
「シャルロット、王宮内を歩けば何か発見があるのではないか? 王家に伝わる指輪だからな」
一理あった。
「そうですわね」
シャルロットはエドゥアールと庭園を歩くことにした。
夕陽に染まる木々を眺め、シャルロットは気になっていたことを尋ねてみる。
「エドゥアール様は、最初お会いしたとき、庭園で寝ころんでいらっしゃいましたよね。いつもあんな風に外で横になっているのですか?」
隣を歩く彼のブロンドの髪が風に揺れる。
「一人になりたいとき、あの場所でたまに休むことがある。普通の人間は入り込めないから。結界が張られているんだ」
(え?)
シャルロットは目を見開いた。
「結界が?」
「ああ。だから貴様が入り込んできて驚いたぞ? どうやって入ってきたのだ。俺もそれを疑問に思っていたのだ」
「迷ってしまって。いつの間にか、いましたわ」
ゲーム同様、この世界には結界が張られた場所がある。入ることを許されたもの以外は入れない。
「結界の隙間を抜けてきたのだろうな。俺があの場所で休むことを知る女が、誘惑しようとやってきたのかと最初思った」
「違います!」
シャルロットは強く否定する。誘惑なんてするわけがない。王子だということも知らなかった。
彼は可笑しそうに笑った。
食事はいつもエドゥアールの部屋で一緒にとる。その日も彼とともに夕食をとった。
しばらく王宮で暮らしたが、指輪の使用方法は見つからなかった。
分野を超え、切り口を変え、様々な角度から本を探って読み、王宮内を見て歩いているのだが。
シャルロットは考えた。
指輪は王家の人間でなければ、手に入れることができない仕掛けだった。
なら、使うのも王家の人間の力が必要なのでは?
隣で本を読んでいたエドゥアールに訊いてみた。
「この書庫以外に、王宮に置かれている大切な本ってありませんか?」
「王族のみが読める本があるが」
シャルロットは身を乗り出す。
「エドゥアール様、その本に書かれてあるのでは!?」
エドゥアールは手元の本の頁を繰りながら答えた。
「それらの本は、王位に就いたあとでないと読めない。今の俺には無理だ。目を通せるのは俺が国王になったときだな」
「そうですの……」
そこに書かれてある可能性が高い気がする。
しかし王位に就かなければ読めないというのなら、シャルロットはそれまでに危機に瀕し、すべて終わっている。ゲーム中、現国王は健在でエドゥアールは王太子だった。
指輪を持っていても意味がないということになる。宝の持ち腐れだ。
シャルロットはエドゥアールに指輪を差し出した。
「ん、なんだ?」
エドゥアールは視線を上げ、訝しげにする。
「エドゥアール様にお渡しします」
「どうしたのだ、急に?」
シャルロットは意気消沈する。
「わたくしが使いたいときに、使うことはできないと思いますので。持っていても仕方ありませんわ」
「その本に書かれてあると決まったわけではないだろう? 他の本に記されているかもしれないし、判明する術は別にあるかもしれない」
シャルロットは黙考する。
指輪を見つけたときも、ゲームにヒントがあった。ならば使いかたもそうかもしれなかった。
「ゲームに糸口があるのかしら……」
ぽつりと呟くと、エドゥアールが眉を動かした。
「ゲーム?」
「い、いえ、なんでもありませんわ」
シャルロットは慌てて誤魔化す。
「それよりエドゥアール様、いつも探すのを手伝ってくださいますが、わたくしにこれほどついてくださらなくてもよろしいですわ」
王宮に来てから、エドゥアールと会わない日はない。それに攻略対象皆そうなのだが、彼は特に距離感がおかしいので、シャルロットはまごつくのである。




