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悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない  作者: 葵川 真衣


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44/60

44.誘惑


「指輪の使いかたがわからなくても、俺が幸せにしてやる。俺と結婚すればいい」

「ですからわたくしは他のひとと婚約しています」


 シャルロットは視線を本に落とし、エドゥアールを無視した。

 彼も本を読み始めた。距離は近いままだったが。


 日が落ち、部屋に戻ろうとすると、エドゥアールが外で立ち止まった。


「シャルロット、王宮内を歩けば何か発見があるのではないか? 王家に伝わる指輪だからな」


 一理あった。


「そうですわね」

 

 シャルロットはエドゥアールと庭園を歩くことにした。

 夕陽に染まる木々を眺め、シャルロットは気になっていたことを尋ねてみる。


「エドゥアール様は、最初お会いしたとき、庭園で寝ころんでいらっしゃいましたよね。いつもあんな風に外で横になっているのですか?」


 隣を歩く彼のブロンドの髪が風に揺れる。


「一人になりたいとき、あの場所でたまに休むことがある。普通の人間は入り込めないから。結界が張られているんだ」


(え?)


 シャルロットは目を見開いた。


「結界が?」

「ああ。だから貴様が入り込んできて驚いたぞ? どうやって入ってきたのだ。俺もそれを疑問に思っていたのだ」

「迷ってしまって。いつの間にか、いましたわ」


 ゲーム同様、この世界には結界が張られた場所がある。入ることを許されたもの以外は入れない。


「結界の隙間を抜けてきたのだろうな。俺があの場所で休むことを知る女が、誘惑しようとやってきたのかと最初思った」

「違います!」


 シャルロットは強く否定する。誘惑なんてするわけがない。王子だということも知らなかった。

 彼は可笑しそうに笑った。

 食事はいつもエドゥアールの部屋で一緒にとる。その日も彼とともに夕食をとった。

 

 

 

 しばらく王宮で暮らしたが、指輪の使用方法は見つからなかった。

 分野を超え、切り口を変え、様々な角度から本を探って読み、王宮内を見て歩いているのだが。

 

 シャルロットは考えた。

 指輪は王家の人間でなければ、手に入れることができない仕掛けだった。

 なら、使うのも王家の人間の力が必要なのでは?

 

 隣で本を読んでいたエドゥアールに訊いてみた。


「この書庫以外に、王宮に置かれている大切な本ってありませんか?」

「王族のみが読める本があるが」


 シャルロットは身を乗り出す。


「エドゥアール様、その本に書かれてあるのでは!?」


 エドゥアールは手元の本の頁を繰りながら答えた。


「それらの本は、王位に就いたあとでないと読めない。今の俺には無理だ。目を通せるのは俺が国王になったときだな」

「そうですの……」


 そこに書かれてある可能性が高い気がする。


 しかし王位に就かなければ読めないというのなら、シャルロットはそれまでに危機に瀕し、すべて終わっている。ゲーム中、現国王は健在でエドゥアールは王太子だった。

 

 指輪を持っていても意味がないということになる。宝の持ち腐れだ。

 シャルロットはエドゥアールに指輪を差し出した。


「ん、なんだ?」


 エドゥアールは視線を上げ、訝しげにする。


「エドゥアール様にお渡しします」

「どうしたのだ、急に?」


 シャルロットは意気消沈する。


「わたくしが使いたいときに、使うことはできないと思いますので。持っていても仕方ありませんわ」

「その本に書かれてあると決まったわけではないだろう? 他の本に記されているかもしれないし、判明する術は別にあるかもしれない」


 シャルロットは黙考する。

 指輪を見つけたときも、ゲームにヒントがあった。ならば使いかたもそうかもしれなかった。


「ゲームに糸口があるのかしら……」


 ぽつりと呟くと、エドゥアールが眉を動かした。


「ゲーム?」

「い、いえ、なんでもありませんわ」


 シャルロットは慌てて誤魔化す。


「それよりエドゥアール様、いつも探すのを手伝ってくださいますが、わたくしにこれほどついてくださらなくてもよろしいですわ」


 王宮に来てから、エドゥアールと会わない日はない。それに攻略対象皆そうなのだが、彼は特に距離感がおかしいので、シャルロットはまごつくのである。


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【カクヨム版】
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