42.王太子と遭遇
落ち着こうと、バルコニーに出れば星が輝いているのが見えた。
そうだ、指輪を試そうと思っていたのだ。
(冷静になるためにも、外に出よう)
今ここにいられない。
シャルロットは指輪をポケットに入れて、別荘からそっと抜け出した。
森に向かっていると、馬車が通りかかった。ぼんやりとそれを視界の端に映して歩いていると、シャルロットの横で馬車は止まった。
「シャルロット」
突然名を呼ばれて虚を衝かれ馬車のほうに視線を向ければ、そこからエドゥアールが降りてくるのが見えた。
(えっ?)
「エドゥアール様?」
エドゥアールは片腕を伸ばし、シャルロットの手首を掴んだ。
「貴様はこんな夜に一人で出歩いて、どこへ行くつもりなのだ」
「……指輪の使いかたを調べようと思いまして」
「夜に調べなくてもいいではないか」
「月にかざしてみるために、夜になりました」
「馬車に乗れ。俺も一緒に確認しよう」
指輪は元々王家のものだ。指輪の使いかたを一緒に確認することを断れない。
エドゥアールと馬車に乗る。
馬車が走り出し、森から離れていった。
「わたくし、森で調べるつもりだったんですけれど」
「なぜだ?」
「何らかの反応が起き、爆発でもすればいけませんわ」
彼は呆れたようにシャルロットを見る。
「爆発などしたら、願いを叶えようとする前に、その人間は亡くなってしまうだろう。そんなことは起きない」
しかしわからないではないか、とシャルロットは思うのだ。
「この馬車の中で確認しろ」
エドゥアールに命じられ、渋々シャルロットは馬車の窓を開け、指輪を取り出した。
恐る恐る月にかざしてみる。
だが何の変化も起きなかった。
「駄目でしたわ」
馬車は別荘とは逆方向に進んでいた。
確認も終えたし、もう別荘に戻ろう。
「あの。今別荘に来ているのです。戻りたいのですが」
彼は長い脚を高らかに組んだ。
「なぜ俺がここにいると思う?」
「そういえば、どうしてですの?」
なぜ彼は王都から離れたこんなところにいるのだろうか。
「シャルロットを連れ帰りにラヴォワ家の別荘までやってきた。すると夜道を歩いている貴様を見つけた」
「わたくしを連れ帰る?」
「貴様は俺のものだ」
エドゥアールはシャルロットの手を握り締めた。
「勝手に王都を離れるのは許せない」
シャルロットは呆気にとられる。
「わたくしは、エドゥアール様のものではありませんわ。わたくしはわたくしのものです」
するとエドゥアールは肩を揺すって笑った。
「俺のものだ」
彼は端麗な顔を近づけ、キスをするような距離まで傍に寄った。
「デュティユー侯爵令息との婚約は解消しろ」
目映い美貌のエドゥアールに至近距離で迫られ、鼓動が速まった。
シャルロットは焦り、身を引いて叫んだ。
「馬車から降ろしてください!」
「もう大分別荘からは離れたぞ? ここから夜道を歩いて帰るのか?」
……今、兄と顔を合わせるのは気まずかった。
シャルロットは動揺しているし、しばらく心を整理する時間が欲しかった。
「このまま王都まで俺と戻れ」
兄から離れるには、王都の家に帰るしかない。
シャルロットは首を縦に振った。
「……わかりました」
「ん? いやに素直だな?」
シャルロットはエドゥアールを睨む。
「降ろしてくれないのですから、王都に戻るしかありませんわ」
エドゥアールは唇に笑みを刻む。
「今の婚約は解消しろよ」
クロヴィスとの婚約は、ゲームが始まれば解消となるだろう。
だがエドゥアールとどうこうなることもない。というかそれは最も避けたいことであった。
シャルロットは横を向く。
「わたくしの婚約が解消となっても、エドゥアール様には関係ないことです」
「大いに関係ある。他の男といるんじゃない。一緒に別荘に行った兄も養子で実兄ではないのだろうが」
シャルロットは目を伏せる。
「わたくしにとっては兄ですわ」
「向こうにとっては?」
シャルロットが押し黙れば、顎に指をかけられ、彼のほうに顔を向けさせられた。
「俺をこれ以上嫉妬させるなよ」
エドゥアールのセレストブルーの瞳が甘やかに煌めく。




