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悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない  作者: 葵川 真衣


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42/60

42.王太子と遭遇

 

 落ち着こうと、バルコニーに出れば星が輝いているのが見えた。

 そうだ、指輪を試そうと思っていたのだ。


(冷静になるためにも、外に出よう)

 

 今ここにいられない。

 シャルロットは指輪をポケットに入れて、別荘からそっと抜け出した。

 

 森に向かっていると、馬車が通りかかった。ぼんやりとそれを視界の端に映して歩いていると、シャルロットの横で馬車は止まった。


「シャルロット」


 突然名を呼ばれて虚を衝かれ馬車のほうに視線を向ければ、そこからエドゥアールが降りてくるのが見えた。


(えっ?)


「エドゥアール様?」


 エドゥアールは片腕を伸ばし、シャルロットの手首を掴んだ。


「貴様はこんな夜に一人で出歩いて、どこへ行くつもりなのだ」

「……指輪の使いかたを調べようと思いまして」

「夜に調べなくてもいいではないか」

「月にかざしてみるために、夜になりました」

「馬車に乗れ。俺も一緒に確認しよう」


 指輪は元々王家のものだ。指輪の使いかたを一緒に確認することを断れない。

 エドゥアールと馬車に乗る。

 馬車が走り出し、森から離れていった。


「わたくし、森で調べるつもりだったんですけれど」

「なぜだ?」

「何らかの反応が起き、爆発でもすればいけませんわ」


 彼は呆れたようにシャルロットを見る。


「爆発などしたら、願いを叶えようとする前に、その人間は亡くなってしまうだろう。そんなことは起きない」


 しかしわからないではないか、とシャルロットは思うのだ。


「この馬車の中で確認しろ」


 エドゥアールに命じられ、渋々シャルロットは馬車の窓を開け、指輪を取り出した。

 恐る恐る月にかざしてみる。

 

 だが何の変化も起きなかった。


「駄目でしたわ」


 馬車は別荘とは逆方向に進んでいた。

 確認も終えたし、もう別荘に戻ろう。


「あの。今別荘に来ているのです。戻りたいのですが」


 彼は長い脚を高らかに組んだ。


「なぜ俺がここにいると思う?」

「そういえば、どうしてですの?」


 なぜ彼は王都から離れたこんなところにいるのだろうか。


「シャルロットを連れ帰りにラヴォワ家の別荘までやってきた。すると夜道を歩いている貴様を見つけた」

「わたくしを連れ帰る?」

「貴様は俺のものだ」


 エドゥアールはシャルロットの手を握り締めた。


「勝手に王都を離れるのは許せない」


 シャルロットは呆気にとられる。


「わたくしは、エドゥアール様のものではありませんわ。わたくしはわたくしのものです」


 するとエドゥアールは肩を揺すって笑った。


「俺のものだ」


 彼は端麗な顔を近づけ、キスをするような距離まで傍に寄った。


「デュティユー侯爵令息との婚約は解消しろ」


 目映い美貌のエドゥアールに至近距離で迫られ、鼓動が速まった。

 シャルロットは焦り、身を引いて叫んだ。


「馬車から降ろしてください!」

「もう大分別荘からは離れたぞ? ここから夜道を歩いて帰るのか?」


 ……今、兄と顔を合わせるのは気まずかった。

 シャルロットは動揺しているし、しばらく心を整理する時間が欲しかった。


「このまま王都まで俺と戻れ」


 兄から離れるには、王都の家に帰るしかない。

 シャルロットは首を縦に振った。


「……わかりました」

「ん? いやに素直だな?」


 シャルロットはエドゥアールを睨む。


「降ろしてくれないのですから、王都に戻るしかありませんわ」


 エドゥアールは唇に笑みを刻む。


「今の婚約は解消しろよ」


 クロヴィスとの婚約は、ゲームが始まれば解消となるだろう。

 だがエドゥアールとどうこうなることもない。というかそれは最も避けたいことであった。

 シャルロットは横を向く。


「わたくしの婚約が解消となっても、エドゥアール様には関係ないことです」

「大いに関係ある。他の男といるんじゃない。一緒に別荘に行った兄も養子で実兄ではないのだろうが」


 シャルロットは目を伏せる。


「わたくしにとっては兄ですわ」

「向こうにとっては?」


 シャルロットが押し黙れば、顎に指をかけられ、彼のほうに顔を向けさせられた。


「俺をこれ以上嫉妬させるなよ」


 エドゥアールのセレストブルーの瞳が甘やかに煌めく。


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