41.兄と別荘に2
シャルロットはぎくりとしながら、はぐらかした。
「朝の新鮮な空気を吸いたくて。少し外に出ていたのですわ」
レオンスはさらりとした髪を揺らせ、首を横に振る。
「一人では危ない。出るときは、オレと出よう」
「はい……」
まだ試していない方法が一つあった。月にかざしてみることだ。ここに来てから夜は曇っていたので試せなかった。
今夜晴れたらこっそり抜け出そう、とシャルロットはひそかに企てた。
その日の夜は晴れた。
抜け出す算段をしていると、レオンスに隣室へ呼ばれた。
兄は突如切り出した。
「おまえとクロヴィスとの婚約だが、考え直したほうがいい」
長椅子で兄の隣に座ったシャルロットは首を傾げた。
「どうしてです?」
「おまえはクロヴィスを元々怖がっていたよね?」
「ええと……最初は確かに緊張していました。今は誠実な良いかただと思っています」
「婚約は解消したほうがいい」
兄ははっきり言葉にした。
「結婚は大分先だし、オレから父上に話すよ。いったん婚約は解消すべきだって」
「お兄様、突然どうしたんですの? クロヴィス様との結婚を賛成してらしたのに」
兄はくしゃりと髪をかきあげた。
「クロヴィスは悪い人間ではないが、おまえとはやはり合わないんじゃないかと思うんだよ。シャルロット、オレとクロヴィスと、どちらといるほうが居心地がよい?」
シャルロットは思考した。クロヴィスとはあまり話さないけれど、嫌というわけではない。
沈黙が続いても、落ち着く感じがする。真面目な彼への印象は良かった。
しかしレオンスとどちらといて、より居心地がよいかと問われれば、答えは兄になる。
兄妹という間柄で気を許せるし、兄はとても優しい。
「それはお兄様ですわ」
シャルロットがそう答えると、レオンスは微笑み、シャルロットを抱擁した。
「だろう? だからオレは考えたんだ。おまえとはオレが結婚しようと」
「……え?」
シャルロットが唖然とすると、レオンスは抱き寄せながら続けた。
「おまえを最も幸せにできるのは、オレだと思う。だからシャルロット、オレと結婚しよう」
兄はまた何を言っているのだろう?
シャルロットは目を丸くする。
「お兄様とわたくしは兄妹ですわ?」
「ああ、オレたちは兄妹だ。でも本当の兄妹ではなく、いとこなんだ。結婚できるよ」
確かにそうだけれど、記憶が戻ったあと、シャルロットはレオンスを兄としてみてきた。兄妹仲良くなりたいと。
「お兄様、冗談でしょう?」
レオンスはシャルロットの髪に指を絡める。
「本当はもう少し経ってから話そうと思っていたんだ。だが今のまま、おまえとクロヴィスが婚約しているのはつらいんだ」
兄はシャルロットの髪に口づける。
「異性としておまえが好きだから」
言葉を失うシャルロットをレオンスは切なげに見つめた。
「兄だと思っていたオレにこんなことを言われて、困るだろうね。だがこのまま兄として見守ることはできない」
「わ、わたくし……」
シャルロットはレオンスから離れ、立ち上がった。そんなことを言われて、今までと同じようにはいられなかった。
レオンスは哀しげに瞳に影を落とす。
「シャルロット……」
「……わたくしもお兄様のことは好きですわ。でも……お兄様はお兄様なのですわ……」
「突然、混乱させることを告げてしまってすまない。だが、今話したのがオレの正直な気持ちなんだ。今すぐには無理でも、いずれオレを受け入れてくれないか」
「し、失礼します……!」
シャルロットは逃げるように、隣の部屋に戻った。
思わず扉の鍵をかけてしまう。
(お兄様)
今の話は本当のことなのか。
兄が異性としてシャルロットのことを好きだなんて。何かの冗談なのではないだろうか。
ゲームではもちろん、こんな場面なかった。
レオンスは悪役令嬢に辟易しており、表面上だけ丁寧に接していて。
シャルロットは熱い頬を押さえる。今は混乱していて、何も考えられなかった。




