40.兄と別荘に1
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「シャルロット、別荘に行かないか?」
夜、レオンスに勉強を見てもらったあと、そう言われた。
「来年になれば、オレは寮に入る。週末と長期休暇以外では外出できないから。その前に、おまえといろいろなところに行って、思い出を作っておきたいんだ」
レオンスは来年、全寮制の魔法学院に入学する。今のようには過ごせなくなる。
シャルロットはそれを思えば、心に風が吹くような寂しい心地がした。いつも兄が傍にいるのが当たり前のようになっているので、心細い。
「だから二人だけで別荘に行かない?」
「二人だけで?」
「ああ。使用人は何人か連れて行くけれど、父上はお忙しいし、オレたち兄妹だけで」
シャルロットは考えた。
日々の鍛練は一人でもしようと思えば可能だった。
何より別荘の周囲は森が広がっていて、指輪を使う方法を試せる。
指輪をどのように使って願えばいいかまだわからないのだが、他の宝物の使用方法について幾つか本に載っていたのだ。
爆発などが起き被害が出てしまうといけないと躊躇していたが、別荘近くの森で試してみれば被害は最小限に抑えられる。
「はい、お兄様。行きます」
シャルロットが返事すると、レオンスは微笑み、シャルロットの額に口付けた。
「ありがとう、シャルロット」
耳元で囁かれ、シャルロットの胸はどきんと大きく音を立てた。
今日は自室で勉強を教えてもらっていたのだが、レオンスが退室すると寂しさを覚えた。
デュティユー侯爵家に行っていたときも、兄に会いたくなって帰ることにした。閉じ込められるのはもう御免被りたいけれども。
一週間後、シャルロットは兄と馬車で、ラヴォワ家の別荘へと向かった。
早朝に屋敷を出発し、暗くなる前には別荘に到着した。
景色の美しい場所で、空気は清々しい。
別荘の管理人に事前に知らせていたので、すでに室内は整えられていた。
シャルロットは二階の一室を使うことになった。兄の部屋は隣だ。
壁に扉がついていて、廊下に出なくても互いの部屋を行き来できるようになっている。
夕食と入浴を終え、シャルロットが本を読んでいると、二室の間にある扉が叩かれる音がした。
この扉をノックするのは兄だけである。
鍵はついていたが施錠せず、そのままにしていた。
「どうぞお兄様。開いていますわ」
扉が開き、レオンスが中に入ってきた。
兄は入浴したばかりのようで、髪の先がまだ少し濡れていて、それが色気をより醸し出していた。
「このあたりは暖かくて、過ごしやすいね」
「はい」
夜でも寒くなく、バルコニーの外には広大な自然が広がっていて、爽やかで心地よい。
「ここまで移動して、疲れただろう?」
「いえ、そんなことありませんわ」
「肩を解してあげるよ」
「え……そんな悪いですわ」
レオンスは微笑した。
「遠慮することはない。オレたちは兄妹なんだ」
兄に促がされて、シャルロットは長椅子に座った。
レオンスが肩を揉み解してくれれば、身体がぽかぽかと温まり、疲れがすべて消えていくような気がした。
「ありがとうございます、お兄様。とても気持ちよかったですわ」
兄はにっこり笑った。
シャルロットは温まったこともあって、うとうととしてしまう。
「眠くなったんだね」
兄はシャルロットを抱え上げ、寝台にシャルロットを横たえて、羽根布団をかけてくれる。
「おやすみ、シャルロット」
「……おやすみなさい」
抱きかかえられて、またどぎまぎしてしまった。
兄が退室しシャルロットはすうと眠りに引き込まれた。
あくる日はレオンスと別荘の近くにある泉に行き、散策した。シャルロットは指輪の使いかたを調べたかったが、兄がいつも傍にいるので試せなかった。
それでその翌朝、一人で別荘から出て森に行った。
光にかざしてみたり、呪文を唱えたり、魔法陣を描いたり、いろいろ試してみたが、一向に何かが起きる気配はなかった。
やはり、他の宝物の使用方法では駄目なのだろうか。
気落ちして別荘に戻ると、起きていた兄に不審そうに見られた。
「どこに行っていたの、シャルロット」




